第354話:エルの欲しいパワーカード
四人組が去ったあと、チラッとエルを見て一言かける。
「似合ってるよ」
「そうかい?」
青の民セレシアさんのショップで買った、例のタスキみたいな小物入れだ。
気に入って使ってくれてるみたいだな。
結構なことだ。
このアイテムはあたしがアレクに渡し、エルにプレゼントするようけしかけたやつだ。
でもどういう経緯でアレクが贈ったのかわからんから触れづらいな。
下手に弄ると拗れることもありそう。
おっぱい小さいエルに似合うということに気付かされたのもやりにくい。
「どうせ胸が小さいから似合うとか思ってるんだろう?」
「メッチャ思ってる。『無乳』に加えて『読心術』が固有能力に加わったならそう言ってよ」
「ユーラシアさん、無乳はひどいです。せめて貧乳と」
「こらコケシ! 自分にウソを吐くな!」
「自分を偽ってごめんなさい。エル様は無乳です」
「うがーっ!」
しまった、ヴィルを呼んでない。
「クララ、精神安定剤」
「は、はい。ぎゅー」
「ああ、心休まる……」
「ヴィルカモン!」
しばらくの後、姿を現すヴィル。
よしよし、いい子だね。
「ヴィル参上ぬ! ……どうかしたかぬ?」
「ごめんね、先に呼んどくべきだった。ヴィルのお仕事だったのに」
代わりにあたしがヴィルをぎゅっとしてやる。
塔の村に来る時は、最初からヴィルを呼んどくのがいいかもしれないな。
エルの精神衛生上。
……ただ戦争前なので、皇女リリーと連絡を取って内緒の話を聞きたい場面はありそう。
ヴィルがいると何だかんだで目立つからな。
少しずつヴィルの存在を塔の村の冒険者に慣らさないといけない。
「ふう、君達の掛け合いは命が縮まる気がする」
「コケシの寿命は延びそうだからトントンかなあ?」
「そんな平均の取り方があるか!」
冗談だとゆーのに。
あれ、コケシはツヤツヤしてるね?
コケシは自分の主人がプンスカしてれば何でもいいのかな?
実にひどい精霊だなあ。
「エルの振りが絶妙だから、ノらないと芸人として負けのような気がする」
「ユーラシアは芸人じゃないだろう?」
「ごもっとも。自分の職業を忘れてたわ」
「まあそれはいいから……」
「えっ? 無乳はいいんですか?」
「コケシのカットインは残酷だな。エルはよくこんなのを野放しにしてると思う。器が大きいよ」
当然『胸は小さいですけれども』っていうコケシのツッコミを期待した振りだった。
さらに『ないの間違いだろ』という答えを用意してたんだけど、クララがコケシの口を押さえてた。
まあクララのレベルはコケシよりうんと高いから、コケシは何にもできないだろうなあ。
クララの行為は人道的には正しいけれども、エンターテインメントを潰されたのはちょっと切ない。
『器が大きい』に気を良くしたか、エルが話を続ける。
「ユーラシアが以前、コルムさんに製作してもらってた『アンリミテッド』ってパワーカードがあるだろう?」
「うん、あの対人形系レアの決定版ね」
衝波の攻撃属性付きのカードだ。
あれさえ装備してればふつーに殴っただけでも人形系の魔物からダメージが取れる。
『アンリミテッド』のおかげでレベルカンストしたし、魔宝玉クエストをこなせてるようなもん。
「ボクも欲しいんだ。どうにかならないものかな?」
「おっ? ヒットポイントの高い人形系を倒したくなったか。『アンリミテッド』を製作するにはレア素材が足りないって話だったから、コルム兄の話聞こう」
路地を抜けてパワーカード屋へ。
「何でこの店、こんなわかりにくいところにあるの? 構えも小さいし。怪しいもの売ってる店みたいなんだけど?」
「あんまり需要がないはずだったからじゃないかな。まあ工房にある程度の広さがあるから、店はどうでもいいんだ」
コルム兄はこういうとこに拘んない。
一人で店やってるから、夜しか製作時間がないんだろう。
客が押し寄せても捌き切れなくて困るか。
弟子を取ればいいのにな。
「飛んでる子が噂の悪魔かな? 話だけは聞いてたが」
「あ、そうそう。うちのヴィル。よろしくね」
「よろしくお願いしますぬ!」
よしよし、ヴィルはとてもいい子。
「エルがさ、例の『アンリミテッド』欲しいんだって。作るのに足りない素材って何?」
「『逆鱗』と『巨人樫の幹』だな」
「あっ、ラッキー! 両方とも持ってる。いくついる?」
「え? 一つずつあれば十分だけど、たくさん持ってるのかい?」
コルム兄が不審そうだ。
「海の国の女王が『逆鱗』欲しいって言ってたんで、昨日魔境行ったんだ。『逆鱗』は一〇枚、『巨人樫の幹』は二個持ってる」
「ちょっと待て、『逆鱗』一〇枚ってドラゴン一〇体倒してきたってことか?」
「うん。最近ノーマルドラゴンだったら簡単に倒せるようになったんだ」
「ええ? あんまり無茶するなよ?」
「わかってるとゆーのに。ドラゴンが絶滅しても困るし」
「心配の方向性が違うんだが」
大丈夫だと思うよ。
デカダンスとかクレイジーパペットとか結構倒してるけど、全然人形系魔物が絶滅する気配ないし。
「さて、エルと取り引きだ。『逆鱗』と『巨人樫の幹』、同じ価格分の通常素材と交換するよ。どうする?」
「『逆鱗』と『巨人樫の幹』は両方でいくらぐらいするんだい?」
「合わせて四〇〇〇ゴールドくらいかな」
コルム兄が頷く。
「……少し足りないな。今日探索すると足りると思うから、夕方交換してくれ」
「ん、じゃあこれは渡しとくよ」
『逆鱗』と『巨人樫の幹』を置く。
「いいのかい?」
「『アンリミテッド』が欲しいってことは、人形系レアがキーになってるエリアかなんかの攻略に必要なんだと見た。今『逆鱗』と『巨人樫の幹』があれば、コルム兄は明日までに『アンリミテッド』を作ってくれるよ。でも夕方店閉めてからじゃ間に合わない。一日でもロスしたくないでしょ?」
「そこまで考えてくれるのか。さすがユーラシアだな。ありがとう、感謝する」
「いいってことよ。あたしだぞ?」
「納品期限を勝手に決められてしまった」
アハハ、コルム兄の仕事の早さは知ってるから。
……エルにキラキラした目で感謝されると少々引け目を感じる。
塔の村のエース冒険者であるエルのレベルが少しでも上がっていれば、帝国との戦争を有利に運べるかもしれないという、手前勝手な皮算用も働いているからだ。
『アンリミテッド』は将来人形系狩りのスタンダードなパワーカードになるかもな。
レア素材を必要とするのがネックだけど。




