第334話:レイノス港に捨てたくなる
フイィィーンシュパパパッ。
イシュトバーンさん家に来た、が?
「おっ、驚えた!」
「あっ、ごめんなさい」
転送先でイシュトバーンさんとぶつかりそうになる。
何でこんな屋敷の敷地内でも隅っこにいるんだろ?
まーイシュトバーンさん家だから文句も言えないけど。
「もらった『地図の石板』から設定された転送先ここなんだ。注意してて」
「おう、知ってる。眺めてたら精霊使いが飛び出てこないかなと思ってたら、本当に出てきやがった」
「何やってんのもー。暇だなー」
お付きの女性達がクスクス笑う。
いや、ほんとに何やってんのよ?
「足悪いなら悪いなりに趣味を見つけりゃいいんじゃないの?」
「例えば?」
「せっかく美人のお姉さん達がお付きなんだから、そのえっちな目で観察するなりお尻を触らせてもらうなりするとか」
「セクハラだセクハラだってうるせえんだぜ」
試してみてはいるんだ?
にも拘らずお姉さん達が辞めないのは、結構お給料がいいんだろうな。
「で、今日はどうした。愛しのオレに会いに来たのか?」
「いや、敬老精神に目覚めたわけじゃなくてさ。イシュトバーンさんに借りる予定の空き店あるでしょ? カラーズ青の民の族長が視察に来てるみたいなんだよ。心配だから様子見に来たんだ」
「何だ、つまらん」
「かなりの美人さんだよ?」
「おい、女人なのかよ。早く言え。オレが直々に案内してやろう」
「きっとそう言ってくれると思ったよ」
イシュトバーンさんの性格はほぼ把握したな。
お付きの女性達の肩が小刻みに上下している。
いいですよ、声出して笑っても。
「おい、あの店のカギ持ってこい」
「じゃ、あたしが抱っこしてくよ」
「おう、嬉しいな」
心の底から嬉しそうだな。
でもおっぱいは触んなよ?
減ると大変だから。
「じゃあ行くか。表の通りを真っ直ぐ行けば着くぜ」
「ちょっと待って。お付きの女の人二人だけ?」
「ん? 何か問題あるのか?」
「護衛一人ついて来てもらったほうが都合がいいんだけど。できれば泳ぎの達者な人がいいな」
「おいおい、どういうこった? 穏やかじゃねえな。説明しろよ」
イシュトバーンさんの目が険しくなる。
いや、イシュトバーン杯フィッシュフライフェスの反対勢力が暗躍してるわけじゃないよ。
警戒するようなことではないんだけど。
「あたしが抱っこしていくと、イシュトバーンさんは絶対おっぱい触りたくなるでしょ?」
「なるな」
「我慢できる自信ある?」
「ねえな」
「でしょ? となるとあたしもサメのエサで妥協してレイノス港に捨てたくなる」
「おい、誰かついて来てくれ!」
お付きの二人笑い過ぎ。
◇
「旦那様のセクハラを何とかしたいんですよ」
道中、お付きの女性二人と話が進む。
さすがにイシュトバーンさんも、レイノス港に捨てられる危険を冒してまでおっぱいを触ろうとはしてこない。
めでたし。
「うーん、イシュトバーンさんの肩持つわけじゃないけど、給料には尊敬の念を払わないといけないよ。あたしが察するに、結構もらってるんでしょ?」
「いただいてはいますけど……」
イシュトバーンさんは、いい女を侍らせるのにおゼゼを惜しむタイプじゃないだろうからな。
おまけに商売女みたいにお触りオッケーみたいな女性は、あんまり好みじゃないんだと見た。
つまりお付きの女性はセクハラと高給の間で揺れているとゆーことだ。
「じゃ、許せる範囲と許せない範囲を取り決めておきなよ。許せる範囲を超えたら、給料とは別途に慰謝料を請求すればいい」
「お、おい精霊使いよ。余計な知恵つけないでくれよ」
んなこと言われても。
「イシュトバーンさんにも悪いことばかりじゃないでしょ。ここまではやってもいいっていう境界がハッキリするんだから」
「背徳感がないやつはそそらねえんだよなあ。わかるだろ?」
「知らんがな」
いや、ある程度見当はついてたけど。
お付きの女性Aが感心したように言う。
「ユーラシアさんはすごいですねえ。旦那様に対してこれほど隔意のない喋り方される人は他にいませんよ」
「だってあたしはイシュトバーンさんから給料もらってないもん。利害関係がないじゃん」
「おう、友達友達」
護衛の人は何も言わないな?
明らかに聞き耳立ててはいるけど。
「友達のオレにアイデアをくれよ」
「アイデア? どゆこと?」
「女の相談にだけ乗るのはズルいだろうが。オレにも日々の潤いをくれ」
ははあ、要するにそっち方面とゆーかえっち方面の刺激をよこせとゆーことだな?
せっかくだから……。
「じゃあ今から会うセレシアさんに注文するといいよ」
「はん? どういうことだ?」
宣伝がてら説明する。
「セレシアさんはカラーズきってのファッションデザイナーなんだよ。お姉さん達の服をデザインしてもらえばいい」
「服か……服ね?」
ピンと来てないようだ。
「でもえっちい服着せるんだったら、最初に了解取らないとダメだぞ?」
「おお、助平な服ってことか! やるな精霊使い!」
「ユーラシアさんっ!」
「追加でボーナスもらうといいよ」
護衛の人もついに笑い出した。
会話に参加してくれればいいのに。
歩を進めていく内、二人の男女が飛び出してきた。
「ドーラ日報です。精霊使いユーラシアさん、これはどういうことですか?」
「レイノスタイムズです。大商人のイシュトバーンさんと密会ですか? 大変なスキャンダルですよ」
しめた、来たぞー。
魚フライフェスの宣伝したる。
立ち塞がろうとした護衛を目で押し止める。
「人聞きが悪いなー。ただのデートだよ」
「そうそう、逢引き逢引き」
「デートって、逢引きって……」
先制攻撃成功。
突っ込まれたくないとこ質問される前に、あたしのペースに持っていけるわ。
二の句が継げない新聞記者達に聞く。
「ところでお兄さんとお姉さん、この前も二人一緒だったよねえ。別の新聞なのに何で?」
「さては癒着だな?」
イシュバーンさんも完全に面白がるモードだな。
「ち、違いますよ」
「一人で実力者に話しかけるのは怖いからです」
「やだなー。あたしは無分別じゃないってばよ」
「あっ! この精霊使いはひでえんだ。か弱いオレを魔境に捨ててこようとしたんだぜ? これぜひ記事にしといてくれよ」
「敵対行為と見做したからだよ。記者さん達は敵じゃないよねえ?」
ここでキメ顔。
震え上がる二人。




