第347話:表彰式
「最後に当フェスの企画者である冒険者、精霊使いのユーラシアさんから皆様に挨拶がございます」
イシュトバーンさんによる表彰式のあと、あたしの言葉で締めることになった。
ちなみに副賞の透輝珠は売り上げ一、二、三位の店と特別賞の店、あの絶妙においしいパリパリ骨入り魚フライを食べさせてくれた『ダヤン食堂』に贈られた。
売り上げ勝負と喧伝してはいたけれど、今後もフェスやりたいしな。
売り上げは伴わなくても、特別に美味かったり工夫してたりってのが評価されるとなれば、各店の取り組みも変わってくるだろう。
食文化の発展のためなのだ。
「美少女精霊使いユーラシアでーす。本日はイベントに参加していただき、誠にありがとうございました。おいしかったかーっ!」
「おーっ!」
「美味かったぞーっ!」
「またやってくれ!」
次々肯定的な声が飛ぶ。
嬉しいねえ。
あたしもまたやりたいわ。
次のテーマは何にしよう?
「参加店はそれぞれかなりの工夫を盛り込んでいましたし、サポート参加の店もなかなかの仕事を見せてくださいました。またレイノスの皆さんには、魚のおいしさを知っていただくいい機会になったかと思いまーす」
「海の王国という、亜人の異文化に侵食されるのではないかという不安を持ってる人もいますが、どうお考えですか?」
あっ、つまんないことで水を差すやつがいる。
新聞記者達か?
フェスが終わったんで、批判的な論調の記事を書いてもいいと考えてるんだな?
これからも食フェスやるかもしれないんだから、空気読んでよ。
仕事なのはわかるけど、最後くらい気分良く終わらせてくれればいいのに。
「魚人食なんかレイノスに馴染まないんじゃないですか?」
「治安上の問題もあると思いますけどね。魚をレイノスに入れるために、魚人との交易を推進するというのはどうかと」
「違うよ」
びしょうじょせいれいつかいのかなでるみちびきのこえよ、まよわせしやみをはらえ! ただしきみちをてらせ!
「自分の舌にウソを吐けるかな? 魚フライ美味かったでしょ?」
頷く人大多数。
「今までのレイノスの食べ物って、どこから入ってた?」
群集を見渡す。
おーおー、注目されてるなあ。
実に気分がいい。
「市内と周辺の農場、近場の自由開拓民集落、カトマス経由で西域、あと帝国から少量の輸入くらいかな。記者さん、そうでしょ?」
「え? ええ、まあ」
「これからは違うよ。今後は海の王国からもカラーズからも入るんだ」
「レイノスの食は足りていますよ」
戦争が起きることを認識していなければ足りてると考えるだろう。
「足りてる足りてないの問題じゃないんだな。おいしいものがあることを知らないのは不幸だよ。今日の魚フライみたいな、未知の美味いものを掘り起こそうじゃないか!」
「未知の……美味いもの?」
「全ての食はレイノスに集まる。レイノスは美味いものの頂点に位置する町になるんだ!」
「全ての食がレイノスに?」
「レイノスが美味いものの頂点……」
どよめきが起き、次第に歓声に変わる。
「昨日までの透輝珠はただの奇麗な魔宝玉でしかなかった。でも今日からは『支持されし食の店』という意味が追加されるよ! 以降の食フェスでも上位店には透輝珠を進呈します。参加店の皆さんは、ぜひ獲得を狙ってください。透輝珠の飾られてる飲食店は、食の都レイノスでも間違いのない店の証だ!」
会場が熱狂に包まれる。
「食フェスはまたやるんですか!」
さっきの新聞記者達か。
肯定的な記事を書かざるを得なくしたろ。
「食フェスまたやりたいかーっ!」
「「「「「「「「うおおおおおおおおおっ!」」」」」」」」
「来年会おう!」
「「「「「「「「うおおおおおおおおおっ!」」」」」」」」
「今日もまだ終わりじゃないぞ! 食べ損なってる店の、食べてってくれよなーっ!」
「「「「「「「「うおおおおおおおおおっ!」」」」」」」」
こんなもんだろ。
歓声と拍手の中、手を振りながら段を降りた。
イシュトバーンさんがニヤニヤしながら言う。
「最高だったぜ。やはりあんたは政治家向きだな」
「政治家っておゼゼ儲かる?」
「真面目なやつは儲からねえな」
「じゃあダメだ。あたしは可憐なだけじゃなくて真面目でもあるから」
二人で大笑いしていると、ラルフ君パパが話しかけてきた。
「イシュトバーン殿、ユーラシアさん、御苦労様でした」
「おう、ヨハン。大成功じゃねえか。見事な運営手腕だったぜ」
「ヨハンさんごめんね。来年もやらないと収まりつかないっぽくなっちゃった」
「いえいえ、折り込み済みですから」
ありがたいけど、どの時点で織り込んだんだろうな?
「師匠」
「あっ、ラルフ君達! 楽しめた?」
「「「「はい!」」」」
よかった。
お祭りは皆で楽しめるのが一番いい。
その上で目的を果たせるのが最高。
「ラルフ君達、時間ある?」
「ありますが」
「じゃあちょっと頼まれてくれる? うちの子達へのお土産にいくつか魚フライ欲しいんだけどさ、あたしこれをイシュトバーン邸に運ばなきゃいけないから、一〇個くらい見繕って買ってきてくれないかな?」
「お安い御用です」
「これって言うな!」
華麗にスルーして帰途に着く。
イシュトバーンさん、ちょっとお疲れだろうか?
「このフェスの企画、三日前に立ち上がったんだろ?」
「うん。マジで思いつきだったんだけど」
「それがこの規模の祭りになるのかよ。ちと考えられねえな」
「時間じゃないんだよ。お店のやる気、食材の物珍しさ、新聞による周知、偉い人の無形の協力、成功の条件が欠けることなく揃ってたからね」
「お、わかってやがるな」
これほどスムーズに行ったのは、おそらくイシュトバーンさんやオルムス副市長が、目立たぬように根回ししてくれてたんだと思う。
素直に感謝だ。
「楽しかったねえ」
「おう、楽しかったぜ。次、いつオレん家に来る?」
「服ができ上がった時かな」
青の族長セレシアさんに注文した、イシュトバーンさんのお付きの女性用の服だ。
どんな仕上がりになるか、ひっじょーに興味あるんだよな。
セレシアさん任せとけって感じだったし。
お付きの女性達に話しかける。
「この前の採寸の時、何か希望言った?」
「……とにかく露出が多いのはやめてくれと」
「おいおい」
イシュトバーンさんの顔が曇る。




