第325話:まよねえず講習会
「案外お尻が痛いものだとわかった。ドラゴンと戦うよりよっぽどつらいです」
「ハハハ、そうですか」
ラルフ君家からレイノスへ行くのに、初めて馬車とゆーものに乗った。
結構ワクワクしていたのだ。
が、馬車がこんなにガタガタするものだとは。
美少女精霊使いの魅力的なお尻が四角くなってしまうわ。
ラルフ君パパは八人乗り馬車を二台用意してくれた。
何故かあたし達がラルフ君パパママと同乗だ。
もう一台の馬車にラルフ君パーティーとピンクマン、サフランが同乗している。
ラルフ君達が来るのは何でだろうな?
フィルフョー家の使用人がついて来てないから、雑用兼護衛だろうか?
ラルフ君パパヨハンさんが、あたしの荷物に目を留めたようだ。
「お持ちになっているのは何ですかな?」
「魚やジャガイモとかだよ。まよねえずでおいしく食べられる料理として紹介しとこうかと思って」
「魚、ですか?」
ラルフ君パパが首をかしげる。
……解説しとくか。
「……個人的に戦時の食料の一つとして考えてるんだ。魚がレイノスの人に受け入れられるなら、だけど」
「……なるほど、重要ですね」
御者には聞こえまいが、一応声を落とす。
レイノス港以外のどこかに水揚げできるなら、レイノス港に押し寄せるであろう帝国艦隊を躱せるだろうしな。
まあレイノス人の魚人に対する反感を弱めて、さらに魚食に慣れさせないといけないとなると、ハードルはメッチャ高い。
「ヨハンさんは、レイノス西の『オーランファーム』を知ってるかな?」
「はい、もちろん」
「あそこの息子が『アトラスの冒険者』なんだ。『オーランファーム』が帝国軍に襲われるとレイノスの食料がいっぺんにピンチになっちゃうけど、おそらく問題ないな。従業員を鍛えてきたから。ただし西域からの物資輸送が大丈夫かは、今のところ何とも言えないんだよね」
「西はそういう状況ですか」
ラルフ君パパが沈思する。
戦争があるということは、気分を落ち込ませるものだ。
エンターテインメントの要素が感じられないもんな。
「今日の講習会は、思ったより重要なものになりそうですな」
「参加者はそう思ってないだろうけどね」
低く笑い合う。
「ところでせっかくユーラシアさんがいらしているので、名前を大いに利用させていただきたいのですが」
えーと、どゆこと?
「ユーラシアさんは神秘的な精霊使いということで、レイノスでの知名度がかなり増しているんですよ」
「ふーん?」
知らんかった。
レイノスとの直接の関わりなんて、精霊様騒動しかないのにな?
「精霊使いイコール精霊様の巫女ということは、もうバラして構わんのでしょう? だったらセンセーショナルに公表して、同時に魚食の認知と酢の販促に繋げればよろしいではないですか」
「一理あるねえ」
ラルフ君パパは、こういう腹積もりがあってあたし達と相乗りを望んだのか。
しかしあたしもここいらで精霊様の事件を清算しておくつもりだったしな?
渡りに船とゆーか、ラルフ君パパと思惑がある程度一致していれば協力してもらえるだろ。
「じゃ、お任せしまーす」
「やあ、これで今日の成功は決まったようなものです!」
成功って単なる講習会でしょ? と、この時は思っておりました。
◇
「本日のテーマである調味料まよねえずの共同開発者にして、先の精霊様事件の中心人物、アルハーン平原掃討作戦の大立者、ドラゴンスレイヤーかつマスターレベルの冒険者、精霊使いユーラシアさんです。拍手!」
「「「「「「「「パチパチパチパチパチパチパチパチ!」」」」」」」」
居並ぶレイノスの食堂や料理屋の店主あるいは料理人達の前で、ラルフ君パパに大げさに紹介される。
おいおいおいおい、どーゆーことだってばよ?
今日はついて来ただけのつもりだぞ?
あたしに狂言回しでもやらせようとゆーのか、あるいはあたしが仕切るならそれでも構わないって感じだな?
「ではユーラシアさん、挨拶お願いします」
ラルフ君パパに思わせぶりな視線を向けられる。
あとは任せたってことか。
ははあ、確かに気分良く注目を集めてるけれども。
あーんどサフランやピンクマンじゃ、この視線の集中に耐えられないだろうけれども。
よし、了解。
あたしのターンだ。
「はーい、ただ今御紹介に与りましたユーラシアでーす。今日はカラーズの酢を御購入いただいた皆さんに、レイノスの食に革命をもたらす調味料まよねえずの製作法をこっそり伝授いたします。まず本日の講師、カラーズ黒の民のサフラン先生を紹介しますね。彼女はまよねえずの共同開発者であり、カラーズ産酢の製造総責任者でもあります。拍手!」
「「「「「「「「パチパチパチパチパチパチパチパチ!」」」」」」」」
こらサフラン、あんまペコペコすんな。
ピンクマンは固まるな。
何のために来たんだか。
「では、サフラン先生お願いします。卵は黄身のみを使用するんですよ……」
向こうではクララが既に調理を開始している。
あっという間にジャガイモの皮を剥き終え、茹で始めている。
うん、人が多いからどうかと思ったけど、クララなら平気だな。
「……油は少しずつ混ぜます。よくかき混ぜながら全て分量全て投入したらでき上がりです。皆さんもやってみてください」
アトムとダンテが火を見ている間にクララがシイラを一口大に切り分けていき、軽く塩を振って小麦粉を振っていく。
「……しっかり混ぜるのがコツです。でないと分離しやすいですよ」
ジャガイモは茹ったか。
アトムとダンテが湯から上げ、潰していく。
クララはもうシイラを揚げ始めている。
手際がいいなあ。
さすがクララ。
「できましたか? では味見してみてくださいね」
「ああ、酸味がマイルドで万人向けだな」
「白い見かけも食欲をそそるよ」
うん、概ね好評だ。
料理人ならまよねえずのポテンシャルはわかるだろ。
「まよねえずは生野菜や焼き物など、比較的何にでも使えますが、今日は例としてポテトサラダを紹介いたしまーす。茹で潰したジャガイモに、塩とまよねえずを混ぜるだけ。試食してみていただけますか?」
小分けしたポテトサラダに手を伸ばす参加者達。
「あっ、美味い!」
「なるほど、食べたことのない味だ」
「これはイケるじゃないか」
よし、ポテトサラダはこれで広まるだろう。




