第364話:空の敵
「リリーと黒服さんは知ってるけど、帝国が攻めてくる。皆も警戒してて欲しい」
全員の緊張が高まる。
内緒話だからある程度の想定はしてたかもしれないが。
ジンが聞いてくる。
「帝国からの輸入が細ってることは知ってましたが、帝国が攻めてくるのは確かな情報ですか?」
「確かだよ。時期は不確定だけどおそらく一ヶ月以内」
「「「「「「「一ヶ月以内?」」」」」」」
全員が驚く。
リリーや黒服もここまでは知らなかったか。
当たり前だな。
新しい情報を得る術がないんだし。
「いや、ユーラシアが言うなら正しいのだろう。我がドーラに来た手法も知っていたくらいだからの」
黒服が頷く。
「リリーと黒服さんがドーラに来た手法というのが、海の一族に気付かれない小舟っていう、帝国の新技術ね。かなり危ない」
「リリーは危ない技術を使って上陸したのか」
「皇女が使う手法としては考えられんけどね。帝国はその新技術を使って、工作兵を送り込んでくるって考えられてる。西域を引っ掻き回し、物流を麻痺させるつもりでしょ。主戦場はレイノスで帝国艦隊との砲撃戦になるけど、戦いが長引いて西域からの物資が止まるとちょっとヤバい」
ハオランが眉を『ハ』の字にして言う。
「街道の複数個所で襲われたら難しい」
「ハオランの言う通りなんだけど、土地勘が帝国にあるかな? リリー、黒服さん、どう思う?」
この辺はドーラ人では何とも。
帝国がどれくらいドーラのことを把握しているかなんてわからない。
「あの舟は心細いのだぞ。大勢だと見つかってしまう」
「ええ、小舟の数があったとしても、せいぜい数十人規模までだと。土地勘どころか、大雑把なドーラの地図しか持っていないと思います」
やはり数十人規模か。
ドーラにだって全土の詳しい地図はないもんな。
しかし訓練された数十人にまとまって動かれると厄介だ。
逆に小分けゲリラ戦はないか?
「帝国には潜入を専門の任務とする部隊みたいなのがあるのかな? 正直黒服さんクラスの人が集団で襲ってこられると困るんだけど」
「特殊工作部隊があります。レベルは隊長格で上級冒険者程度、隊員で中級冒険者程度かと思います」
大体予想通りだな。
しかし特別に訓練された部隊は、レベル以上に手強いと思わなくちゃいけない。
「だってよ。頑張ってね」
「「「「「「おい!」」」」」」
エルが声を荒げる。
「ここまで話して丸投げか? 無責任過ぎるだろう!」
無責任言われても。
「声のトーン落としなよ。今の黒服さんの言葉には重要な示唆があったでしょ?」
「示唆?」
「レベルと人数だよ」
「なるほど?」
「敵の正体がわからない。いきなり攻撃食らうかもっていう状況ではないじゃん。あたし達は地の利があって待ち構えてる側」
「うんうん、わかるぞ」
「もし最大で数十人しかいない潜入兵を分散させてくるなら、一時的に混乱は大きくなるだろうけど、少しずつ潰していけば最終的に大した被害にならないよ」
全員が頷く。
「となれば潜入工作兵は一塊で動き、どこかを拠点として街道を分断したり輸送隊襲ったりするんじゃないの? ただ、それ以上のことはわからないよ」
自由開拓民集落だって何十とあるしな。
それこそカトマスを落とそうとするかもしれないし。
いや、冒険者が多くてギルドからもすぐ応援が駆けつけそうなカトマスを落とすのはムリだろうけど、短期的な混乱を狙うならありなのかも。
この辺は帝国軍の戦略にもよる。
「私達のできることは何だ?」
「できるだけレベルを上げること、集団戦があることを念頭に置くこと、戦争があることを誰にも言わないことだね」
リリーが疑問を口にする。
「最後のは何故だ? 戦争があることを知らせないと、準備が間に合わないのではないか?」
「砲撃戦と潜入ゲリラだぞ? 一般市民が知ったところで何ができるってゆーんだ。情報が漏れることで大騒ぎになったら、不測の事態が起きるよ」
黒服が言う。
「ユーラシア様が仰ることはわかります。帝国の取れる手は限られておりますので、落ち着いて対処すれば問題ありません」
「そうそう、ぶっちゃけ砲撃でレイノスを落とせるはずがないからさ。密かに潜入する部隊に注意してさえすればいいよ。潜入工作兵に苦戦すると人死にが増えるから、なるべくレベル上げといてねってこと」
エルが疑わしげな顔を向ける。
「負けるとわかってる国がどうして攻めてくるんだ。君、まだ何か隠してるだろう?」
「案外鋭いなー。帝国には秘密兵器があるんだ。ただしその正体はわからないし、リリーや黒服さんが詳しい事情を知ってるわけがない」
まあ本の世界のアリスが知らなかったくらいだから。
「秘密兵器が完成すると攻めてくるっぽい。で、秘密兵器の試作機が完成するまでに二~三週間だって」
「そこまでわかってて正体がわからないのか?」
「美少女精霊使いたるあたしの情報網にだって限界はあるんだもん。確かな情報じゃないけど、『空の敵』はキーワードかも知れない」
「空の敵……?」
おやリリー、何か心当たりが?
「昔の話だが、技術者との会食時に飛空艇の話が出たことがあったのだ」
「飛空艇?」
何じゃそら?
「空を飛ぶ巨大な船だ。資金さえあれば製造可能だとのこと」
「マジかよ。帝国はすごいな」
確かに空飛ぶ巨大軍艦があって空からドカドカ爆弾落とされたら、絶望感半端ないわ。
すぐ降参したくなるわ。
秘密兵器の名に相応しいな。
「魔法や砲撃で狙い撃ちされると弱いので軍用にはならんとのことだった。しかし同席していた魔道士が、魔道結界を張って防御を固めることは可能ですよと。その場では単なる笑い話で、以降飛空艇の話を聞いたことは一度もないのだが……」
「おお、初めてリリーが皇女らしいところを見せたよ!」
「もっと驚け」
驚くだけでいいのかよ。
安っぽい皇女だな。
「ありがとう。飛空艇ってゆーものが可能だってことだけは記憶しとくよ」
「うむ。腹が減ったの」
「こら、この展開でそういうこと口にするから安っぽい皇女だって言われるんだぞ?」
「言ってるのはぬしだろうが!」
「あたしもお腹減ったけれども」
皆で笑い合い、内緒話モードを解除する。
塔の村の皆への注意喚起としては十分だろう。
「魚フライ盛り合わせ大皿とコウモリ肉唐揚げセット三つずつ!」




