第344話:想像以上に大事になってるんですけど
「……思ったより大規模で、正々堂々としたイベントになったねえ」
「おう、そうだな。いいことじゃねえか」
レイノスは市域の西側が交易のメインになってるせいか、東側に料理屋は少ない。
でもちらほらは存在していて、フェス参加店もあるわけだ。
九時スタートという情報が行きわたっているらしい。
正式参加店もサポート参加店もまだ販売を開始しておらず、店頭には人々が列をなしている。
「イシュトバーンさんの名前が効き過ぎたかなあ?」
「いや、新聞が煽ってるんだぜ」
集計期間は午前九時から午後三時までというルールが徹底され、どの店が勝つのかというのも市民の大きな関心事になっているらしい。
いや、だからフェス自体は関心事だよ?
でもどの店が勝つかとかあたしにとってはどうでもいいことなんだが。
自分で思ってなかった方向に展開していて、少々困惑だ。
「賭け事の対象にもなってるんだ。ほら、調査員が見えるだろ? こうなると店もつまんねえ不正で評判下げるわけにいかねえ。市民もそれがわかってるから、早く売れだの文句言わねえのさ」
「へー」
想像以上に大事になってるんですけど。
まあいい、フェスが盛り上がってくれさえすれば特に文句はない。
せいぜい料理屋の皆さんも市民の皆さんも気張ってください。
「お、九時の鐘が鳴るぜ」
ゴーンゴーンと九時の鐘が鳴り響く。
いよいよフェスのスタートだ。
「おお、いい匂いがするじゃねえか。たまらねえな」
「食欲をそそるよね」
「今日は朝飯抜いてるんだぜ」
「やるなあ」
イシュトバーンさんも全力で楽しむモードみたいだな。
「最初の行列がなくなった頃に見計らって買おうよ」
あちこちで美味いおいしいの声が聞こえる。
よっしゃ、魚の良さが認知されるのは最大の目的だ。
これで海の王国と継続して取り引きが可能になるだろう。
既にあたし的には大成功なのだ。
「イシュトバーン殿、ユーラシアさん!」
振り向くとラルフ君パパだ。
結局フェスの運営をお願いすることになってるので申し訳ない。
でも疲れた様子も見せずに気力に溢れている感じだな。
「おうヨハン、どえらい盛況じゃねえか。こんな手腕があるとは思わなかったぜ」
「ヨハンさん、ごめんなさい。運営全部任せることになっちゃって」
ラルフ君パパが笑う。
「いえいえ、ほとんどお金はかかってませんから。結果的に宣伝になればいいかくらいに思っていたのですが、取材料版権料その他で黒字ですよ。イベンターとしての手腕が何故か評価されるし、私としては万々歳です」
黒字なんだ?
迷惑かかってなくて本当によかったよ。
「サポート店としての参加を迅速に認めて下さったのもグッドでした。これでレイノスの食堂・飲食店全面協力のイベントになりましたよ」
「仲間外れはよくないからね。次に食フェスやる時には最初から参加して欲しいじゃん?」
「おっと、次がありますか?」
「皆さんの要望があればね」
おいしいものを広めるという考え方からすると、食フェスはめちゃんこ有用な気がする。
おいしいものは正義だ。
ドーラを豊穣の国に、レイノスを美食の都にしたい。
どこでも美味いものが食べられることは、皆にとってハッピーで望むところだと思うのだ。
「これ、正面の店のですけど、よろしかったらどうぞ」
ラルフ君パパが手に持っていた魚フライを渡してくれる。
「あっ、ありがとう!」
オーソドックスな魚フライと揚げた骨のセットだな。
あむり。
「おお、さっぱりして美味いじゃねえか。この白いタレが例の何とかいう調味料か?」
「うん、まよねえず。でもこれはカラシが強めに入ってるタイプだよ。販売店がそういう工夫してる」
「ほお?」
イシュトバーンさんも興味を持ったようだ。
「他の店のも食ってみてえな」
「そうだねえ」
「三時になったら中央広場に来てくださいよ。表彰式を行いますので」
「はーい」
「おう、わかったぜ」
「あっそーだ! ヨハンさん、これ持ってってくれる?」
ナップザックから魔宝玉を取り出す。
「これは?」
「一応上位の店の賞品として用意したんだけど」
「よろしいんですか?」
「いいのいいの。こんなことしかできないけど」
「では、お預かりしていきます」
ラルフ君パパが手を振って去って行く。
「透輝珠か」
「うん。一位三個、二位二個、三位一個のつもりだったけど、フェスの規模に比べて貧弱な賞品だったかなあ?」
「そうか。でも一個ずつで十分だぜ」
「え?」
どーゆーこと?
「名誉の証ってことさ。今日のフェスで透輝珠を得た店は、当然店頭に飾るだろ? 今後もその慣習を続けていけば、透輝珠を数多く飾る店ほど評価されてるってことになる。透輝珠自体の価値なんか関係ねえ」
「なるほど。イシュトバーンさん、さすがだねえ」
将来、透輝珠五つの店だからここはきっと美味いぜ、みたいな評価の基準になるかもってことか。
ワクワクするなあ。
「どうして透輝珠なのか、もっともらしい理屈考えとけよ? 簡単に拾ってこられるからでは、ちいとしまらねえ」
「うん、わかった」
◇
臨時に設けられたベンチの一つで、ブカブカの紫のローブとつば広の帽子、不釣り合いなほど大きな杖を抱えた小柄な女性が、ガツガツ魚フライを食べ漁っている。
「たのもう!」
「ふあっ?」
その女性がこちらを見る。
キョトンとした目、まるで幼女だな。
ドーラ一の大魔道士にはとても見えない。
「ユーラシアちゃんと……イシュトバーンさん?」
「おう、久しぶりだなペペちゃん」
「うわー御無沙汰してました!」
ペペさんがぴょんぴょん跳ねてる。
行動まで幼女っぽいとゆーのに。
「今でも女好きなんですか? でも多分、ユーラシアちゃんは餌食になんないですよ?」
「おう、こいつ隙あらばオレを魔境に捨ててこようとするんだ。実に油断がならねえ」
にこやかに交わされる会話ではあるけれど、案外内容が不穏だ。
あれ? 喋ってる内容にあたしが含まれていなければ不穏じゃないのか?
イマイチ納得いかないけれども。
「ペペさん、あのでっかい杖持ってきてるんだねえ。何で? 街中歩くのに邪魔じゃない?」
「え? ぷちるのに必要だから」
「……要するにロマン砲撃ちたくなったときは、ぷちるので勘弁してやるってこと?」
「そお」
「おい、通訳しろよ」
イシュトバーンさんがせかす。
大盛況万々歳!




