第1804話:デカい身体の人がバタバタしている
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「ユーラシア君!」
近衛兵詰め所にフリードリヒ公爵まだおるやん。
帰ってなかったのか。
焦ってるみたいだけどどーした?
「超すごいお茶の新茶、そろそろ手に入ってるよね?」
「ああ、おかげ様で大変好評だ」
「うんうん、収穫も流通もしっかりしてるな。あたしももらってきてリリーにあげよーっと」
「そうじゃなくて!」
どうだったろ?
気を落ち着かせるためにはお茶がいいんだけど、話だけじゃダメだったか。
デカい身体の人がバタバタしてると不安になるわ。
「ランプレヒト団長から呼び出されたんだ!」
「フリードリヒさんも団長呼びなんだね?」
そーいやフリードリヒさんも元騎士だったか。
「呼び出されたってのは何で? 不祥事? やらかした?」
「違うよ! 君何か知ってるだろう!」
「え? 心当たりないんだけど」
いや、疑い一〇〇%の目で見られても、知らないものは知らないわ。
呟くように話しだすフリードリヒさん。
「……君が一昨日ノルトマン殿と団長邸を訪れたことは調べがついてる」
「うん、行った。ランプレヒトさんに会うの初めてでさ。折り良くノルトマンさんが詰め所にいたから、ついて来てもらったの」
「何のために? 団長とユーラシア君に接点はないだろう?」
「ランプレヒトさんの孫のフィフィが、お父ちゃんのやらかし元男爵のせいで今ドーラにいるって話はしたっけ? 結構頑張ってるんだよね。フィフィが最近本を出して帝国でも売り出したから、それを機にランプレヒトさんと和解して欲しいなあっていう老婆心が八〇%」
「残りの二〇%は?」
「ランプレヒトさんとフィフィが和解しないと、本に文句つけられるかもしれないじゃん? とするとあたしの夢見ている、本があふれる世の中の到来が遅れちゃうかもしれないっていう商売っ気が一九%」
「最後の一%は?」
「遊びに行ったら行ったで、何か面白いことが起きるんじゃないかとゆーエンタメ至上主義」
「それだ! 何があった?」
勢い込んで言われても、フリードリヒさんに関係ありそうなことなんてなかったけどな?
大体何であたしは尋問されてるんだ?
「えーと、実にいい女だって言われて、模擬剣で手合わせしてくれと」
「『女だ』のところは付け足しなんだろう?」
「どーしてわかるのよ?」
「まあ団長の言いそうなことだ。ユーラシア君の身のこなしを見て、ふつふつと自分の若い頃を思い出したんだろう。模擬剣で手合わせして、それから?」
「息子さんが騎士団を辞めるから伯爵位を譲るんだそーな。寂しくなるって言ってたから、後進の指導をしろって言ったった」
「後進の指導? 団長はメチャクチャ厳しいんだぞ?」
フリードリヒさん震えてるがな。
相当ランプレヒトさんのことが苦手らしい。
「ランプレヒトさんは妙な迫力があるもんな。厳しいってのも何となくわかる」
「だろう?」
「だからちっちゃい子の指導をお願いしたの」
「ちっちゃい子?」
「うん。ノルトマンさんとこにニライちゃんっていう娘がいるの知らないかな。五歳くらいの子なんだけど」
「……なるほど、剣術道場に通えないような年齢の子が相手なら、無茶もしないだろうということか」
「多分ね。貴族でも身近に騎士がいない人とか平民とかだと、武芸に全然縁がないじゃん? 才能なんてどこに転がってるかわかんないんだから、幅広く取り込んで教える感じで」
「ふむ、需要があるかもしれない」
「そんだけだぞ? フリードリヒさんが呼ばれるってのはマジで心当たりない」
「……」
頭抱えてますね。
フリードリヒさんは新皇帝の有力候補プリンスルキウスの義父だ。
あたしが会うと皇帝選絡みの憶測が生まれそうだから、しばらく会うの控えようと思ったのに何なんだ。
フリードリヒさんだってよろしくないくらいの計算はできるだろうに、何を浮き足立ってるのだ、まったく。
「……しばらくランプレヒトさんとは御無沙汰してたから、急に召集かかって何言われるのかと戦々恐々としているで合ってる?」
「合ってるけど何故わかるんだ!」
「ノルトマンさんも似た感じだったんだ。一昨日あたしがランプレヒトさんとこ行った時も、あたしをクッションにする気満々だったぞ?」
「ユーラシア君、団長のとこ行く気はないかい?」
「今から行くつもりだった。フリードリヒさんどうする?」
「お供させてくれ!」
「行ってくるぬ!」
エーレンベルク伯爵家邸へゴー。
◇
「ランプレヒトさんのこと苦手なんでしょ?」
「わかるかい?」
伯爵家邸への道々、フリードリヒさんと話しながら行く。
フリードリヒさんも公爵なのにお供がいないのな?
フットワークが軽い、公爵邸から皇宮まで近い、騎士出身者で強いってことがあるんだろうけど。
「まあフリードリヒさんの全身が語っているわ」
「強引というか剛腕というか。僕は腹の探り合いみたいな方が楽しめるんだが、団長にはそういう駆け引きが一切通用しないんだ」
「わかる。ランプレヒトさんにはいじめっ子オーラみたいなもんがあるよね」
「ああ、いじめっ子オーラ、言い得て妙だ!」
「けどスパッとわかりやすい人じゃない?」
「わかりやすいと扱いやすいは別物だろう?」
「確かに」
でも扱いやすい人だと思うがなあ?
何でも言うこと聞いてくれそう。
「ユーラシア君はサービス精神旺盛だろう?」
「サービス精神の権化と言われているね」
「言われてないぬ」
アハハ、すかさず拾うヴィルは偉いね。
ぎゅっとしてやる。
「一〇の投資で八返ってくればいい。貸しは無形のメリットだ、くらいに考えてるように思えるんだ。違うかい?」
「違わないな。深く考えたことなかったけど。あたしみたいなドーラ人平民にとっては、有力者と知り合うこと自体がメリットだから。自分にとって価値をあまり感じられないものだったら、サービスしてやったっていいじゃん?」
「商人の考え方と違うところだなあ。政治家の考えに近いんじゃないか?」
「よく言われるな。貸しをどんどん押しつけるとやりやすいんだよね」
「主導権を握れるということかい?」
「うん。物事思い通りにできると楽しい」
「参考になるなあ」
フリードリヒさんが食えないやつだってことは知ってるからな?
おだてたってダメだわ。
さて、ランプレヒトさん家に到着だ。




