第345話:危険物だよ
ワクワク顔のイシュトバーンさんに、型破りな見かけ幼女魔道士ペペさんのでっかい杖について説明する。
どーしてあたしがペペさんの行動を理解できるのか。
ひとえにあたしのカンがいいからだ。
決してペペさんと同類だからではない。
「絡まれたりバカにされたりとかで魔法撃ちたくなることあるでしょ? でもペペさんが魔法撃つと、レイノスが灰になるみたいなちょっとした事件になっちゃうから、あの杖でぷちっと潰すことで勘弁してやるんだって」
「おいおい、そのちょっとした事件は面白過ぎて困るぜ」
イシュトバーンさん楽しげですね。
でも相手はペペさんだぞ?
後先考えずにマジで大事件起こしそうだから、おかしなフラグ立てようとすんな。
「ユーラシアちゃんがこのお祭り企画したって聞いたんだけど」
「うん、ちょっとした思いつきだったのに、皆が動いてくれたんだよ」
……随分と串や包み葉落ちてるな?
まだフェス始まったばかりなのに、ペペさんどんだけ食べたんだ。
前も思ったけど、ペペさんはかなりの大食いだ。
燃費の悪い身体だなあ。
いや、レベルが上がると身体がエネルギーを欲するとゆーことは確かにあるんだけど。
「魚のフライっておいしいのねえ」
「メッチャ美味いね。これからはレイノスで普通に食べられるようになるよ。魚人と交易して、魚が入るようになるからね」
これは間違いない。
今後も海の王国とはいい関係を続けたいものだ。
「ユーラシアちゃんの専用スキル、もう二、三日でできるわよ」
「あっ、ありがとう!」
イシュトバーンさんの丸っこい目はえっちだとゆーのに。
「おい、どういうこった? あんたの専用スキル?」
「今、ペペさんがあたし専用のスキル作ってくれてるの」
「ほお?」
ペペさんにしては作成に時間がかかっている。
あたし専用だと試し撃ちできないからって言ってたな。
「ペペちゃんメイドのスキルかよ。しかもそれを精霊使いが使うのか」
「全然笑いどころじゃないんだけど」
「いや、ある意味象徴的なスキルになるだろうってことだぜ」
象徴的なのかな?
正直うちのパーティーは手持ちスキルが足りないとは思っていない。
せいぜい汎用スキルをいくつか買って緊急事態に備えれば、より安全度が増すかな、くらい。
あたしがペペさんに期待しているのは、アーティスティックなスキルでしか状況を打開できないような場面に遭遇するフラグなのかもしれない。
とすると象徴的というのも実感を伴うな。
「今日のお祭りでインスピレーションが沸いたわ」
「発想の段階なのかよ! でも楽しみにしてるよ」
「ええ、ユーラシアちゃんの伝説を飾るのに相応しいスキルにしてみせるわ!」
本当に楽しみだ。
何故ならペペさんのやることは予想できないから。
「じゃあペペちゃん、またな」
「ばいばーい」
「ごきげんよう」
◇
「この店の魚フライ、今のところ一番おいしいなあ」
「同感だ。味といい食感といい、抜群だな」
おそらくまよねえずを塗ってから衣をつけてある。
しかも揚げた骨を荒く砕いたものを衣に仕込んであるため、カリッとした食感に意外性があるのだ。
秀逸としか言いようがない。
「あんまり手がかかってると数作れない気がするけど」
「かもな。『ダヤン食堂』か。覚えとくぜ」
あたしも覚えとこ。
お、あそこにいるのはソル君パーティーじゃないか。
「おーい、ソル君達!」
「あっ、ユーラシアさん」
ソル君達が駆け寄ってくる。
「そちらの御老人は?」
「危険物だよ」
「おいこら」
「特にアンセリは近付いちゃいけないよ。女の子には見境がないんだ」
イシュトバーンさんが怒る。
「オレが見境ないのはいい女にだけだ!」
「アンセリはいい女に入る?」
「入る」
「危険物だよ」
「オレが悪かった。いい女を遠ざけるのは勘弁してくれ」
セリカが聞いてくる。
「ええと、芸人の方ですか?」
「元商人のイシュトバーンさん。今日のフェスの主催者」
「「「えっ!」」」
驚く三人。
まあビックリするだろうけど。
「どうも失礼いたしました」
「主催者って言っても、名前貸しただけなんだぜ」
「イシュトバーンさんって、あれだろう? 『タイガーバイヤー』と呼ばれた」
あ、アンは知ってるんだな。
「昔のことさ。で、精霊使いよ、この三人は?」
「『アトラスの冒険者』でドラゴンスレイヤーのパーティーだよ。リーダーのソル君は『スキルハッカー』っていう、習得条件無視でスキルを一二個まで覚えられる超レア固有能力持ちなの」
「ほお?」
「いえ、ユーラシアさんには世話になってばかりなんですよ」
イシュトバーンさんもソル君の控えめな態度に好意を持ったようだ。
へー、そのえっちな目は男性にも向けるんだな。
「遠慮深いな。こいつメチャクチャだから、スキルハッカーも苦労するだろ?」
「おいこら」
笑いに包まれる。
「今日はイシュトバーンさんとユーラシアさんが、行動をともにされてるんですか?」
「あたしがイシュトバーンさんをこのフェスに巻き込んじゃったからさ。いい女に抱っこされる方が男におんぶされるよりいいって言うし」
「当たり前だろ。なあ、スキルハッカーよ」
苦笑するソル君。
「この白いタレが?」
「まよねえずだよ。カラーズで生産してる酢を使ってるんだ。このイベントは酢の販促っていう一面もあるの」
イシュトバーンさんがえっちな目を向けてくる。
御想像の通り、ソル君パーティーは戦争のこと知ってるよ。
戦時の食料事情を考えて、海の王国から魚をレイノスに入れるっていう発想が出たことも。
「何かこのフェスで気付いたことあった?」
「ゴミが目立つな。それくらいだ」
アンが答える。
うん、ゴミはあたしも思った。
事前には頭が回らなかった部分だけどな。
こんな規模のフェスになることも想像できなかったし。
「次やる時は気をつけなきゃいけないな」
「次も予定があるんですか?」
「ないけど、やりたい人は多いと思うよ。一年に一度くらい、こういう催しがあったら楽しくない?」
「いいですねえ」
今回サポート参加に留まった店は残念な思いがあるだろうしな。
魚を普及させる試みは成功したから、今度は違うテーマでやってもいい。
夢が膨らむなあ。
「おい、あっちの店のやつ食いに行こうぜ」
「うん、じゃあソル君、アンセリ、またね」
「「「さようなら」」」




