第377話:おっぱいさんの対極に位置する
「でも凄草一株で増えるステータスパラメーターなんて、たかが知れてると思うよ。娘さんの危機的な状況は脱したかもしれんけど」
実際のところ、ステータスアップ薬草を食べてもあんまり数字が伸びてる感じはしないんだよな。
もっとも凄草食べた時どうなのかは、確認したことがないからわからん。
「まああんたが新鮮な凄草を持ってたって驚きゃしねえが」
「うむ、ユーラシア君はどこで凄草を手に入れたのだ?」
「魔境だよ。マンティコアがドロップすることがあるんだ。どういう理屈だかはわかんないけど、マンティコアが落とす凄草は新鮮なの」
シバさんがバサッとマントを翻す。
「感謝する。礼は必ずする。さらばだ!」
シバさんのが転移の玉の起動で掻き消える。
魔境行くのかもな。
でも夜になっちゃうぞ?
凄草はレアドロップだと思うんで、なかなか手に入らないんじゃないの?
でもシバさんはメッチャ雰囲気あるから、根性で入手しちゃうのかもなあ。
「ユーラシアさん、本当にありがとう。いずれお礼はさせてもらうから」
「え? いつもお世話になってるからいいんだよ」
「いいんだぬよ?」
「途中で入ってくるヴィルの芸、面白いな」
あたしもそう思う。
間がいいんだよなあ。
ヴィルはセンスある。
「ポロックさん、今日エルマっていう女の子来なかったかな?」
「ああ、午前中に来ていたよ」
ダンが興味を持ったようだ。
「エルマ? 女の冒険者か? どんなやつだ?」
「おっぱいさんの対極に位置するとしか」
途端に噴き出すポロックさん。
おっぱいさんはおっぱいさんだけど、ロリなエルマは可愛いとしか。
「新人の『アトラスの冒険者』ですよ。ユーラシアさんが手を貸してるんだね? 結構な固有能力持ちだったが」
「うーん、手を貸してると言われればまあそうなんだけど、あんまり冒険者向きの子じゃないと思うんだよね」
「向いてねえのに世話焼いてるのか? 矛盾してるだろ」
「何か本部で、女の子も『アトラスの冒険者』にしようって考え方があるみたいなんだ」
「あんたが活躍してるからだろ?」
「そーだ、あたしを尊べ。ってのはおいといて、バエちゃんの上司がエルマを強力に推薦したらしいんだよ。いきなり脱落じゃ評価下がっちゃうでしょ?」
ポロックさんが『バエちゃん?』って顔してるので、チュートリアルルームの係員の女性と説明しておいた。
クネクネお姉さんだよ。
「ほう、ユーラシアさんはチュートリアルルームの人と親しいのかい? 実はあまりギルドとは接点がないんですよ。簡単な連絡くらいで」
「こいつ、時々一緒に飯食ったりしてるんだぜ?」
この流れ、バエちゃんの素性に関わりそうでよくないな。
異世界どうこうの話は伏せておくべき。
さりげなく話題を戻す。
「バエちゃんが言うには、『アトラスの冒険者』って、ギルドに来るまでに半分くらい脱落しちゃうんだって。エルマも最初のテストモンスター倒すのにやっとこさっとこだった。到底最初のクエストをこなせそうにないから、ちょっと魔境連れてったんだ」
「ははあ、あんた困るとすぐ魔境だな」
「ダンだったらどうするんだよ。言っとくけど他人事じゃないんだぞ?」
「どういうことだ?」
バエちゃんが上申するって言ってたことを説明する。
「初期の脱落を防ぐために、先輩の冒険者が指導することになるみたい」
「ほう、いいね!」
「面倒くせえ」
ここでも善人と聖人(自称)の意見の乖離が。
「最初の新人選定の段階で厳選すればいいだけの話じゃねえか」
「あたしも似たようなこと言ったんだけど、それだとソル君みたいな子も弾かれちゃうだろうって」
「む……」
ソル君は今や押しも押されもせぬドラゴンスレイヤーだが、初めはすごく苦労してた。
最初恵まれてる子とあとから伸びる子は一緒じゃないしな。
「エルマさんは『大器晩成』という、レベルアップは遅いがスキルをたくさん習得するというレア能力をお持ちですよ。もう一つ『マジックポイント自動回復二%』があります」
ダンがヒューと口笛を吹く。
「固有能力複数持ちかよ。最初さえクリアすれば冒険者でやっていけるという判断か?」
「いや、違くて。一三歳の女の子が冒険者としてやっていくって厳しいでしょ? 特に仲間集めとか」
「カールみたいなやつもいるぜ?」
「この世界は変態紳士だけで構成されてるわけじゃないし」
そんな世界があったら今すぐ滅べ。
「あたし、ギルド来た時楽しかったよ。エルマだって冒険者がムリでも、ここまで来られればいろんな経験ができると思うんだ。ポロックさんみたいな人がいる、ダンみたいなやつがいるって知るだけで収穫じゃん」
ポロックさんが頷く。
「だからお手伝いですか」
「いや、多分こいつはレベルアップしたらどんなスキル覚えるのか、興味本位で魔境連れてっただけだぜ?」
「そーゆー側面があったことは否定しないけれども」
「さっきの先輩冒険者が教えるってやつ、あんたが煽ったんだろ?」
「初期脱落者が減って現役冒険者の数が多くなれば、アイテム売買と依頼所クエスト仲介料で儲かるみたいな話はしたけれども」
「全部好き放題やってんじゃねえか」
皆で笑う。
ヴィルも嬉しそう。
よしよし。
「どんな人を『アトラスの冒険者』に選ぶか。選んだ子をどうやって育てるかってのは、重要な課題だと思うわ」
「優秀なやつは続くってだけじゃねえのか?」
ポロックさんも頷いてる。
チュートリアルルームと濃い情報のやり取りがないってのは本当っぽいな。
「ダンは最初からレベルあったし、冒険者がどんなものか知ってたからそう思うんだろうけどな。いくら素質があったとしても、シロートに武器渡してさあ魔物倒せってのはあんまりだと思うわ。あたしだって最初スライム一匹に大苦戦したわ」
「ユーラシアさんがかい?」
「今じゃ考えられねえが」
未経験者だぞ?
先輩が指導するのは必要なことだよ。
「あたし帰るね」
「ああ、気をつけてね」
「ヴィルもじゃあな」
「バイバイぬ!」
「あっ、ダン。これ食堂の大将に渡して、皆に安く振る舞ってもらってよ」
「ワイバーンの卵じゃねえか。いいのか?」
「いいんだよ。じゃあねー」
転移の玉を起動し帰宅する。
『クエストを完了しました。ボーナス経験値が付与されます』
これもクエストだったのか。




