第366話:雨の上がった日
――――――――――七八日目。
「よーし、今日はいい天気だ! そろそろ行くぞー」
「「「了解!」」」
イシュトバーンさんが注文し、青の民族長セレシアさんが仕立てた服ができ上がっているそーだ。
取りに行って届けないとな。
灰の民の村までのんびり歩く。
クララの『フライ』ならすぐだけど、歩いて周りの様子も見ていきたいじゃないか。
あたしん家から村までの道は水はけがいいので、昨日の雨にも拘わらずぬかるんではいないのだ。
「来年暖かくなると、ごわさーっと繁殖しますよ」
「ごわさーってのはいいねえ。お腹が一杯になる気がする」
湧き水のところに植えたクレソンのことだ。
クララが言うなら間違いないな。
魔境での増え具合はまさに『ごわさーっ』という表現に相応しかった。
あれだけ山盛りだと食べでがあるなあ。
楽しみだ。
「姐御、葉っぱじゃ腹は膨れやせんぜ」
「ソンナコトないね。アリトルスパイシーで、ミーはライクね」
「あれ、こんなところに対立が」
「文句を言わずに何でも食べないとダメですよ」
「「「了解!」」」
クララが母ちゃん化してきたぞ?
さらに歩を進め、灰の民の村の門が見えてくる。
サイナスさんの家へ、と。
「おっはよー、あれ、アレク?」
「いらっしゃい」
「ユー姉、久しぶり」
「昨日会ってるじゃないか。そんなにあたしに会うのが待ち遠しかったのか。この可愛いやつめ」
「隙あらば漫才始めようとしないでくれ」
隙なんかなくても漫才を始めたいんだとゆーのに。
乙女心を察しろ。
「これ、セレシア族長から預かってた荷物」
「ありがとう」
「三五〇ゴールド二着で七〇〇ゴールドな。払っておいたから」
「はい、七〇〇ゴールド」
おゼゼを渡し、包みを受け取る。
思ったより随分安いな。
イシュトバーンさんの注文だからサービスしてくれたのかしらん?
金持ちからはふんだくればいいのに。
「それが例の、イシュトバーンさんの宿題?」
「うん」
「宿題?」
サイナスさんには詳しいこと話してなかったな。
興味を持ったようだ。
「イシュトバーンさんって相当な女好きでさ、日々に潤いが欲しいんだって」
「ふむ?」
「で、あたしにどうにかしろって無茶振りしてきたから、セレシアさんにお付きの女性用の服注文しろって勧めたの。そしたらイシュトバーンさんが扇情的に、お付きの女性は露出少なくって希望だったんだよ」
「「ははあ」」
サイナスさんとアレクが頷く。
「両者の希望を落とし込んだ服がこれか」
「ちょっとどんな仕上がりだか想像できないじゃん? セレシアさん相当自信あったみたいだからさ。あたしもエンタメを感じるんだ」
「結果次第でイシュトバーンさんの助力の程度が変わってくるんでしょ? 結構重要なんじゃないの?」
「大事だねえ。まーセレシアさんの頑張り度合いが結果に反映されると考えると、高みの見物が正しいね」
「ひどい」
あとはセレシアさんが自分で勝利を勝ち取れって話だわ。
決してひどくないわ。
「サイナスさん、ちょっとアレク逞しくなったでしょ?」
「見違えたね」
「逞しいですか?」
「レベルが上がると違うわ」
嬉しそうだな。
「次の隊商について行ってみるといいよ。いつだっけ?」
「四日後だな。オレがアレクを紹介しておこうか?」
「いや、アレクとフェイさんは焼き肉親睦会の時に面識あるんだ。顔合わせなら、輸送隊が帰ってきてからのほうがいいと思うんだ。あ、他色の民の輸送隊候補どうなってるんだろ? 聞いといてくれない?」
「わかったよ」
アレクはレベル的に仕上がっている。
他の民のメンバー候補見るのが先決だな。
「レイノス行くの初めてだからワクワクする」
「今はまだヨハンさんの商隊にくっついてく格好だから、あんまり自由がないかもな。完全にカラーズ輸送隊に任されるようになると、レイノスで自由時間が取れるだろうけど」
「うん」
先々楽しみってことだよ。
「じゃ、あたし帰るね」
「気をつけてな」
「またね」
転移の玉を起動し帰宅する。
◇
フイィィーンシュパパパッ。
「これは精霊使い殿。よくぞいらした」
イシュトバーンさん家にやってきた。
ここの警備員はちゃんとしてるなあ。
「注文もらってた服ができたから、届けに来ましたよ」
「こちらへどうぞ」
屋敷に案内される。
「ひょっとして警備員さんは、あたしの番のためにあの転送先に張りついてるの?」
「さようです」
「うわ、何かごめんなさい」
「いえいえ、精霊使い殿と知り合われて、旦那様も日々充実しているようですので」
そう言ってもらえると嬉しいけど。
「おう来たか、精霊使い」
「こんにちはー。例の服できたよ」
イシュトバーンさんの依頼に応えた、セレシアさん作の服の包みを手渡した。
「さて、どういう回答かな」
「あたしも教えてもらってないんだ。ちょっと想像できないよねえ」
「おう、これに着替えてこい」
お付きの女性に渡す。
「フェスからこっち、変わったことあったか? 愉快なことでもいい」
変わったことと愉快なことはどこが違うんだよ。
「雨降ってたからな……あっ、昨日面白い子に会った。『アトラスの冒険者』の新人さん。『アトラスの冒険者』って男子だけしか採用しない方針だったらしいんだけど、あたしが活躍してるから女の子も試験的に入れてみようってことになったんだって」
「ふむ? あんたも女の子じゃねえか」
「あたしはほら、超絶美少女だから」
「なるほど、ゴリ押しってことだな?」
あたしがゴリ押したわけじゃないよ。
こら、警備員さん肩が上下してるけど。
声出して笑っていいんだよ?
「で、その子がカラーズ緑の民の一三歳の女の子で、『大器晩成』っていうかなりレアな固有能力持ち」
「『大器晩成』か。知らねえな。どんなやつだ?」
「あれ、いい女かどうか聞かないんだね?」
一三歳は守備範囲外だったか?
「あんたが面白いって言うからにはいい女なんだろう。いい女ってのは、見栄えだけの話じゃねえからな」
へー、イシュトバーンさんなりのいい女哲学があるんだな。
見直したよ。
「『大器晩成』は、かなり多数のスキルを覚えるんだけど、反面レベルアップが遅いっていう固有能力ね」
「ほう、難儀な能力だな」
難儀な能力か。
レベルアップが遅いというデメリットは、確かにイシュトバーンさんの発した難儀の一言に集約できる。
あたしはどこからどう見てもいい女だけど。




