第329話:悪巧みだよ
何故か緊張気味の講習会参加者に向き直る。
三日後にはイベントだとゆーのに、ビビってどうする。
行動を起こすんだよ。
「正式名称は『イシュトバーン杯フィッシュフライフェス』に決定。皆さんは店に幟でも看板でもいいから立てて、フェスの正式名称と自分の店が参加店であることをわかるようにしといてね。質問ある人!」
「魚はいつ入るんだ?」
「明日明後日三日後の朝、さっきの地図の場所に魚を持ってくるよう手配するよ。そこで買ってください。明日はとりあえず今日の三倍量くらい、いろんなフライに向く魚を取り揃えておくでいいかな? で、明後日とフェス当日の分は直接魚の業者さんに発注してね」
いずれは卸商なり仲買人なりが間に入るだろうけど、最初は仕方ない。
各店で個別に魚人商人? 漁師? と交渉してください。
「明日明後日も、店の客に魚料理出して構わないか?」
「もちろん構わないよ。とゆーか、売らないと明日明後日買う魚がムダになっちゃうじゃん。お客さんの反応見て出す一品を決めればいいんじゃないかな」
おっと皆さん目の色が変わりましたね。
実質的には明日から魚フライの提供開始なのだ。
「順位はどう決めるんです?」
「紳士的に売り上げ個数を自己申告してね。インチキしてバレると、オレの顔に泥を塗る気かーってイシュトバーンさんに怒られるので注意してちょうだい」
おー皆が一斉にカクカク首を縦に振ること、何かの状態異常みたいだ。
面白いものを見た。
「優勝すると何かメリットあるかな?」
「名誉だけかな。当日はおそらくかなり盛り上がるよ。優勝したら美味い魚料理を食べさせる店として有名になるだろうね。でもフェスに参加すること自体が、うちの店では魚料理やってますのサインになるから、そっちのメリットのが大きいと思う。優勝に拘らなくても、この店のフライ美味かったなーって印象に残ればお客さん増えるから頑張って」
以上かな。
「よし解散。ヨハンさんはイシュトバーンさんとこへ説明に行ってもらっていいかな?」
「心得ました!」
ふー終わった。
皆が帰り支度を始め、後半地図の説明の時以外あんまり存在感のなかったピンクマンが話しかけてくる。
「えらく大事になったもんだ」
「まあねえ。今日はあたしついて来ただけのつもりだったんだけど。ごめんね、まよねえずの講習会だったのに、魚メインになっちゃった」
サフランが笑う。
「いいんですのよ。これで酢も売れますから」
「多分このフェスは大当たりするから、酢の発注ガンガンかかるよ。機を逃さず目一杯増産して」
「はい!」
競争になると各店目一杯工夫してくるだろうしな。
どんなうまそーな魚フライが出てくることやら。
三日後が楽しみだ。
「ところで今日、ラルフ君がこっち来たのは、何か目的があったのかな?」
「いえ、カラーズに輸送隊出してますので、自分らしか随員がおらず」
「あっ、輸送隊今日だったっけ? なのにヨハンさんは、まよねえず講習会に来てくれたんだ?」
「ユーラシアさんの来るほうが絶対面白いからと……」
食えない商人とゆーかできる商人とゆーか。
今日講習会開始の時に妙なフリを浴びせてきたことといい、なかなかやるじゃないか、ラルフ君パパ。
集会所の出入り口を開けると大勢の人が集まってた。
精霊連れで飛んでたのは目立っちゃってたからだな。
釈明しなきゃいけないのか。
面倒だな。
「ドーラ日報です。精霊使いユーラシアさんで間違いございませんか?」
「レイノスタイムズです。星風の月二一日の精霊様事件は、ユーラシアさんが犯人ではないかという疑惑が持ち上がっておりますが、どうお考えですか?」
何これ?
どこのお兄さんお姉さん?
ピンクマンがそっと耳打ちしてくる。
「新聞記者だ。適当にあしらえ」
日々のニュースを掲載する新聞とゆー媒体がレイノスにあることは知ってる。
ははーん、空飛んできたことであたしの居場所を見つけた。
あたしは叩けば埃の出る身だ、ゴシップ記事でも載せたろっていうんだな?
埃なんか出ないわ、出るのは誇りだわ。
「美少女精霊使いユーラシアだよ。精霊様事件はあたし達がやったことに間違いないよ。迷惑かかったならごめんね。だって精霊が差別されて頭来ちゃったからさあ。お詫びにあの時の精霊様の魔法をもう一度見せようか」
クララに目配せ、空に向けて『精霊のヴェール』を放つ。
ハハッ、挨拶代わりの先制攻撃だ。
「奇麗……」
「これが精霊様の魔法か……」
青空に映し出される虹色の滝にも似た光のひだに魅了される人多数。
「これ、精霊専用の魔法なんだ」
ハッと我に返る新聞記者達。
「で、では本日の怪しげな集会は何ですか?」
「悪巧みだよ」
キメ顔の笑いを見せると、シーンと静まり返る。
わざわざ今日のイベントを話題にしてくれるとは。
いい機会だ、逃がしてやらん。
「レイノスの人達がまだ知らない、とてもおいしい食べ物を独占していたんだ」
「そ、それは?」
「お魚のフライ」
魚? と思っているのだろう、群集に戸惑いが広がる。
わかってるわかってる。
「魚、ですか。生臭さが嫌われるでしょう?」
「ちょっと美味とは信じられませんが……」
「魚フライの味についてはあたしが語るより、各料理店の皆さんに語ってもらおうじゃん。より真実味があると思うなー」
次々と飛び出す、今日の参加者達からの熱のこもった発言。
「オレも半信半疑だったが、本当に美味いんだ!」
「早速明日から試験的に当店のメニューに加える予定なんですよ」
「食わずに判断するのはやめてくれ!」
「まともな舌を持ってりゃ、不味いって言うやつはいないぜ」
それくらい力説してくれれば十分ですよ。
まだ言い足りない参加者達の発言を手を上げて制した。
「これほどの美味を我々で独り占めしていたことを深く陳謝いたします。お詫びに三日後、皆様が格安で件の魚フライを御賞味できる機会を設けまーす。題して『イシュトバーン杯フィッシュフライフェス』!」
イシュトバーンさん絡んでるのか、などの驚きの声が上がる。
絡んでるんだよ。
あのじっちゃんは愉快なことが大好物だから。
「じゃ、あたし達は行くところがあるんで帰るね」
「「えっ?」」
「ばいばーい。転移の玉っ!」
もう十分楽しんだから、後処理は押しつけて帰宅するのだ。




