第376話:甘いものは別腹
帰宅してすぐに畑番の精霊カカシに謝る。
「カカシごめん! 急遽凄草一つ必要になった」
「おう、そうか。最終的に四八株になれば計算上毎日食える数だから、今日の分はどうでもいいんだぜ?」
「だよね。でもせっかく取ってきたのに悪かったねえ」
「いやいや、ユーちゃんが言うからには絶対に必要なんだろ? ユーちゃんはムダなことしねえからな」
「ありがとう!」
うちの子達は物わかりがよくて助かるなあ。
凄草一株を抜いてギルドへ戻る。
フイィィーンシュパパパッ。
「お待たせ! これ今すぐに娘さんに食べさせて」
「こ、これは?」
「凄草!」
凄草と聞いて三人が驚く。
「し、しかし娘は今、何も食べられなくて……」
「これは今すぐなら絶対食べられる。葉っぱ一枚ずつ生であげて。あたしを信じて!」
「わ、わかりました。お義父さん、しばらく受付の代理お願いします」
ポロックさんが転移の玉で飛ぶ。
よおし、バッチリ。
「シバさんの受付は迫力があるねえ」
「……」
何とゆーかシバさんは雰囲気が強者なんだよな。
さすが『最強の冒険者』の異名は伊達じゃないわ。
玄関から入ってきた冒険者がぎょっとしてて笑える。
ダンが肘をつついてくる。
「おい、能天気なこと言ってる場合かよ」
「娘さんのこと? もう大丈夫だって」
「あんたが大丈夫だって断言する理由がわからねえんだが」
「焦んなくても、あとで種明かしするってばよ」
「種明かしするぬよ?」
「あたしはおっぱいさんと買い取り屋さんに用があるんだ。じゃねー」
ギルド内部、おっぱいさんのところへ行く。
「サクラさん、こんにちはー」
「すごいお姉さん、こんにちはぬ!」
「ユーラシアさん、ヴィルちゃん、こんにちは。魔宝玉の預かりですか?」
「うん、お願いしまーす」
どさりと荷物を置く。
……しまった、おっぱいさんの黒い笑いが出そうだな。
ヴィル連れてきたのは失敗だったか?
かといって受付も雰囲気悪かったから、ヴィルもずっとあたしにくっついてたしな。
ま、いーや。
ぎゅっとしといたろ。
「少々お待ちください。……ベルさん、フリスクさん、よろしくお願いします」
武器・防具屋のベルさんと買い取り屋のフリスクさんは、ともにアイテムの判別ができる『道具屋の目』の固有能力を持っている。
この前もダブルチェックしてたから、今日も同じのようだ。
「はい、では確認いたします」
「お願いします」
ちなみに一粒万倍珠一個と降魔炎珠一個は家においてある。
リッチーを倒すことによって手に入れたやつで、イシュトバーンさんに見せてやろうと思ったからだ。
複数回確認したあと、おっぱいさんが宣言する。
「黄金皇珠六一個、羽仙泡珠二〇個、鳳凰双眸珠八個、邪鬼王斑珠二個、一粒万倍珠一個を新たにお預かりいたします。先日の分と併せまして、ただ今ドリフターズギルドでは黄金皇珠一一六個、羽仙泡珠四四個、鳳凰双眸珠一三個、邪鬼王斑珠二個、一粒万倍珠一個をお預かりいたしております」
周りに集まった冒険者がどよめく。
「この前も見たぜ、精霊使いの仕事」
「これ、ドーラを丸ごと買えるんじゃねえか?」
軽口が聞こえる。
魔宝玉でドーラが買えるんだったらどんなに楽か。
帝国のドーラ経営はうまくいっているとは言いがたい。
帝国と戦争になるのは他の植民地への建て前からだという考え方は、そう間違いとも思えない。
でも高級魔宝玉が豊富に取れると知ったら、いよいよ帝国がドーラを手放さない理由が増えちゃう。
「締め切り日の二七日にもう一度持ってくるね」
「期待してお待ち申し上げます」
おっぱいさんの怪しい笑顔。
「お、おい、今寒気感じなかったか?」
「あ、いや、うん」
何も知らない外野までおかしいと感じ始めてるぞ?
でもおっぱいさんが喜んでることは確かだし、あたしも何か楽しくなってきた。
頑張っちゃうぞー。
その後ギルド入り口の受付に戻った時、ちょうどポロックさんが現れた。
「ユーラシアさん、食べたよ! 全部奇麗に! 信じられない! ありがとう! 目に見えて元気になったんだ!」
こんなに興奮してるポロックさんは初めてかな。
感嘆符が目に見えるようだよ。
「よかったねえ」
「何と感謝したらいいか……」
「おい、どういうカラクリだよ。説明しろ」
ポロックさんやシバさんも聞きたいみたいだし。
「病気じゃないのに虚弱とゆーのはつまり、冒険者的に言うとパラメーターが足りない状態なんじゃないかな、と考えたんだよ」
「パラメーターが足りない?」
「最大ヒットポイントがないから御飯が食べられない。食べられないから身体もできてこないし動けない。動けないからお腹が減らない」
「悪循環だな」
「そう。でもパラメーターを上げてやれば……」
「食べられて動けて腹も減る、か。なるほど、簡単な理屈だな」
シバさんが聞いてくる。
「普段からムリにでもステータスアップの薬草を食べさせてやってればよかったろうか?」
「いやー、どうだろ? 難しかったと思うよ。ふつーのステータスアップ薬草はおいしくないもん。ただでさえ食べない子が、不味いもの食べるとは思えない」
ポロックさんとシバさんが頷く。
心当たりがあるのだろう。
似たようなことを考えて、試してみたことがあったのかもしれないな。
「じゃあ凄草は?」
「凄草はおいしいよ。ってゆーかメチャクチャ甘いの」
「「甘い?」」
「そ、そうなんだ。娘も甘い、おいしいって」
新鮮な凄草の味やはりあまり知られていないようだ。
シバさんが考えながら言う。
「凄草はオレも食ったことあるが、甘かった記憶がない」
「うちの畑番の精霊によると、凄草は魔力の豊富なところじゃないと育たないんだって。で、抜いてしばらくすると魔力が抜けるから、甘みがなくなって不味くなっちゃう」
「ほう、知らなかった」
「だから今すぐ食べさせろと……」
ダンが首をかしげる。
「しかしわからねえ。結構デカい株だったじゃねえか。全然食べられないような子が、どうしてあれを全部?」
「秘密があるんだよ」
「そ、それは?」
「甘いものは別腹なのだ」
唖然とする三人。
いや、実際には食べる端から最大ヒットポイントが増えて、次々食べられるってことなんじゃないかなーと思う。
甘さが食欲を出させるとか、食べ始めると勢いついちゃうってこともあるんだろうけどね。




