第320話:イシュトバーンさんとヴィル
フイィィーンシュパパパッ。
ギルドから帰ったあと、レイノスのイシュトバーンさん家にやって来た。
おお、大きな屋敷だね。
外から見えないし、ここならうちの子達連れてきても問題ないわ。
「何やつ!」
すぐに二人の警備員が駆けつけてきた。
大したもんだ。
女王が真っ先に転げ出てくるどこぞの王国とは大違い。
「こんにちはー。かの有名な美少女精霊使いユーラシアだよ」
「おお、貴女がユーラシア殿か。話は聞いている」
あたしの自己紹介に毒気を抜かれたか、すぐに闘気がなくなる警備員達。
とゆーかあたしはどこからどう見ても可憐であって、奇怪ではないから。
「イシュトバーンさんに頼まれてた、海の王国のメッチャ旨みの強い海藻を買ってきたんだ。イシュトバーンさんいるかな?」
「うむ、しばし待たれよ」
一人が報告に走る。
いってらー。
「こちらへどうぞ」
雨の当たらない大庇のところに導かれる。
今日はあんまり降らなかったな。
そろそろやみそう。
「警備員さんはなかなかの腕だねえ」
お世辞ではない。
この警備員はゆうに上級冒険者くらいの強さはある。
さすがにイシュトバーンさんは腕の立つ人雇ってるわ。
「貴女らほどではない。いや、噂には聞いていたがこれほど化け物じみたパーティーとは思わなかった」
あたし達が『かの有名な精霊使い』ユーラシアのパーティーであることに関しては疑っていないようだ。
でも『化け物じみた』とゆーのは、美少女冒険者に使う形容語じゃないんだけど。
教育がなっとらん。
「イシュトバーンさんにもらった『地図の石板』の転送先がさっきのところなんだよ。あたし達また時々遊びに来ると思うから、覚えておいてね」
「うむ、わかった」
先ほど報告に向かった警備員が、何本かの傘を抱えて駆け戻ってくる。
「すぐに通せとのことです」
案内されて奥へ進む。
屋敷のところまで来たら、介添えされたイシュトバーンさんがいた。
「おう、よく来たな精霊使い! ん? 今日は一人多いか?」
「こんにちはー、イシュトバーンさん。この子、うちの悪魔のヴィルだよ」
「こんにちはぬ!」
「百獣の王のポーズ!」
「がーおーぬ!」
「おう、可愛いな」
イシュトバーンさんがあの好奇心に満ちたえっちな目をヴィルに向ける。
ヴィルの居心地が良さそうだから、イシュトバーンさんもマジで可愛いと思ってるんだろうな。
悪魔に対して抵抗のある人とは思ってなかったけど。
「……精霊使いが高位魔族を手下にしてるって話は聞いたな」
「ヴィルはうちの連絡係兼偵察係をしてるんだ。緊急に連絡ある時、ここにも飛ばすことあるかもしれないからよろしくね」
「そりゃ面白えな!」
イシュトバーンさん大喜びじゃないか。
面白い面白くないでヴィルを使ってるわけじゃないんだけど。
エンターテインメントを欲することあたし以上だな。
「はい、警備員の皆さんも注目。うちのヴィルは喜びとか幸せとかの感情が大好きないい子です。皆さんを不快にさせることはありません。でも高位魔族なので攻撃力は半端ないです。間違って敵対すると塵にされるので気をつけてください」
「よろしくお願いしますぬ!」
『塵にされる』で若干引いてる人もいたよーな気もするけど、概ね受け入れてもらえたようだ。
「じゃ、上がってくれ。あれか? 海藻が手に入ったか?」
「うん。今日海の王国行ったから買ってきたよ」
屋敷に上がり、フルコンブ五枚を渡す。
「五〇〇ゴールドだったな」
「はーい、確かに。それからこれはお土産」
「おっ、この前と同じコブタ肉か。ありがたくいただくぜ」
使用人に下げさせる。
「ところであんたはどうして海の女王と知り合ったんだ。普通じゃどうやったって会えねえだろう?」
「うーん、ちょっとムリだと思う」
「『アトラスの冒険者』のクエストか?」
「いや、違うんだよ。話せば長くなるんだけど……」
最強魔法を海に撃ち込んで津波が起きたこと。
二度目に最強魔法の試し撃ちをした時に魚人が現れ、海の王国に招待されたこと。
海の女王に『地図の石板』をもらったことを話した。
「だから『アトラスの冒険者』が無関係ではないんだけど、直接の関わりはないとゆーか」
「ほう」
「ここに繋がる転送魔法陣も謎なんだけど」
「ハハッ。うちへ来る『地図の石板』が何故あったのか、オレもわからねえ」
イシュトバーンさんにもわかんないの?
どうなってんだ、『地図の石板』のシステムは。
「ペペちゃんの魔法か。あの子も相当ぶっ飛んでるだろ?」
「ぶっ飛んでるどころじゃないよ。この前も魔法の試し撃ちしてて手元が狂ったとか言って、世界樹を根元から折っちゃったの」
「え? その話知らねえな」
「世界樹って魔境の濃い魔力を吸って成長する、トネリコって木の特別な変種なんだって。で、折れちゃって魔力を放出したから、一時的に人形系レア魔物が大繁殖してたんだよ。いやー、稼ぎ放題だったな!」
イシュトバーンさんが呆れたような顔で見てくる。
「大喜びしてるのあんただけだろ。どうなったんだ? 問題ないのか?」
「折れた世界樹の枝をたくさん挿し木したら、すぐ根付いたんだ。魔力濃度が高くて活性高くなってるみたいだね。どんどん魔力吸いだしたんで、今はもう大丈夫だよ」
「要するに、次代の世界樹候補がたくさん芽吹いてるってことだな? それとも全てが世界樹になるのか?」
「いずれ一番強い一本だけが勝ち残って、新しい世界樹になるんだそーな」
世界樹もマジックウォーター精製の材料にはなるみたいだけどなあ。
さすがに魔境に工場作るのはあり得ねえ。
「でもドラゴンとか出始めて稼げなくなっちゃった」
「想定外のことで悲しがるんじゃねえよ」
「魔力濃度が落ち着くとダメだなー」
「あんた何しに行ったんだよ? 目的理解してるだろうな?」
イシュトバーンさんが笑う。
「今日のも面白い話だったぜ。飯、食ってくか?」
「ありがとう! 食べていく!」
「幼女悪魔は何か食べるのか?」
「遠慮するぬ!」
「ヴィルは皆が楽しいと、その感情を吸ってお腹一杯だからいいんだよ」
「ふむ」
何か言いたそうだな?
「こんな悪魔もいるんだな」
「とてもいい子だよ」
「とてもいい子ぬよ?」
言い方からすると、イシュトバーンさんは他の悪魔に会ったことがあるのかもしれない。
ヴィルの頭を撫でてやる。




