第310話:掘り出し物屋さん来たる
掘り出し物屋さんが来て荷物を広げ始めている。
おお、目の色変えた冒険者でごった返してるね。
なかなかの熱気だ。
「はい、いらさいいらさい。早い者勝ちだよっ!」
今日は装備品がメインでその他色々な感じ。
これは盛り上がるなあ。
残念ながらパワーカードも食材もないようだ。
まあ食材を売るとは思ってなかったが。
「このバックラーの性能は?」
「おっ、いいとこ見てるね。カバーできる面積こそ小さいが、裏に予備の短杖やナイフを収納できる。自動修復とマジックポイント自動回復三%がついてるぜ。六〇〇〇ゴールドだ」
「よし、買った!」
「風読みの長弓欲しいやつはいないか? ものは古いがオーバーホール済み、命中率補正付きの逸品だ。これも六〇〇〇ゴールド!」
「買います!」
あ、ラルフ君だ。
そういや弓欲しいって言ってたっけな。
アーチャーのウスマン君用か。
「栗の杖のジュエルは何ですか?」
「透輝珠だ。魔法力補正が+二五%あるよ。中級向け三〇〇〇ゴールド!」
「いただきます!」
「ダガー見せてくれ」
「下段の四本はお勧めだよ。全て自動修復つき、四〇〇〇ゴールド均一!」
「一番右のくれ!」
活発に売買がなされる。
皆が興奮してるのがわかる。
ヴィル悪酔いしないかなあ?
あたしの側にいなさい。
「パワーカードの出物はないなあ」
「値切られるから懲りたんじゃねえか?」
やっぱそーかなー。
最初の時は悪いことした。
もっともパワーカードが出品されたとしても、買うとは限らんのだが。
「まあ、あんたは積極的に参加するんじゃねえよ」
「あれ? ダンにしては消極的な発言だね。エンターテインメント追求の精神はどーしたの?」
「どうしたんだぬ?」
「ハハッ、デビューして二ヶ月ちょいとは言え、今やユーラシアはマスタークラス冒険者様だろ。少しでもいい装備を揃えたい初級中級の冒険者に譲ってやれよ」
あたしだってもちろんそーゆー気があるから、余りものくらいでいいやと思っているのだ。
しかしまさかダンまで低レベル者に配慮しようとしているとは。
レベル五〇超え『アトラスの冒険者』ともなると考え方が変わるのかなあ?
『アトラスの冒険者』としてはあたしより後輩なのに生意気な。
「あれ? スキルスクロールもあるじゃん」
「オヤジ、何のスクロールだ?」
「『鹿威し』三〇〇〇ゴールド、『煙玉』二〇〇〇ゴールド、『プチウインド』一〇〇〇ゴールドだよ」
「『プチウインド』ちょうだい!」
反射的に買ってしまった。
精霊使いが買ったってことで注目されたし、掘り出し物屋さんには警戒されたけれど。
「おいおい、あんたには必要ないだろう?」
「あたしに必要ないってことで言えば、まあ当たってるけど」
『プチウインド』。
『火の杖』に付属する『プチファイア』と同じく、マジックポイントの必要ない攻撃魔法だ。
同じ風属性の『ウインドカッター』に比べても、与ダメージは小さいのだけれども。
「ダン買わない? あの沈黙無効の子の攻撃手段としてちょうどいいと思うよ。でなきゃピンクマンに売ってもいいな。今日来てないけど、魔法銃にノーコストの魔法は相性いいと思うんだよね」
考えてる考えてる。
プチ系攻撃魔法はノーコストというだけで価値が高い。
攻撃力が高くないから売れ残ってたみたいだけど、マジックポイントを節約したいヒーラーの攻撃手段としては有力だと思うんだよな。
どういうわけだかプチ系は、系列属性魔法の固有能力持ってても覚えられないし。
チュートリアルルームでも売ったらいいのに。
今日提案してみよ。
一五分もするとほとんどの出物は売れてしまい、人もいなくなっていった。
その中であたしは売れ残ったあるものに注目していた。
なかなか手に入らないブツだからだ。
「クララ、あのくらいの大きさでも、ビーコンには使える?」
「十分だと思います」
ならば欲しい。
買うべし。
「掘り出し物屋さーん、その石いくら?」
「……一個五〇〇ゴールドだ」
「やだなー。疑り深い目であたしを見ないでよ。最初のパワーカードの時は悪かったと思ってるから」
「そうかい? どえらく値切られたのは俺にとってもトラウマでな」
掘り出し物屋さんの狷介な表情が少し和らぐ。
「精霊使いさんよ、あんたこの石知ってるのかい?」
「黒妖石でしょ?」
「ほう?」
掘り出し物屋さんは驚いたようにあたしを見る。
ソル君が聞いてくる。
「ユーラシアさん、あの石何なんですか?」
「魔力を溜められる石なんだよ。ただあれは小さくて、そーゆー用途ではちょっと使いづらい」
「ちぇっ、詳しいじゃねえか。じゃあ仕方ねえ。二五〇ゴールドでいいぜ」
「いや、五〇〇ゴールドで買うよ。全部ちょうだい」
「「「えっ?」」」
掘り出し物屋さんとダン、ソル君の声がハモる。
「一〇個で五〇〇〇ゴールドだ。いいのかい?」
「いいよ。これで貸し借りなしだよ」
「オーケー。次も楽しみにしてるぜ」
掘り出し物屋さんがニッと笑う。
「よーし、いい買い物したっ!」
ダンが訝しげに聞いてくる。
「またユーラシアの値切りが炸裂したかと思ったのによ。何に使うんだ、それ?」
「うーん、本当に使うかどうかはわからないな。これ灰の民の村の元族長デス爺の転移術で、行先の目印になり得るんだよ。案外珍しい石で、手に入れようとすると難しいから買っといたの」
「転移術、ですか」
ソル君にも思うところがあるようだ。
「『アトラスの冒険者』のクエスト転送先以外にも、色々行けるところがあったら楽しいと思わない?」
「そうですね」
落ち葉を運ぶのに便利そうだ、などという夢のない使用法は言わないでおく。
ま、しかしいつ使うかわからないものだ。
『氷晶石』の隣にでも置いておこう。
『氷晶石』も思ったより使い勝手が良くなくて持て余し気味なのだ。
冷蔵庫は冷気を完全に遮断する材料がないと難しいんだよな。
お肉を悪くならない内に消費し、また気軽に狩ってこられるという状況も必要性を低下させている。
食堂でも始めたら氷室を作ろうか。
「ユーラシアさんはこれからどうするんですか?」
「レジャーだよ」
「レジャー感覚で魔境行くのはあんただけだ」
「どーして魔境だって決めつけるんだ。その通りだけれども!」
「その通りなんだぬ!」
一笑いのあと、転移の玉を起動し帰宅する。
どこかで黒妖石の取れる場所ないかなあ?




