第370話:『大魔道士の祝福』
あたしの顔を見た瞬間ニコッとするペペさん。
起き抜けに美少女の顔を拝することができるのはありがたいことだから。
「ユーラシアちゃん、おはよう!」
「ペペさんがいるってことは、ひょっとしてあたし専用のスキル完成した?」
「あっ、できたできた!」
やっぱそーか。
魚フライフェスの日にもう二、三日でできるみたいなこと言ってたからな。
ペペさんが何やら紙を取り出す。
何だろう?
スキルスクロールじゃないし?
「ちょっと待ってね? 回復効果率二〇〇%、ヒットポイント自動回復一〇%、マジックポイント自動回復五%、クリティカル無効、能力低下無効を、味方全員に与える支援魔法でーす!」
「あんちょこかい! 自分で作った魔法の効果覚えとらんのかい!」
「覚えきれないほどの効果詰め込んだ魔法ってロマンじゃない?」
「ロマンだね」
すぐさま掌を返す。
あたしは正しいことは正しいと判定できる、賢い頭脳を持っているから。
「ユーラシアちゃんの固有能力だと、ほとんど支援効果のある魔法やバトルスキルは覚えてないと思うの」
「言われてみれば」
「どお? 判定は?」
褒めて欲しそうだなー。
有用な魔法なのは間違いない。
単純な能力値増加や属性攻撃耐性という効果じゃないから、他の支援系スキルと効果がほとんど被らないのも大きい。
もっともあたし達はレベルカンストしてるから、今更これほど強力な支援魔法が必要なのかって言われると疑問ではある。
強敵が出たら絶対使用してたはずのアトムの全方向強化魔法『スターアライズ』も使ったことないし。
この魔法を使用することで、メインアタッカーであるあたしのターンが一回潰れてしまうのもデメリットだな。
判定は……。
「おめでとう! これは精霊使いユーラシアの伝説に相応しい魔法だよ。そしてありがとう! 大魔道士ペペさんの比類なき魔道技術に拍手!」
パチパチパチパチ。
何だ何だと食堂から集まってた冒険者達が、笑顔と拍手でペペさんを讃える。
「ゆーらじあぢゃああああーん!」
「はいはい、泣かない泣かない」
顔を拭いてやる。
使うか使わないかなんてロマンには関係ないしな。
「ところでおいくらかな?」
「あ、五〇〇〇ゴールドです」
ピタッと泣き止むのな。
五〇〇〇ゴールドって『ヒール』と同じ値段かあ。
相変わらず値段設定がおかしい。
支払ってスキルスクロールを受け取る。
「この魔法、まだ名前がないの。ユーラシアちゃんがつけてくれる?」
「おおう、さすがあたし専用スキルだな。じゃあ『大魔道士の祝福』でどう?」
「大魔道士の……祝福?」
「大魔道士ペペさんにもう一度拍手!」
「ゆーらじあぢゃああああーん!」
よしよし。
あ、ヴィルまで引っついてきた。
合わせてよしよし。
可愛いやつらめ。
『大魔道士の祝福』は、ペペさんが持てる魔道技術を結集して作った魔法に違いない。
残念ながらうちのパーティーで活躍する機会はない魔法だ。
でも試し撃ちくらいはしておこ。
ペペさんが泣き止んで帰り支度を始めてると、あのツンツン銀髪のチャラい男が話しかけてきた。
「よう、今日のスキル売買も面白かったぜ」
「ダン専用のエンターテインメントじゃないんだけど」
「今日は楽しんでたやつ多かったじゃねえか。奢るぜ」
「ありがとう親友。あっ、今日はダメだ!」
意外そうな顔をするダン。
「遠慮するなんてつれねえじゃねえか」
「誰が遠慮なんてするか。あんたが奢ってあたしがたかる仲じゃないか」
「自分で言うのかよ」
呆れた顔すんな。
「正確な論述を旨としてるからね。いや、今日これからバエちゃんと御飯食べる約束してるの」
「何だ、先約があるのかよ」
「あたしは奢られる時は、お腹をすかせて万全な状態で望むことをモットーにしてるから」
「おお、ユーラシアらしい言い様だな」
納得したようだ。
「だから明日奢って?」
「何言ってんだ。俺はあんたの財布じゃねえからな?」
「そんないいもんじゃないって?」
「そうそう」
あっ、しまった、掛け合いのつもりがうまく逃げられた!
ダンのクセにやるじゃないか。
「魔境行ったってオニオンさんに聞いたよ。農場のメンバーなんでしょ?」
「ああ、本番が近いからな」
本番とはもちろん帝国との開戦を指す。
ダンの顔も心持ち引き締まって見える。
「パワーカードも一通り揃えたの? 結構な出費でしょ?」
「まあな。が、本番は待っちゃくれねえし、『エナメル皮』や『ワイバーンの爪』は結構な値段で売れるから、収支もマイナスになっちゃいねえんだ。訓練に魔境は悪くねえな」
『ワイバーンの爪』?
「もうワイバーン帯で戦ってるの? 注意しなよ?」
「あんたを泣かせるようなマネはしねえよ」
「奢ってくれる相手が減ると本当に泣けるんだぞ?」
互いの顔を見、そして笑う。
内緒話モード発動。
「『オーランファーム』は大丈夫そうだね」
「広いからな。不意を突かれたらある程度の被害が出るのはしょうがねえが……」
「元帝国の人の情報だと、ゲリラ部隊は数十人規模、隊長格で上級冒険者レベル、隊員で中級冒険者レベルだろうって」
ダンの目が鋭くなる。
「ほう、想定よりレベルは低い、か?」
「敵を甘く見ちゃダメだぞ。絶対にまともには来ない。奇襲夜襲で泡食うなよ?」
「おう、わかってるぜ」
ダンが似合わないウインクをする。
帝国がドーラのことを調べていれば、『オーランファーム』が襲撃対象になる確率は低くないと思われる。
しかしレベル五〇オーバーのダンと『威厳』持ちのカイルさんがいれば、数十人がかりでも持ちこたえられそう。
ギルドに近く、応援を得やすいという立地も有利だ。
敵工作兵も足止めを食らうとヤバいくらいのことはわかるだろ。
抵抗が強いと見ればすぐ撤退するかもな。
「冬越しの準備も本格化するんで、そう従業員を訓練に連れていけるわけじゃねえんだが」
「冬越しの準備は重要だもんなー」
農繁期じゃないから暇なのかと思ったけど、農場でも冬越しの準備は必要か。
「何か協力できることがあったら早めに言って」
「いや、こっちはマジで大丈夫だ」
「おお、自信だね」
「あんたが選りすぐってレベル上げした連中だぜ?」
ハハッと笑い合い、内緒話モードを解除する。
「じゃ、あたしは帰るよ」
「おう、またな」
「バイバイぬ!」
転移の玉を起動し帰宅する。




