第339話:盛られていく二つ名
フイィィーンシュパパパッ。
「ユーラシアさん、いらっしゃい。今日もチャーミングだね」
「こんにちはー、ポロックさん」
本の世界でコブタ狩りをしたあと、クララ達にお肉の処理を任せ、あたしはギルドへ来た。
結構不用品があるので処分したいし、ラルフ君に伝えたいこともあるし、魚フライフェスの様相を聞きたい。
特に明日に迫ったフェスでトラブルあるようなら出動しなきゃいけないしな。
言いだしっぺのあたしはもちろん全面協力だからだ。
「御主人!」
先行させていたヴィルが飛びついてくる。
よしよし、いい子だね。
「ラルフ君いる?」
「いるぬ。食堂でダンと新聞を見てるぬよ?」
「新聞か。あたしも見たいな。食堂行こっと」
大分新聞記者を煽ったから、フェスの記事大きく載ってるかな?
買い取り屋さんで換金してから食堂へ。
「おっはよー」
「師匠、おはようございます」
「おう、ユーラシア、これ見てみろよ」
ダンが新聞を見せてくる。
「ドーラ日報とレイノスタイムズ、うん、両方とも魚フライフェスの記事がトップだね」
「トップというか、フェス以外の主だった記事がねえよ」
「かつ、好意的な記事でバッチリだな。今のところ問題なし。よしよし」
「今朝は魚取り引きの場にも記者が来てましたよ」
「昨日レイノスでたまたま記者さん達に会ったから、取り引き現場にも取材行けって言っといたんだ」
「このまよねえず開発秘話の記事はその時に?」
「そうそう。何か店のガードが厳しくて情報が出てこないって言ってたからさあ。フェスを盛り上げる方向に誘導しないといけないでしょ?」
「さすが師匠」
「あれ? また『精霊使いユーラシア氏』って書いてあるじゃん。失敗したなー、『美少女精霊使い』に訂正しろって言うの忘れてたわ。さすがじゃなかったわ」
「さすがじゃないぬ!」
アハハと笑い合う。
「随分フェスに入れ込むじゃねえか」
「まあね」
ダンがニヤニヤしながらこちらを見てくる。
要するに戦争の時の食料として考えてるんだな? うん、レイノスの人が魚に慣れて欲しい。了解だ、よく働いてるじゃねーか。あたぼうよ、といった意思疎通をアイコンタクトのみで行う。
戦争関連だから口に出しては言わないけど、ダンは機微をわかってる。
「それで師匠、フェスは何時から何時までだ、という問い合わせが参加店と新聞社から来ておりますが?」
「時間? 皆マジだね」
あたしとしてはフェスが盛り上がりさえすれば、細かいことはどーでもよかったんだが。
あっちもこっちも思ったより真剣だな?
「ヨハンさんに意見がないのなら、店同士が競う時間は朝九時から午後三時まででいいんじゃないかな。もちろん三時でフェス終了ってことじゃなくて、個数の集計はそこまでにして成績決めるってことね。優秀店表彰後も、売り切れまで続ければいいんじゃない? 成績優秀店のフライを食べたいって人だっているもんねえ」
「なるほど、盛り上がりますね。あと講習会に参加していた店ではありませんが、フェスには参加したいという飲食店がかなりあるようなんです」
おお? どーなってんだ。
何で皆そんなにやる気なの?
明日のフェスが思いつき以上のエンタメになることは確定だぜ!
「うーん、魚の発注は終わっちゃってるんだよね? じゃあ正式参加はムリだな……あっ、サポート参加を認めよう! 参加条件は『イシュトバーン杯フィッシュフライフェス』サポート参加店であることを店に大きく明記すること。何でもいいから五ゴールドないしそれ以下の料理か飲料を提供すること。サポート参加店のリスト作って新聞社に回しといてくれる? 明日の新聞の地図に載せてくれると思うんだ」
「了解です!」
「希望があれば、またまよねえずの作り方と魚のおろし方の講習会やってもいいって伝えといてね」
「わかりました!」
ラルフ君もノッてきたね。
また酢と魚の需要が増えそう。
いいことではあるけど、予想を越えてるから怖いわ。
何が怖いって?
自分の才能に決まってるだろ。
「カラーズの交易の話なんだけど、白の民が食料品以外の革で商売したいみたいなんだ。ヨハンさんに話しておいておくれよ」
「はい、では早速その旨伝えて参ります。失礼いたします」
ラルフ君パーティーが転移の玉で飛ぶ。
どうやら最初の目論見以上の大イベントになりそう。
明日がメッチャ楽しみだ。
「『オーランファーム』の面々はどう?」
ダンに聞く。
この場合の『面々』とは、この前パワーレベリングした六人のことを指す。
ある程度戦闘メンバーとして使えるようになってるのかな?
「おう、あんたに相談があるんだ。四人は着々と戦闘経験積ませてるから間に合うが、問題は女二人だな」
「回復の要じゃん」
一人は白魔法使い、もう一人は沈黙無効の固有能力持ちで、『ホワイトベーシック』を装備させてある。
「後衛の二人かー。戦闘ターンが回ってきてもやることないからカンが掴めないとか、そーゆーこと?」
「ズバリだ。やるじゃねーか」
確かに戦闘中棒立ちじゃ、パワーレベリングの時と比べて何も成長が見られない。
苦悩の表情を浮かべるダン。
あれ、案外本気で困ってるっぽいな?
「ヒーラーの立ち回りってパーティー戦闘の肝だろ? 今のままじゃ魔法の持ち腐れになっちまう」
「魔法で戦闘に参加させよう。チュートリアルルームで攻撃魔法のスクロール買ってきて覚えさせればいい」
攻撃魔法を撃つタイミングが理解できるなら、回復魔法だって使えるはずだ。
しかしダンは首を振る。
「同じことを俺も考えたんだが、回復役がマジックポイントを浪費するのも困るだろ。あんたが掘り出し物屋から買ってたような、ノーコストの魔法ならいいんだが」
「大丈夫だよ。バエちゃんの上司にノーコストの魔法入れといてって頼んであるから。もう入ってるんじゃないかな?」
ダンの目に喜色が浮かぶ。
「マジか! 美少女精霊使いは伊達じゃねえな」
「超絶美少女精霊使いは伊達じゃないよ」
「天才超絶美少女精霊使いはさすがだぜ!」
ハッハッハッ。
どんどん盛られてく二つ名は気分がいいなあ。
「チュートリアルルーム行ってくるぜ」
「行ってらー」
「行ってらっしゃいだぬ!」
さて、あたしも戻るか。
ヴィルをぎゅっとしてから通常任務に戻し、転移の玉を起動し帰宅する。




