第313話:シスターもへっぽこ
フイィィーンシュパパパッ。
「バエちゃーん、シスター、お肉持ってきたよー」
チュートリアルルームにやって来たが、おかしいな、誰も出てこない。
もっとも漂うこの臭いで想像はつくのだが。
もー換気しなってば。
向かいの壁の突起を操作して控え室へ。
「うえええ、ゆーぢゃーん……」
「ユーラシアさん……」
悲嘆にくれるバエちゃんとシスター・テレサの二人。
またかれえ焦がしたな?
しょーがないなー、シスター・テレサまでへっぽこだったとは。
「どうなってるの?」
「こんなんなっちゃった……」
「お見事」
奇麗に焦げついている。
奇麗にってのはおかしいか、最初焦がした時より状態がひどいかな?
でも半分くらいは救えそう。
「ダークマター生成技術者上級の資格を授与しよう」
「うええええ、ユーちゃんが皮肉言う」
「言うわ! 食べ物を粗末にすんな!」
「火をかけたまま油断してイシンバエワと話していたら、こんなことになってしまって……」
「そんなことだと思ったわ。でも大丈夫だぞ? 失敗は誰にでもあるもんだ」
シスター・テレサも困惑している。
「あ、あの量が……」
「大丈夫だってば。クララ、お肉たっぷり煮といて。野菜とフルコンブ取ってくる」
「タマネギとニンジンならばあります!」
「じゃ、それも一緒に煮て、灰汁取っといて」
おお、クララ早い。
もう具が皆鍋の中に入ってるじゃん。
さすがだな。
「行ってくるよ」
転移の玉を起動し帰宅、フルコンブを持って戻る。
「おまたせっ! もう沸騰してるね」
クララが灰汁を掬い取っている間に、フルコンブを細切りにする。
「いいかな? フルコンブ投入」
お肉と野菜とフルコンブの相乗効果を見よ!
しばらく煮て味見、おお、いい感じに旨み出てるじゃん。
さすがフルコンブ。
ダシ取るだけじゃなくてフルコンブも食べちゃお。
「塩ちょうだい」
薄めに味付け、最後に焦げ残りのかれえを入れてよく混ぜて……。
「ほい、できあがり! 具多めのかれえスープだよ」
「「あっ、おいしい!」」
美味いのは当然だよ?
かれえだもん。
「ど、どうして……」
「あたしはかれえらいすおいしいと思ったけど、こっちの世界では食べつけないものだからさ。初めはこれくらいマイルドなものを普及させた方がいいかなとゆー考えも持ってるんだ」
かれえはちょっと辛めがおいしいと思う。
でもあんまり辛いと初めて食べる人はビックリしちゃうだろうからな。
子供向きでもないし。
「カレーの普及って、ユーラシアさんは……」
シスター・テレサが驚いている。
「こっちの世界でもくみん、たあめりっく、こりあんだあは見つけたんだ。来年にはかれえの試作品を作ってみせるよ」
「ユーちゃんすごーい!」
「かれえはおいしい上に味も香りも独特だからね。こっちの世界でも絶対ヒットするよ。米普及の切り札にしようと思ってるの」
「ちょっと待って! こっちの世界って?」
悲鳴に似たシスター・テレサの声だ。
え? そこから?
考えてみりゃ異世界どうこうってのは秘密だったんだっけ?
「えーと、バエちゃんやシスターの世界とは亜空間で隔てられた、こっち側の世界という意味だけど?」
「どうして異世界だということを知ってるの!」
「ヴィルカモン!」
一々説明するのは面倒なのでヴィルを呼び出す。
最初はバエちゃんの言葉尻から気付いたってのがバレると、バエちゃんが減給されちゃうかもしれないし。
「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん、ヴィル参上ぬ!」
「ヴィルちゃんいらっしゃい」
「悪魔? あ、昨日言ってた……」
「そうそう、うちの御機嫌な悪魔ヴィルだよ。とってもいい子だから可愛がってやってね」
「こんばんはぬ! こっちのお姉さんは誰かぬ?」
「シスター・テレサ。バエちゃんの上司だよ。ヴィル、シスターにこのチュートリアルルームのある空間について教えてあげてくれる?」
「わかったぬ! ここは亜空間に浮かぶ、小さな独立した実空間だぬよ」
口あんぐりのシスター・テレサ。
このパフォーマンスはそっちの世界でも共通なのな。
「大体わけのわからんオーバーテクノロジー見せつけといて、今更同じ世界でございはありえないでしょ」
「かもしれませんが……」
「話は御飯食べてからにしようよ。冷めちゃうよ? おいしい御飯をおいしくいただくことは何より大切なのだ!」
◇
「にくがぜんぜんぜんぶな~くなって~にくをさがしはじめたよ~」
「やっぱり薄めのスープでも十分かれえの特徴は出るね。それがわかったのは収穫だった」
「ユーちゃんは勉強熱心ねえ」
「あの、ユーラシアさん?」
シスター・テレサが恐る恐る話しかけてくる。
かれえはスープにしてもなかなか美味い。
「何だろ?」
「ユーラシアさんほど世界の理に近づいている『アトラスの冒険者』は、どれほどいるのでしょうか?」
「つまり亜空間とか異世界とかの方面のことかな?」
「はい」
「世界の理っていうと大げさだね。冒険者個人のスタンスによるんじゃないかな」
「スタンス?」
シスター・テレサが首をかしげる。
「『アトラスの冒険者』は、謎手法で『地図の石板』送りつけたりいきなり遠隔で転送魔法陣作ったりするじゃん? ぶっ飛びな事実が多いから、皆多かれ少なかれ疑問は持ってると思う」
「や、やはり怪しんでますよね?」
「怪しんでるね。けどお金目的だったりクエスト自体が楽しかったりしたら、世界がどうこうなんて突っ込まないよ。あたしだってそっちの世界のうまーい料理には興味あるけど、他はどうでもいいもん。たまたまクエストで知り合いや知識が増えて、わかってきたことが多くなっただけだよ」
意識してぼかした答えにしておく。
シスター・テレサの立ち位置も権限ももう一つわからんからな。
「ぶっちゃけ変なところに疑問を持ったせいで本部を警戒させて、『アトラスの冒険者』をクビになるのが一番困る」
「と、考えてる冒険者が多いのですか?」
「じゃないかなあ? 重要なのは目の前の生活で、あたしはこっちの世界を豊かにするために異文化交流したいんだよ。シスターも生活大事なのは一緒でしょ?」
「も、もちろんです」
「では本題いくぞ? シスターの婚活がうまくいかないのはどうしてだと思う?」
シスター・テレサがバエちゃんをキッと睨むが、バエちゃんはぶんぶんと顔を振る。




