第343話:フィッシュフライフェス開催
「サイナスさーん、こんばんはー」
寝る前恒例のヴィル通信だ。
これもちょっと慣れてきた。
情報のやり取りもそうだが、サイナスさんと話していると考えがまとまってくるとゆー利点が大きいんだよな。
『ああ、こんばんは』
「どうしよう、明日の魚フライフェスが楽しみ過ぎて寝られないんだけど?」
各店がどんな工夫してくるだろう?
目の色変わってた店もあったしな。
あたしにしてみると、魚フライとまよねえずのおいしさが広まれば大成功なのだ。
それ以上に魚フライの進歩が見られるなら万々歳。
『知ってるぞ? 君すごく寝つきいいじゃないか。どうせこの通信が終わったら三分で寝るんだろ?』
「今日は五分くらいかかりそう」
笑い声が聞こえる。
『黒の民の村の醸造ラボの建物完成したんだ』
「もうかよ!」
やっぱ黄の民の建築はすごい。
緩衝地帯のショップで、建築請負いますの幟立てときゃいいのに。
いや、フェイさんが自ら指揮を執ってるから速いのか。
いつもいつもトップスピードとゆーわけにはいかないのかな?
『器材も既に搬入したよ。すぐ酢の生産開始するという話だ』
「自分が煽っといて言うのもなんだけど、酢ってすぐに生産できるもんなんだね。発酵とか時間かかるのかと思ってたわ」
『オレも疑問に思ったんだが、促成発酵に呪術を使ってるということらしい』
「え?」
そーいやサフランに最初出会った時、呪術で酢を作ってるって言ってたな。
呪術を利用した促成発酵という意味だったのか。
黒の民には謎技術があるなあ。
「じゃあ酢の生産の黒の民独占は、滅多なことでは崩れないね」
『おそらくはな』
ただ商売とかコミュニケーションに関しては、黒の民は問題があるからな。
せっかく素晴らしい技術を持っているのだ。
揉め事起こさないように見といてやらないと。
「白の民の革のことはヨハンさんの息子に伝えといたから、次回隊商がカラーズに行った時、何らかの話があると思うよ」
『わかった、そう報告しとく』
「あ、昨日言うの忘れたけど、灰の民の村からも輸送隊に人を出してくれないかって話があったんだよ」
『黄の民のフェイ族長代理にか?』
「うん。難しいって言っといたけど」
『今は畑に全員動員になってるから、ちょっと人は割けないな』
掃討戦での獲得地を畑にしているのだ。
食糧生産力に影響するから、戦争があることを考えるとひっじょーに重要。
秋蒔きの作物が間に合うかどうかってギリギリのラインだし、今労働力を減らすことはできない。
「でもあたし、アレクはどうかなって考えてるんだ」
アレクは働いてないしな。
『アレク? 未成年じゃないか』
「別に輸送隊は未成年お断りってルールじゃないし」
『まあルールはないかもしれんが』
「輸送隊は全員固有能力持ちで固めようとしてるでしょ? アレクも固有能力持ちなんだよ」
『固有能力持ちなのか……君、何の能力持ちかまではわからないんだったか?』
「わからないね。調べろって言われれば、ギルドの魔道の装置で調べられるけど」
サイナスさん考えてるな。
『……アレクを輸送隊か。面白いかもな』
「でしょ? レイノスだとアレクの好きそうな本も手に入りやすいだろうし」
『でも腕力はないだろう?』
「そんなものはレベル上げすればどうにでも」
体力的なことはマジでどうにでもなる。
問題は本人の資質とやる気だ。
アレクは以前、レイノスに興味あるって言ってたしな。
もっとも輸送隊には興味ないだろうし、本人がやってみたいかどうかわかんないけど。
「今度アレクに会った時、チラッと誘ってみるよ」
『ユーラシアに誘われて断れるのかなあ。君の説得力は異常だろ』
「えー? そんなことないよ。良かれと思ってやってるだけだってば」
あたしはムリヤリ物事を進めてるわけじゃないのだ。
どっちにとってもメリットのあることを提案しているだけだよ。
『まあいい。明日のフェスのことは知らせてくれよ』
「うん。サイナスさん、おやすみなさい」
『ああ、おやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『了解だぬ!』
明日はフィッシュフライフェスの開催日。
楽しみだなー。
◇
――――――――――七五日目。
「よーし、バッチリ! いい天気!」
「おう、ユーちゃんは今日も威勢がいいな」
「天気だけのせいじゃないか。あたしの魅力が溢れ出ちゃって」
「ユーちゃんが魅力的なのはいつものことじゃねえか」
「そーだった。自分の可憐さは自分じゃなかなかわからんもんだ」
アハハ、楽しい一日の始まりだ。
「レイノスでお祭りなんだよ」
今日は魚フライフェスの日。
ダンテによれば、今日まで天気は大丈夫とのこと。
「ほう? 美少女に祭りはよく似合うってことかい」
「おっ、カカシはわかってるねえ」
再び笑い合う。
朝から絶好調だ。
実に愉快だな。
家の中を覗き、うちの子達に声をかける。
「ごめんね。じゃああたしだけで行ってくる。留守番お願い。お土産買ってくるからね」
「いや、姐御、大丈夫ですぜ。こっちは一日のんびりやってやす」
「明日の雨に備えて、やるべきことは終えておきますので」
「任せておくね。シーユー」
まあよくできたうちの子達のことだ。
適当に何とかするだろ。
「行ってくる!」
転送魔法陣の並ぶ東の区画へ走る。
◇
フイィィーンシュパパパッ。
「おっはよー。おお?」
「待ってたぜ、精霊使い」
イシュトバーンさんの屋敷に飛ぶ。
いやだから、どーして転送先で待ち構えてるんだよ。
ビックリするだろ。
「今日は精霊達は留守番かい?」
「うーん、やっぱり人込みは厳しいんだよね。目立つし。レイノスの街中は難しいかな」
「『精霊の友』もほとんどいねえしな」
これは仕方ない。
いつか精霊が色眼鏡で見られることがない世の中になったとしても、精霊の人嫌いが治るものでもない。
灰の民の村みたいな、『精霊の友』と精霊が共生する村がどこかに欲しいもんだ。
デス爺の考え方は正しいな。
「そろそろフェスも始まる。ボチボチ行こうぜ」
「じゃ、抱っこしてくよ」
「おう頼むぜ。今日は護衛について来いって言わねえんだな?」
「心配性だなー。今日は人が多いから大丈夫でしょ。レイノス港で溺れてても、きっと誰かが助けてくれるよ」
「やっぱり一人ついて来てくれ!」
お付きの女性達が笑い、護衛の人が飛んでくる。




