第369話:アカデミックな有様
フイィィーンシュパパパッ。
うちの子達とともにアルアさん家にやって来た。
言うまでもなく素材を換金するためだが……。
「アルアさーん、こんにちは……何事?」
本がたくさん散らばってるぞ?
どーなってるの?
ここ図書室でも研究室でもなくて工房だよね?
「ああ、いらっしゃい」
「アルアさん、疲れてちゃってる?」
「まあね」
アルアさんがため息を吐く。
「肩揉んであげようか?」
「アンタ、レベルカンストしてるって話じゃないか。身体が壊れちまうよ」
「そーいやそうだ。手加減できるかわかんないや。今度イシュトバーンさんで試してみよ」
アルアさんと目が合い、アハハと笑い合う。
「で、この高尚かつアカデミックな有様はどーしたのかな?」
再びアルアさんが大きくため息を吐く。
諦めにも似た表情だ。
「ゼンがやる気満々でね。精力的に製作と研究に取り組んでいたんだよ」
「へー、頑張ってるんだなあ。ゼンさんはここ来た時から全力だったよね?」
「パワーカードは素材の理解が命だろう? 素材の図鑑やら解説書やらを読み漁っていたのさ」
「……過去形だね?」
素材の理解が命なのは何となくわかる。
そして仕事にのめり込むこと自体はいいことに違いないが?
「今倒れて寝てる」
「あちゃー」
ゼンさんって周りが見えなくて突っ走る傾向があるよな。
仕事のしわ寄せがアルアさんに来てるってことか。
「もう一人弟子が欲しいね」
「うーん」
「ゼンが知ってるアタシの弟子と言うと、既に一人前だったコルムだろう? コルムのイメージがあるのかもしれないけど、ゼンはガムシャラ過ぎるんだよ」
ゼンさんは早くコルム兄みたいになりたいって思ってるんだろう。
コルム兄は自分で対人形系用パワーカード『アンリミテッド』を開発しちゃうくらい、腕のある人だ。
何年も経験のある人にいきなり追いつこうったってなあ。
「もう一人弟子を入れてゼンさんが世話をしてれば、焦ることないってわかるもんねえ」
「そういうことなんだよ。アンタ、心当たりはないかい?」
「ないけど探しとくね」
「頼むよ」
基本的なものだけ作れるライトな職人がいてもいいしな。
いずれにしてもパワーカード職人が増えるのは、あたしにとってもいいことだから。
「これ、お土産のコブタ肉だよ。ゼンさんともども精をつけてよ」
「おや、ありがとよ」
「申し訳ないけど、素材換金してもらっていいかな?」
「何だい。遠慮しなくたっていいんだよ、寄越しな」
『逆鱗』と『巨人樫の幹』は家に置いてきたけど、エルにもらった素材がかなりあったので、交換ポイントは五四九となった。
「パワーカードと交換してくかい?」
「今はいいや」
クララとダンテの防御力と魔法力、自動回復のバランスは詰める余地がある。
でも細かいこと考えなくても魔物に苦戦することないしな。
いずれ何かの特殊なクエストで新しいカードが必要になるかもしれないから、交換の余裕は残しておくのだ。
「ヴィルカモン!」
「あの可愛い悪魔っ子かい?」
「そうそう」
しばらくの後に現れるいい子。
「御主人の召喚に応じ、ヴィル参上ぬ!」
「今日のセリフ格好よかったねえ」
「そうかぬ?」
嬉しそうだ。
よしよし、いい子だね。
「アルアさんが疲れてるようなんだよ。ぎゅーしてあげてくれる?」
「わかったぬ! ぎゅー」
「ああ、ありがとうよ。いい子だねえ」
「いい子ぬよ?」
ちょっとでもアルアさんがリラックスできますように。
◇
アルアさん家から外に出、ギルドへの転移石碑へと向かう。
結構不用品があるから、買い取ってもらわないとな。
「ヴィル、アルアさんの調子どうだった?」
「心は満足してたぬよ」
弟子のゼンさんは一生懸命だし、自身の仕事も充実しているからだろう。
でも高齢なのは間違いないしな。
体力的な面で心配だ。
やはり弟子をもう一人ってのは重要な課題だわ。
「転移石碑ってさ、一人ずつしか転移できないのが面倒だよねえ」
「転送魔法陣と違って、厳密に指定された転移先ビーコンに飛ぶ仕組みなんですよ。二人以上同時に転移すると、転移先でぶつかってしまうと思います」
「おお、さすクラ」
同じ転移転送のシステムでも細かい違いがあるんだなあ。
転移石碑からギルドへ。
「やあ、ユーラシアさん。今日もチャーミングですね」
「こんにちはー、ポロックさん」
昨日も思ったが、若干ポロックさんの表情が固いか?
戦争があることを知らされると仕方ないだろう。
うちの子達が揃ったところでギルド内部へ。
あれ、おっぱいさんが手招きしてる。
何か用かな?
「こんにちはー」
「すごいお姉さん、こんにちはぬ!」
ニコッとしたあと、眼鏡をクイッとするおっぱいさん。
「例の魔宝玉クエストに関してですけども、その後順調でいらっしゃいますか?」
「ビックリするくらいまあまあかな。依頼主さんには嫌でも満足してもらう」
だから笑顔がブラックだってばよ。
おっぱいさんのその表情ほんと怖い。
「大変申し訳ありませんけれども、当方の搬送の都合上、納品の締め切りを妖姫の月二七日にさせていただきたいのです」
「今月の二七日ね。うん、わかった」
残り一〇日か。
もう少し真剣に稼いだ方がいいか?
「これ、依頼主さんにもうこれだけ魔宝玉が集まってるよってことは伝えてないのかな?」
「まだ伝えておりませんね」
「元商人のイシュトバーンさんにケツの毛まで抜けって言われてるんだけど、あたしそんなんいらないんだよね」
「ぺんぺん草も生えないくらいに毟り取ってください」
「怖いぬ!」
ヴィルがへばりついてくる。
あたしだって怖いわ。
もーおっぱいさんから立ち昇るオーラが尋常じゃないんですけど?
マジで誰だ依頼者。
でもえらい期待されちゃってるから、あたしも気合入れて魔宝玉狩りにいそしむことにするか。
依頼受付所を後にし、買い取り屋さんでアイテムを処分する。
で、お店ゾーンの一番食堂寄り、紫色の帽子が寝ている。
いや、比喩でも何でもなくて、身体に比べて帽子がデカいんだよな。
「たのもう!」
「ふあっ?」
見た目は子供で頭脳は大人、精神は子供で実年齢は大人のオリジナルスキル屋の店主、ペペさんが飛び起きる。
気分よく寝てるとこ起こすのは、罪悪感がなくもない。
でもペペさんが出勤してるってことは、何か用があるんじゃないかな。




