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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第316話:超過勤務手当てをもらわなきゃ

 寝る前、ハーブティーを飲みながらまったり過ごすひと時。

 クララと話して、考えをまとめる機会でもある。

 あたしにとっては、食事と睡眠とクエストとエンタメの次に重要な時間だ。

 あれ、あんまり優先順位高くないな?


 まあいい。

 先にサイナスさんとヴィル通信だ。

 赤プレートに話しかける。


「サイナスさん、こんばんはー。聞こえる?」

『ああ、聞こえるよ』

「コップの試作品はヨハンさんの息子さんに渡してきたよ」

『御苦労さん。何か言ってたかい?』

「いや、特別なことは何も」


 今日掘り出し物屋が来てたから慌ただしかったしな。

 試作品に対してはまずヨハンさんが見てからの判断になるだろう。

 今の段階では何とも。


「明日黄の民の村へ行くから」

『わかった。輸送隊の人員の選抜だな? オレも同行しよう』


 フェイさんとこはサイナスさんいなくてもよさそうではある。

 でもせっかくついて来てくれるというなら、お供くらいさせてやろう。

 美少女精霊使いの寛大さとゆーものだ


「他、カラーズで何かあった?」

『ヨハン氏から連絡があった。酢は全部売れたそうだ。黒の民の村に追加発注がかかってるんだが、醸造ラボ作る話はどうなってるだろう?』

「新築かな増築かな? 確認しときたいたいねえ」

『うむ。戦争を考えても酢は非常に重要だ』


 おっ、サイナスさんわかってるね。

 帝国戦まで最短で一ヶ月程度だろう。

 野菜の少なくなる冬ってのが食料事情を難しくする。

 酢漬けの保存食に慣れてもらいたいもんだ。


「明日黒の民の村にも行ってこようか。黒の民はどーも慎重というか、第一歩の踏み出しが遅いからなー。必要なら尻叩かないと」

『ハハッ、急に楽しそうになったね』

「発破かけるのは楽しいねえ。それよりヨハンさんの商隊は次いつ来るんだったっけ?」

『この前の商談の日から七日後の予定だったが、明後日に前倒しになった』

「ふーん、大したもんだ」


 売れてる証拠。

 カラーズ産が評価されるのはいいことだ。


「わかった、ありがと」

『じゃあおやすみ』

「おやすみなさい。ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」

『了解だぬ!』


 こっちはこれでよし。

 クララが聞いてくる。


「灰の民の村は問題なさそうですか?」

「カラーズとレイノスとの交易が始まっても、灰の民の村は最初参加しないじゃん? でも全然問題ないな」

「野菜はカラーズだけでも捌けそうですものねえ」

「うん。掃討戦後にもらった土地あるじゃん? あそこをいつまでに畑にできるかで、儲けが大分変わりそう」


 秋蒔き作物に間に合えばいいんだが、ちょっと難しい情勢だ。

 帝国戦が持久戦になった時影響しそうなんだよな。

 サイナスさんも急がせてるみたいだけど。


「ユー様、シスター・テレサをどう思いました?」

「バエちゃんに輪をかけてポンコツだねえ」

「いえ、そういうことではなくて」


 ハハッ、まあクララの言いたいことはわかってる。


「前例に反してあたしみたいな可憐な女の子を『アトラスの冒険者』に選ぶに当たっては、本部でも意見が割れたでしょ。シスター・テレサはあたしを推してくれた側の人だと思う」

「支給されたパワーカードの入手経緯からしておそらくは、ですね?」


 バエちゃんの上司が博物館に直談判して二枚だけ譲ってもらったとのことだった。

 上司がシスター・テレサだとすれば、あたしに好意的な人だと判断できる材料にはなる。


「ただ今日は最初あたしをかなり警戒はしてたよね。食事会に割り込んできたのも、明らかにこっちを探るためだし。でも単純な人だよ。煙に巻いておいたから問題はないでしょ」

「シスター・テレサが報告するであろう、さらに上の人はどうでしょうか?」


 カップに口をつける。

 来年からはハーブティーも自前でいけるだろう。

 魔境で取ってきたタイムが根付いている。


「……問題があるとすれば上の人だね。でもどんな人であっても、今『アトラスの冒険者』として一番働いてるあたし達を、特に反抗的な態度を見せているわけでも不良行為があるわけでもないのに切る度胸はないでしょ。効率が悪くなるだけじゃなく、他の冒険者達にも動揺を与えるから」


 クララがホッとしたような表情を見せる。


「ということは、今までと全く変わらないですね」

「うん、今のところは」

「今のところは、ですか?」


 温度が下がってきた。

 ハーブティーはぬるいくらいがちょうどいい。


「クララもあたしと同じこと考えてるんじゃないかな? 冒険者へのクエストや依頼の斡旋は本来、ドーラ側でやらなきゃいけないことだって」

「ユー様……」

「今はいいんだ。うまく機能してるから。でも将来は『アトラスの冒険者』のシステムをひっくり返さなきゃいけないことがあるかもしれない。その時は今日掘り出し物屋で買った黒妖石を転移の玉とビーコンにしてさ。デス爺の転移術であちこち行けるようにしようよ。クララの飛行魔法もあるしね。正直『アトラスの冒険者』がなくなって困るのは、身動き取れなくてここに押し込められることだけだな」


 予想外のエンターテインメントを楽しめる機会が減るのも、困るっちゃ困るけど。

 クララが驚いた表情を見せる。


「ユー様は『アトラスの冒険者』の廃止まで考えて、黒妖石を買ったんですか?」

「考えるのはタダだからねえ」


 飲み終えたカップを置く。


「何がヤバいってコブタを狩れなくなるのが一番ヤバい。目前に迫る食糧危機」

「あはは」


 クララは笑うが、食糧問題は何より深刻だぞ?

 しかし……。


「とりあえずバエちゃんとこがすぐにどうにかなることはないから、しばらく様子見でいいよ。待ってくれないのは戦争」

「私達も西域を守ることになりますか?」

「いや、もうちょっと働かなきゃいけなくなりそう。カンだけど」

「ユー様のカン、当たるじゃないですか。どう働くんですか?」

「うーん、超過勤務手当てをもらわなきゃ合わないくらい」

「わからないですよ」


 あたしが帝国戦で死ぬようなことを、夢の中でおっぱい女神が言っていた。

 正直西域なんかで死ぬような目に遭うとは思えないのだ。

 多分あたしにはあたしの戦場がある。 


「あたしもわかんないんだよ。まあ活躍しなきゃ世間が許さないってことで」


 徐々に眠くなってくる。

 眠気に逆らうのはよろしくないのだ。


「おやすみ、クララ」

「おやすみなさい」

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