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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第331話:地母神ユーラシア

 ――――――――――同刻、イシュトバーン邸にて。


 『黒き先導者』パラキアスとイシュトバーンが、差し向かいで語り合っている。


「まったくどうなってんだ。オレんとこにも記者が現れたんだぜ? ちょうど説明に来てた商人が対応したけどよ」

「私とオルムスのところに、港湾の使用許可を取りに来たのが正午直前でしたね」

「オレんとこに悪魔を寄越したのがちょうど昼頃だ。ところが午後にはレイノス中が知ってんじゃねえか。スピードがおっかしいだろ」


 そう言いつつ、イシュトバーンは楽しげだ。

 パラキアスは苦笑している。


「精霊使いは独立戦争のこと、知ってるんだな?」

「よく知ってますよ。私がカラーズに顔を出しただけで、戦時の食料のことに感付いたくらいです」

「ほお。で、今回の魚フェスも?」

「食料の供給元に海の王国を考えていて、レイノスを魚食に慣れさせる目的があるんだと思います。オルムスが魚食について懸念を示した時、任せてって言ってましたから」


 二人の目が合い、笑う。


「いや、実によく動いてくれます。大したものです。私の知り得ない情報についても、あのヴィルという悪魔を飛ばして知らせてくれるんですよ」

「あの幼女悪魔可愛いよな」


 二人が酒を酌み交わす。


「して、私に用というのは?」

「おい、アレを」


 イシュトバーンがお付きの女性に指示し、あるものを持ってこさせる。


「精霊使いが置いてったものだ」

「美しい魔宝玉ですな」


 何色とも断じられない、不思議な輝きの美しい珠だ。

 素晴らしく価値のあるものだと確信できる反面、ある種の茶目っ気をも感じさせる。

 どことなく件の精霊使いユーラシアを想起させる魔宝玉だ。


「まあ、あんたがこういうものに興味がないことは知ってる。ところがこいつは結構な代物でな。世界にこれ一つ、値段などつけられないほどの大秘宝だ」

「ほう」


 パラキアスも興味を示す。


「今精霊使いは、高価な魔宝玉をできるだけ持ってこいっていうクエストを請けててな。人形系レア魔物を狩りまくってるんだ。で、この魔宝玉はウィッカーマン以上の未知の人形系レアのドロップだそうな」

「ウィッカーマン以上の? それはすごい」


 パラキアスが驚く。


「たまたま岩で囲まれた逃げられないところに追い込めてラッキー、と言ってたぜ」

「ふむ、それほどの大秘宝を置いていった、と」

「値段のつけられないものは、クエストの対象にならないからいらないんだとさ。で、問題はここからだ。この石を役立てるべき場面があったらオレの判断で使え、って言いやがった」

「……」

「どう思う?」

「……面白い。この魔宝玉の政治的、外交的価値を言ってるんでしょうな」

「やっぱりそうとしか解釈できねえよな?」


 帝国と戦争になった際、交渉材料として使えないかということだ。

 カル帝国では国宝とされている鳳凰双眸珠より遥か格上と考えられるこの魔宝玉なら、充分駆け引きに用いることができるだろう。


 イシュトバーンが杯をあおる。


「精霊使いユーラシアか……」

「この歳になって、あそこまで愉快なやつに出会えるとは思わなかったぜ」

「うむ、確かに……」


 パラキアスは思う。

 冒険者としての実力もさることながら、驚くべきなのは視野の広さとカンの良さだ。

 あれほどの存在感と影響力を持ち得る少女など、どこにいるというのだ?


「でよ、この珠に名をつけたんだ」

「ほう? 何と」

「聖地母神珠だ」

「美少女地母神珠のほうが喜ぶんじゃないですか?」

「そうか?」


 真剣に迷っているようなのがパラキアスにはおかしい。

 『ユーラシア』とは、ドーラよりもカル帝国本土で広く人民に膾炙している、汎神教の地母神の名なのだ。


「名前は保留だ」

「ハハハ、御随意に」

「ま、あんたもこういうものがあってカードとして切り得るんだ、ということは覚えておいてくれよ」

「はい」

「オレはこいつを収める箱を用意しとくぜ。せいぜい見栄えのいいやつをな」

「お願いします」


 イシュトバーンがやや深刻な表情になる。


「……今回の戦争の原因である悪魔バアルについて。精霊使いに教えていいか?」

「構いませんが、戦後にしてください。最早避けられない戦争です。今彼女の働きを削がれると、犠牲が大きくなる可能性があります」

「うん、そうだよな……」


 少し考えていたが、心を決めたようだ。


「よし、戦後だ戦後」

「自分で出会うかもしれませんがね」

「トラブル体質だしな」


 二人は笑い合い、夜は更けてゆく。


          ◇


「サイナスさん、聞こえる?」


 定例のヴィル通信だ。

 ちょっと慣れてきた。


『ああ、聞こえる』

「こっち思ったより大変なことになった」

『謝っておきなさい』


 違うとゆーのに。

 あたしは犯人じゃねーわ。


「講習会で魚フライのまよねえず掛けを参加者に食べさせてみたんだよ。で、美味いから魚仕入れろってことになってさ。レイノス港は使わせてもらえなかったけど、西門から強歩二〇分くらいの海岸に船を着けられるところがあって、そこに水揚げして運ぶってことが決まった。でもドーラ人には魚食とゆー習慣がないから、普及させるの難しいでしょ? だから魚フライフェスやることになったんだ」

『魚フライフェス?』

「食堂や料理屋に魚フライの一品料理を出してもらって、どこの店が一番売れたかっていうお祭りだよ」

『相変わらず大事にするのが得意だね。フェスはいつなんだい?』

「三日後」

『えっ? 早いな』

「皆の意識がホットな内にやらないといけないから」

『そういうものか』


 そーゆーものなんだよ。

 フェス楽しみだ。


「カラーズはどうかな?」

『二回目の輸送だ。黄の民の輸送隊候補の面々に、青の民セレシア族長がついて行った』

「セレシアさんが?」


 おそらく空き店のチェックだろう。

 してみるとレイノスで輸送隊と別れるな。

 どうやって帰ってくるつもりだろ?


「心配だな。ヨハンさんがカラーズ行ってれば融通が利いたんだろうけど、こっちの講習会に来てたんだよ」

『輸送隊は明日の昼前にはレイノスに到着予定という話だったぞ』


 セレシアさん、一人で帰ってくる気だな?

 危ないぞ?


「わかった、一応注意しとくよ」

『頼むね』

「うん、おやすみなさい」

『ああ、おやすみ』

「ヴィル、いつもありがとうね。通常任務に戻って」

『了解だぬ!』


 さて、明日どうすべ?

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