第349話:海の女王に報告
――――――――――七六日目。
「カカシー、今日明日雨になるって」
「雲が厚くて暗いもんな。ま、オイラとしちゃあ雨も欲しいんだぜ。とっとと株分けしちまってくれよ」
「うん。善処しまーす」
今日はステータスアップ薬草の株分け日だ。
でも空はどんより曇っていて、今にも降り出しそう。
「あっ、大変だ! ポツッときた!」
「もう一〇分早く起きりゃよかったじゃねえか」
「眠かったんだもん。あたしは過去を振り返らない女だし」
「ユーちゃん、そういうとこカッコいいな」
「よせやい、照れるぜ」
「お? カッコいいのはいつもだよって言うのかと思ったぜ」
「そー言いたいところだけど、常に新しい芸風を模索していかないといけないし」
「芸風?」
「意表を突きたい乙女心にも忠実じゃないといけないし」
アハハ。
何とか本降りになるまでに植え替え終了した。
毎日ステータスアップ薬草を食べられるってのは素敵なことだなあ。
お兄さんズに聞かせたらすげー羨ましがられそう。
「ふー、じゃコブタ狩り行こうか」
「「「了解!」」」
◇
フイィィーンシュパパパッ。
コブタを狩ってお肉を確保し、海の王国までやって来た。
「何故銅鑼を鳴らすのか。そこに銅鑼があるから」
「ユー様?」
「誰がために銅鑼は鳴る」
「姐御?」
「銅鑼の鳴る丘」
「ボス、ヒルじゃないね。オーシャンフロアね」
さて、銅鑼の前に立つ。
どーしてこいつは鳴らせと言わんばかりの形をしているのか。
こんなもん我慢できるわけないだろ。
「グオングオングオングオングオングオーン!」
「いい音だなあ。スッキリするよ」
これ海底の技術による特殊な銅鑼なんだろうか?
むやみと叩きたくなる衝動に駆られるし、やたらといい音出るし。
いつものように女王が転げ出てくる。
「肉だなっ!」
「肉だぞっ!」
「いやっほう!」
女王が小躍りしていると衛兵がワラワラ集まってきた。
お肉運搬係とも言う。
「肉を調理場へ運んでたもれ」
今日は台車で運ぶんだな。
あたしらが来た時用に用意したっぽい。
「一緒に肉を食べていくのかの?」
「いや、昨日の魚フライフェスの報告に来ただけなんだ。今日はすぐ帰るよ。お肉はただのお土産」
「そうじゃったか」
女王は少しガッカリしたようだ。
ごめんよ。
また今度食べに来るからね。
「フェスは大成功大好評だったよ。魚をフライで食べるという風習は、すぐレイノスに根付くと思う。その内焼き魚も広まるんじゃないかな」
「おおそうか。魚が立派な交易品となったのう」
「段々いろんな品目を対象にしようよ。レイノスは人口多いから、たくさん売りつけよう。ってのはひとまず置いといて……」
どう切り出そう?
女王があたしの表情に気付いたか、心配そうに問いかけてくる。
「何ぞ問題でもあるのか?」
「問題っていうか、地上は戦争になるんだよ」
「ドーラ大陸で内輪揉めということかの?」
「ではなくて。海の向こうのドーラ植民地の宗主国であるカル帝国が攻めてくるの。多分、ドーラの独立戦争になる。時期は確定じゃないけど、一ヶ月後くらいじゃないかと思ってる」
「ほお」
女王の細い目がさらに細くなる。
「……わらわに助力せいということか?」
「いや、違くて」
あたしは首を振って続ける。
「しばらく地上は物資が足りなくなりそうなんだ。海からもの買うばかりになっちゃうってことだよ。特に食料は出せない。正常な関係じゃないけどごめんね」
「何じゃ、そんなことかの」
そんなこととは言うが、対等な関係を保つことが長続きさせるのに重要なんだぞ?
「一方的に地上からおゼゼが流出するのが常態になると、こっちでも文句言う人もいるからねえ。ちなみに海の王国で欲しい地上産のものって何だろ? 消耗品以外だと」
「魔宝玉かの」
「魔宝玉? 奇麗なものが好きなんだ?」
意外だな。
いや、意外でもないのか。
「いや、エルフや獣人との交易に必要での。彼らはゴールドでの取り引きは望まぬゆえ」
「へー」
知らなかったよ。
魔宝玉には通貨の側面があるんだな。
エルフや獣人の社会で魔宝玉は普遍的な価値を持つものなのか。
「藍珠と透輝珠なら手に入るけど、いる?」
「おお、欲しいの」
「それぞれ六〇〇ゴールド、一五〇〇ゴールドでよかったら譲るよ」
女王は何か考えているようだ。
「……よいのか? 安くないかの?」
「地上での買い取り価格がその値段なんだよ。この値段ならあたしも損しないし、交易なんだから互いにメリットないとダメでしょ」
でも通貨的に使われるなら、多くなり過ぎると魔宝玉の価値が下がるよな。
いや、交易が活発になる段階で通貨量が少ないのが問題なのか?
よくわからんけれども、少しならさほど影響ないだろ。
「じゃ、今度来る時、藍珠一〇個と透輝珠五個持ってくるよ」
「すまんの」
これであたしが地上でお金使って還元するなら、当面問題ないだろ。
規模の大きい取り引きじゃないしな。
「塔の村との関係はどうなの?」
「うむ、いい取り引きを続けておるぞ」
「向こうからは何を買ってるのかな?」
「ポーションの類とコウモリ肉じゃな」
「うんうん、コウモリ肉は美味いもんなあ」
塔の村も人口急増で一杯一杯だろうしな。
「素材はいらないよねえ?」
「いらなくはないぞよ。『スライムスキン』のような用途の広いものや、武器・防具に応用の利くレア素材は欲しい。例えば『逆鱗』とかじゃな」
「わかった、考えとくね」
地上でしか取れない素材は、いずれ海底との交易品にしたいな。
女王が気遣わしげな顔を向けてくる。
その表情はわかる。
「おんしが取り引きの不均衡を気にするのなら、コブタ肉を買い取ってもよいのじゃぞ?」
「いや、コブタ肉はあたし達しか取ってこられないし、あたしも商売にかかりっきりにはなれないからね。時々のお土産、サービスでいいんだ。商売は自然にバランスが取れるように考えるよ」
貸しを作っといて、あたしの思うように物事転がしたいって意図もあるしな。
でも戦争終わるまではマジでどうにもならんわ。
「地上で戦争あることは誰にも言わないでおいてくれる? こっちでもまだほとんど知られてないんだ。混乱すると困る」
「うむ、了解したぞ」
「じゃあね、また来るよ」
「楽しみにしとるぞ」
戦争が楽しみってことじゃないよな?
転移の玉を起動し帰宅する。
着々と迫る戦争の足音。




