第304話:お尻の毛はいらないんだけど
イシュトバーンさんが感心したように言う。
「パワーカードの無限の可能性を感じるぜ。オレも詳しいつもりでいたが、『アンリミテッド』と『刷り込みの白』は知らないカードだ」
「『アンリミテッド』はこういうカード作れないかって注文して作ってもらったの。『刷り込みの白』はもらいもので、ドワーフのアルアさんも知らないカードだった。あっ、イシュトバーンさんの名前出したらアルアさんが懐かしがってたよ」
イシュトバーンさんが遠くを見る目になる。
「アルアか。しばらく会ってねえな。息災かい?」
「元気も元気。最近パワーカード使う人が少し増えたみたいでさ。仕事も弟子の育成も張り切ってるよ」
「おう、仕事があるのはいいことだな」
「ヨハンさんの息子、そこにいるラルフ君もパワーカード使いなんだ」
「ほう」
チラッとラルフ君を見るイシュトバーンさん。
「もう一つだけ質問させてくれ」
お、急に真面目顔だな?
真剣に聞かれることって何だろ?
恋人はいません。
スリーサイズは内緒です。
「どーぞ」
「今の『アンリミテッド』ってカードを装備してるところからすると、あんた人形系レア魔物を狩りまくってるんだろ?」
「うん」
「レベルカンストしてるマスタークラスの冒険者が人形系レアを狩るなら、魔宝玉に用があるとしか考えられねえ。だがあんたは無造作に鳳凰双眸珠をくれようとするほど、魔宝玉に興味がないじゃねえか。やってることに整合性がねえ」
ははあ、言われてみれば。
なかなか論理的だな。
「いや、あたしの魔宝玉集めは、依頼を請けてるからなんだ」
「依頼? どういうことだ?」
「これ見てくれる?」
例の魔宝玉クエストの依頼文面を見せる。
イシュトバーンさんはどう思うだろうか?
『期限は妖姫の月の末まで。黄金皇珠以上の魔宝玉。個数に制限なし。相場の五割増しで引き取ることを依頼料とする』
「相当愉快なクエストでしょ?」
「……個数無制限か。ハハッ、何てクレイジーな依頼だ。あんたにツッコむと面白れえものがどんどん出てくるな」
「ボケもツッコミもイケるという、もっぱらの噂だよ」
軽い笑い。
「一度は断ったんだよ。魔宝玉一〇〇個持ってったら依頼料払えないだろって。そしたら『個数に制限なし』で依頼し直してきたんだ。となればゴッソリ納品して大儲けするしかないじゃん?」
「おう、あんたの思考回路なら当然そう考えるだろうな」
思考回路を読まれたぞ?
イシュトバーンさんが大いに頷く。
「いや、今日の朝までひょっとしてイシュトバーンさんがこの依頼くれたのかな、って思ってたんだ」
「何をバカな。オレはこんな意味のない依頼を出すほど愚かじゃねえ」
「うん、会ってみて違うとわかった」
イシュトバーンさんの価値観はあたしに近いんじゃないか。
実利派でハプニング的な面白いことが好きな人だ。
こういう依頼を第三者的に楽しめるだろうけど、自分で出す人ではない。
「ちょっと待て。高級魔宝玉が必要だったら、なおさらオレに鳳凰双眸珠くれようとするのはおかしいじゃねえか」
「イシュトバーンさんはタダでナイスロケーションの空き店貸してくれるんでしょ? じゃ、一個くらい別にいいよ。他人に貸し作っとくのは好きだし」
「え? あんた鳳凰双眸珠いくつ持ってるんだ?」
「五つ」
皆があんぐりと口を開けている。
そのパフォーマンス流行ってるのかな?
「……国宝級の魔宝玉を五つか」
「納品期限の今月末までまだ結構あるから、暇があったら魔境行ってバリバリ魔宝玉狩りしたいんだ」
「ハハッ、強欲だな。もっとやれ」
「頑張るよ。けどあたしも忙しくなっちゃって、なかなか難しいんだよね」
「……これが精霊使いユーラシアか。なるほど、規格外だ」
それさっきも言ってたやん。
イシュトバーンさん、すげえ楽しそうな顔になってきたな。
初顔合わせは成功と言っていいだろう。
「よし、喜んで空き店は貸そう。正確には精霊様を紹介する渡りをつけたヨハンに貸す形になるが、精霊使いに貸すで構わねえんだろ?」
「もちろんです」
ラルフ君パパが頷く。
「あたしと言うか、カラーズ青の民に貸して欲しいんだよ」
「ん? どういうことだ?」
ああだこうだと、カラーズの商売戦略の経緯を説明する。
首をかしげるイシュトバーンさん。
「……カラーズは伸びるかもしれねえ。ヨハンは材料の卸しで儲けが出るが、あんたには何の得もねえだろ?」
「おゼゼ的にはね。でもカラーズとドーラが発展するのは面白くない?」
「ほお、あんたは商売人じゃなくて政治家目線なんだな」
政治家目線なのかな?
細けえことはいーんだよ。
「哀れなのは、精霊使いを侮って間抜けな依頼を出したやつだ。あんたにケツの毛まで抜かれるがいいぜ」
「全財産を供出してくれれば、お尻の毛はいらないんだけど」
ラルフ君家に皆の笑い声が響く。
「あっ、来た来た!」
給仕人が料理を並べる。
うむ、指示通りに調理されている。
「あたし達が狩ってきたお肉だよ」
「うむ、コブタマンだな? 久しぶりだ」
「多分イシュトバーンさんが食べたどのコブタ肉よりおいしいよ。この塩かけて食べて」
フルコンブ塩を渡す。
「ほう? あんたが太鼓判押すほどか。楽しみだな」
かぷり。
「……こりゃあ美味いな!」
ラルフ君パパも驚く。
「この前いただいた時より、一層味がシャープですな」
「鉄板で焼くより、炙って脂落とした方がこの塩には合うって教わったんだ」
「微妙な焦げ目の香ばしいところがたまらん」
イシュトバーンさん結構な年齢のはずだけど、ガツガツいくなあ。
歯も丈夫みたい。
足が悪いって聞いたけど、身体で悪いとこ足だけみたいだ。
「おお、食った食った。この塩何だ?」
「塩は普通なんだけど、混ざってる黒っぽい粒々あるでしょ? これが旨みをたくさん含んだ特殊な海藻なんだ」
「若えのにおかしなことたくさん知ってるな」
おかしくねえよ。
実用的なんだよ。
あたしはおいしいものを食べるために冒険者やってるようなもんなんだから。
「この塩どこかで買えるのか?」
「残念ながら非売品……あ、海藻だけなら海の王国で買えるよ」
「海の王国? あんた魚人にも顔が利くのか?」
「女王と友達なんだ。時々焼き肉一緒に食べてるの」
その好奇心を隠さない目やめない?
ちょっとえっちなんだけど。




