第302話:事前の情報収集
――――――――――六九日目。
今日は近頃あたしの中で話題沸騰中の引退商人イシュトバーンさんに会う日だ。
現在は本の世界に来ている。
当然お肉の調達のためだ。
「『勤労少女は朝からコブタ狩りに勤しむ』ってのは、『精霊使いユーラシアのサーガ』のサブタイトルになり得るかな?」
「ワッツ?」
「ダイレクトにワッツ言われても。将来あたしの伝記が出ちゃうじゃん? 何せ題材が魅力的だから」
あーはいはいみたいな感じでうちの子達が軽く流す。
軽い扱いは寂しくなっちゃうだろ。
マジでツッコまれても困るけど。
昼にはお肉を持ってラルフ君家を訪れることになっている。
五トン狩って、二トン分はうちとお土産用だな。
「三トンも持ってけば十分だよねえ?」
「そうですね。数日は食べられると思います」
とゆーかラルフ君家はあたしの転送魔法陣や転移の玉で直接飛べるところじゃない。
ギルド経由になるから、三トンは運搬の限界に近い。
それにしても本の世界は素晴らしい。
冒険者になって何が嬉しいって、いつでもお肉を狩れるようになったことだな。
コブタ肉はおいしいし。
「ねえアリス。イシュトバーンさんはどうして精霊様を連れてこいなんて言ったのかな。何か知ってる?」
「退屈に押し潰されそうだからよ」
本の世界のマスター、金髪人形のアリスが表情を変えぬまま答える。
アリスは確定事項は何でも知ってるらしい。
せっかくなので情報収集しておくか。
「アリスの見解でもか。暇過ぎるとだけ聞くと可哀そうだねえ」
「引退してからしばらくは様々な人が訪れていたけれど、徐々にその数も減り、今ではサッパリ。相当鬱屈しているわ」
変に拗らせてると嫌だなあ。
頑固老人には何言ったってムダだから。
あたしはムダなこと好きじゃない。
「イシュトバーンさんの好きなものは何だろ?」
「新奇なものと女性よ」
「新奇な女性が会いに行くよ。大好物かな?」
自分自身に『新奇な』って表現使うのも何だが。
いや、待てよ?
暇持て余して呼びつけるくらいだと、好奇心探究心は失っていないってことか。
ならば説得しようはありそう。
青の民セレシア族長がレイノスに店持ちたいようだから、あたしも頑張ってみよっと。
「ありがとうアリス。また来るよ」
「またね、きっとよ」
転移の玉を起動し帰宅する。
◇
フイィィーンシュパパパッ。
「アルアさーん、こんにちはー」
「はいよ。アンタはいつも元気だね」
クララがコブタマンをお肉にしている間に、海岸へ素材回収に行き、さらにアルアさん家に来た。
素材はこまめに換金しておかないとな。
「特別用はないんだけど、素材の換金だけしに来たの」
「助かるよ。またギルドから発注があってね。素材はいくらでも欲しいんだ」
ダンの注文した分かな?
アルアさんとこの商売繁盛は嬉しいが、素材が安く手に入らないと商売上がったりみたいなこと言ってたからな。
あたしもどんどん素材を持ってこないといけない。
交換ポイントは一三五となる。
「ゼンさんに作ってもらった『風林火山』、すごく使いやすいんだよ。マジックウォーター買わなくてもよくなった」
「そうかい? じゃあレギュラー入りでよさそうだね。交換レート表に入れておくとするか」
うちみたいな長時間探索を行うパーティーはもとより、バトルスキルを多用する物理アタッカーや魔法戦士に重宝されると思う。
もっともパワーカード使い自体多くはないんだが。
「アルアさん。イシュトバーンさんっていう元商人知らないかな?」
興味深げにこちらを見てくるアルアさん。
「懐かしい名前だね。辣腕商人のイシュトバーンさんかい? レイノスの」
「そうそう。今日昼から会うことになってるんだけど」
精霊様騒動のことから話すと、アルアさんが笑う。
「あんたも大概面白いことやってるねえ。イシュトバーンさんもエネルギッシュで、知らないことや珍しいことに自分から首を突っ込んでくる人だよ。パワーカードにも興味持っててね、自分でもかなりカードを使ってた」
「兼業冒険者だったんだ?」
「旅商人との境界は曖昧さね。各地を回ると危険もあるだろうから、必要に駆られて武器を取るんだろう」
若い頃は足で稼ぐタイプだったってダンパパが言ってたな。
ものをたくさん持たなきゃいけない旅の商人さんは、軽くて嵩張らないパワーカードと相性がよさそう。
利便性を感じてイシュトバーンさんも使ってたんだろうか?
それとも目新しさに魅かれただけかな?
「イシュトバーンさんがパワーカード使いというのは有益な情報だったよ。話のネタを一つ確保できた」
「かかかっ。アルアが懐かしがっていたと伝えておいておくれよ」
「はーい。じゃあさようなら」
転移の玉を起動し帰宅する。
◇
フイィィーンシュパパパッ。
「やあ、いらっしゃいユーラシアさん。今日もチャーミングだね」
「こんにちはー、ポロックさん」
今日もギルドは平和、いいことだ。
ポロックさんが何かを思いついたように話し出す。
「明日掘り出し物屋が店を出すんだよ。知ってたかい?」
「あっ、知らなかった。ポロックさんありがとう!」
「午前中に来る予定だけど、ひょっとしたら昼近くになるかもって話だった。でもユーラシアさんが欲しいものなんてあるのかな?」
実はあんまりないかも。
少なくとも今絶対に欲しいものは、おっぱいのボリュームくらいしかない。
「うーん、見たことのないパワーカードとか、食べたことのないおいしい食材は欲しいかなあ?」
「ハハッ、いい出物があるといいね」
掘り出し物屋は明日来ると覚えとくだけでいいか。
ギルド内部へ。
お、ラルフ君パーティーいた。
「お待たせー」
「師匠、お待ちしておりました」
「イシュトバーンさんは、いつ頃到着の予定なのかな?」
「既に我が家を訪問しております」
「えっ、昼会食の予定じゃん。メッチャ早いね?」
「ものすごく楽しみにしておられるようで」
どんだけ暇してるんだ。
いやまああたしほどの美少女が行くとなったら、楽しみになっちゃうのは仕方のないことではあるな。
美しさは罪。
「今日のあたしはキャラ作っていくから」
「……とは、どういうことです?」
「精霊様に会いたいってことだったでしょ? だからさ……」
ラルフ君パーティーとちょっとした悪巧みのあと、ラルフ君家へゴー。




