第356話:アレクにまつわるエトセトラ
「走り出すと止まらないんだねえ。おいちゃんビックリだよ」
「制御の利かない高速船みたいにゆーな。あたしの類稀なる長所だと思ってるんだから」
即行でアレクを拉致してきたニヤニヤ。
きまりの悪そうなアレクを含め、エルのパーティーを含めた皆で食堂のテーブルを囲む。
しかしちょんまげってムードメーカーなんだな。
ただの雰囲気読まない自由人かと思ってたけど。
「アレク、大変だよ。エルにラブな人がいるらしいよ」
「えっ!」
「いや、厳密にはラブな人というのではないのでござるが……」
「エル様にモーションらしきものをかけてくるというか、思わせぶりな様子を見せる人がいるというか……」
「おいちゃんの見る限り、エルちゃんも憎からず思っているに違いないでがす」
「ちょんまげの語尾って安定してないの?」
おかしなところが気になってしまったわ。
実直そうなチャグが言うことによると、問題の人物とエルはラブな関係でないと思われる。
ただいつもスパッと言い放つコケシの歯切れが悪い。
じゃあ案外ちょんまげの言うことが正しいんじゃないか?
とゆーことは……。
「よし、安心しろ。あたしのラブセンサーによればまだ全然遅くないよ。アレクの目はある。油断はできないけど」
「う、うん」
エルが苦笑してる。
話題がおっぱいだとすぐパンクするクセに、自分のラブ話には余裕あるのな。
「ちゃんとあのタスキ使ってくれてるじゃないか。見込みあるって」
「ユーラシアはこれがアレクからのプレゼントだってことは知ってるんだな?」
「あたしがアレクをけしかけたから。エルにこれ渡せって」
「ははあ」
呆れた顔すんな。
愛の川の渡し守であるあたしが協力するのは当たり前だろうがニヤニヤ。
「どうしてアレクを応援するんだい?」
「だってアレクは大事な弟分だし、エルは大事な友達だから」
「「面白がってるだけだろ」」
「エンタメという理由は何物にも優先するけれども」
「優先するぬよ?」
エルとアレクがハモった上、精霊全員が胡散臭げな表情なのはいただけない。
何故だ?
真実だってちょびっとは含まれているとゆーのに。
主人に忠実なのはヴィルだけだ。
「要するにアレクがお子様だから恋愛対象にならない、ということなんだね? デス爺の孫だから嫌いとかじゃないよね?」
どーもエルはデス爺をあまり信用していないみたいだから。
「ハハッ、別に嫌いなもんか」
「嫌いじゃないぬ!」
よーしヴィル偉い!
ナイスアシストだ。
アレクの顔が紅潮する。
わかりやすっ!
「さて、ボク達はダンジョンへ行く時間だ。失礼するよ」
「行ってらー」「行ってらっしゃい」
エルのパーティーを送り出し、アレクと向かい合う。
「さて、アレク君の問題点が明らかになりました。何とかせねば、アレク君の恋が儚く散ってしまいますちゃんちゃん」
「未成年なのが問題ってどうにもならなくない?」
「安心しなさい。あたしに秘策がある。でもここじゃ話せないこともあるから場所変えよう」
「ん」
デス爺の小屋へ。
◇
「忘れてたけど、この子うちの悪魔のヴィルね」
「紹介遅くない? いい子だとは聞いてるけど」
「いい子ぬよ?」
「よろしくね」
「よろしくお願いしますぬ!」
誰に紹介してないんだか、あんまり覚えてないだけだ。
とはゆーものの悪魔を嫌う人もいるだろうから、あたしもヴィルの紹介に慎重になってる部分はある。
もう少しあたしに信用とか実力とか知名度があったら、と思わないでもない。
ヴィルの頭を撫でてやる。
「カラーズの商売でさ、灰の民からも輸送隊の人員出してくれって言われてるんだけど、アレクやってみない?」
「いきなりだね。え、もしかして秘策ってそれ?」
アレクが戸惑っている。
「ま、アレクが輸送隊なんてもんには興味がないだろうな、とゆーことはわかってる」
「興味がないわけじゃないよ。でも輸送は黄の民が担当するって話じゃなかったの? それにボクが未成年なのは全然解決されてないんだけど」
「黄の民だけでやるってのは問題があるんだよ」
「独占で輸送費吊り上げたりしたら、他の村が反発するってこと?」
「それもあるね。加えて黄の民は人間が単純にできてるからか知らんけど、総じて状態異常耐性が低いんだ」
「……ははあ、盗賊対策か」
「御名答」
将来的には、絶対安全確実な輸送隊としてブランド化したいのだ。
だけど盗賊に睡眠や麻痺の効果のあるバトルスキルなり魔法なりを使える者がいる場合は信頼できませんじゃ、どうにも間が抜けてる。
「まあパワーのある黄の民が主力でやることには変わりないよ。でも各種の事情で、他色の民も少しずつ出そうってことになってるの」
「うん、各種の事情まではわかった。で、未成年問題は?」
「あたしがゴリ押せば何とでも」
露骨に引くなよ。
輸送隊に未成年はダメとか決まってないだけだってば。
「自慢じゃないけど、ボクは腕力には自信ないんだ。ユー姉も知ってるでしょ?」
「ほんとに自慢にならないな。でもエルだって腕力のある人ない人どっちがいいって言われて、ない人と答えることはないと思うぞ?」
「……」
「腕力はパワー自慢に任せておきなよ。輸送隊の仕事に必要のなのは、パワーだけじゃないでしょ? 今決まってるところでは、脳筋が隊長で実務一切を副隊長の女性が取り仕切る体制になりそうなんだ。で、他の隊員も脳筋」
「歪だね。なるほど、ボクにその副隊長を補佐する役割をってことか」
正解です。
「道中の安全のために、隊員はあたしがレベリングすることになってるんだ。だけどどうせレベル上げるなら固有能力持ちのがいいでしょ? とゆーことなら灰の民からはアレクが適任だなって」
皆東の掃討戦獲得地にかかりっきりで、人員を割けないってこともあるしな。
アレクは未成年の本の虫だから、新領地を手伝う要員には数えられていないから。
「えっ? ボク固有能力持ちなんだ?」
知らなかったか。
すごく嬉しそうじゃないか。
「うん。でもあたしじゃ何の能力かまではわかんない」
「『ギャグセンス』の固有能力とかだったら役に立たないんだけど?」
「素敵な固有能力じゃん。あたしが欲しいわ」
「ユー姉は元々ギャグセンスの塊じゃないか」
「それもそーだ」
こらアトム、始まったぞーって顔すんな。
しっかりツッコんできなさい。




