第1802話:サボタージュ騎士達
「うちのこの子が悪魔なんだ。で、天使に絡まれたの」
「ふむ、やはり……」
話しかけてきた男の正体がちょっとわからん。
あんまり当たり障りのなさそーな話題から入ってみた。
目の前の男には、天使に対する崇拝の感情も悪魔に対する忌避感もない。
少なくともアンヘルモーセンの工作員ではないと見た。
王様が言う。
「その方はどうした立場の者だ?」
「ああ、失礼。オレの名はサルヴァトーレ・パガニーニ。サラセニア騎士団で十人隊長を務めていた」
「過去形なん?」
「……団長の行動に嫌気がさしてな」
話していることは本当。
何の行動に関してか言わないが、これはクーデターに関してだな。
周りに潜む者達にも緊張が走るが、サボタージュ仲間ってことだろ。
とゆーことは騎士団に関する、もう少し詳しい現状も聞けそう。
「あんた達の味方ができると思うよ。お仲間に会わせてよ」
◇
「あっ、精霊の巫女!」
サルヴァトーレさんに連れていかれた先で一人の男が叫ぶ。
あたしを『精霊の巫女』と呼ぶということは……。
「三日前に公子捕縛の命令を受けてた騎士さんかな? 地下の脱出路で」
「そうだ!」
「あんたも騎士辞めちゃったの?」
「辞めたわけではないが……あの命令はおかしかった。もうベルナルド団長にはついていけない」
サボタージュしてる騎士団員で間違いなしと。
サルヴァトーレさんが言う。
「バカげたレベルの少女がいると思えば、君が精霊の巫女だったのか。今回の大公弟と団長のクーデターで、精霊の巫女が怒っているという謎の報告があってな。騎士団からかなり離脱者が出てるんだ。オレが離脱者をまとめている」
「ほらほら、大分離脱者出てるってよ。やっぱあの地下通路出口で飛び込んで制圧って正解だったじゃん。さすがあたし」
「結果論じゃねえか?」
懐疑的なダンの目を無視してサルヴァトーレさんに話しかける。
「クーデターに反対する立場でいいかな?」
「……あくまでスパルタコ公子殿下かガリレオ公子殿下が御無事であって、再びサラセニアに君臨されるのであればだ。さもなくば我らの忠誠は、新大公となられるであろうヒラルス殿下に捧げられる」
うん、現実的な判断だな。
サルヴァトーレさんがじっと見てくる。
いやん。
「精霊の巫女とは何だ?」
「方便だよ。『アトラスの冒険者』とゆーものがあってね……」
毎度面倒な解説を少々。
ドーラの美少女精霊使いが大至急クエストでどうのこうの。
ため息を吐くサルヴァトーレさん。
「荒唐無稽な話だ」
「本当なんだってば」
「目の前で公子達が消えたという報告、精霊の巫女という超自然の存在、君のレベル。全部荒唐無稽だ。矛盾なく繋がる君の話を信じるべきなんだろうな」
「で、こっちにいるのがガリアのピエルマルコ王ね」
「えっ……それは失礼いたしました。どこかで拝見したお顔だとは思いましたが」
慌てて敬礼しようとするサルヴァトーレさんを制する王様。
「いや、いい。今日はユーラシアとともにサラセニアの現状を見に来ただけだ。予が王である証拠も出せぬ」
「は」
「スパルタコとガリレオの身は安全だ。トリスターノ元帥指揮下の軍をつけて、早急にウトゥリクまで送り届けよう。協力を求めていいか?」
「もちろんです。しかし我らだけでは力が足りませず……」
つまり大公弟とつるんでる騎士団長に従う騎士は多いと。
「力が足りないことはないんだ。クーデター派の戦力って騎士団だけなんでしょ?」
「そうだ」
「騎士団は全員で何人? 内、クーデター派に与してるのは?」
考えに沈むサルヴァトーレさん。
「騎士団全員で一二〇名ほどだ。内二〇名近くは現在オレに従っている。団長の行動が正しいと思っている団員は少ないと思うが、かといって誰が正しいのかもわからない。噂通りアンヘルモーセンの助力があるなら、ヒラルス殿下とベルナルド団長に従うのがサラセニアの平和なのかもしれない」
「あ、もうアンヘルモーセンの助力はないんだ。さっき天使とそう話をつけた」
「な、何?」
「有力者で明確にクーデター派っていうのは、商業ギルド長の他にいる?」
「ジョコンド殿のことまでチェックしているのか。いや、他にはいない。皆不安な気持ちでいると思う」
「じゃ、簡単だな。大公弟殿下と騎士団長と商業ギルド長の三人を逮捕して、帰還する公子殿下を迎えてバンザーイってパターンね」
「逮捕って……」
絶句するサルヴァトーレさん。
「サラセニア人同士で殺し合うパターンが最悪だな。表向きクーデター派に従順ですよ、逆らう人いませんよって装っといてよ。五日後のお葬式で騒ぎ起こすから、そこで三人を捕まえてくれる?」
「騒ぎって……」
「詳細はまだ決めてないんだ。怒れる精霊の巫女が五日後に現れる、悪しき者どもを断罪するって噂を流しといてよ。反クーデター派を増やそうとすると向こうを警戒させちゃうから、どっちつかずの人達を煽るつもりでね」
「わかった。が、証が欲しい」
「証?」
何それ?
どゆこと?
「ヒラルス殿下とベルナルド団長を逮捕するなどという大それた計画に乗ると、オレ達は引き返せない。身の安全を願ってるわけじゃないが、名誉が傷つけられるのは耐えられない。おふざけでも冗談でもないという証が欲しい」
「おい、あんたのエンタメ仕立てのせいだぜ?」
「みたいだね。ちょっと反省した。王様何か持ってる?」
「いや、身分を示すようなものは危険かと思って持ってこなかったな」
「あっ、ちょうどいいものがあるから預けとくわ。サラセニアの国宝に『齧られた宝玉』っていう、一部破損した魔宝玉があるのは知ってる?」
「もちろんだ。サラセニアの発展の伝承に関わる、有名な国宝だからな」
「その魔宝玉の完品だよ。多分世界に一つしかない」
「な、何だと?」
「見る目のある人が見れば本物だってわかるよ」
『道具屋の目』を持つ人に見てもらってね。
王様が面白そう。
「ほう、霜の巨人のドロップアイテムだな?」
「そうそう。思わぬ場面で役立ってよかった」
「いいのかよ?」
「ただの石だからいいんだぞ? そんじょそこらじゃ売れないから、あたしも換金しづらいし」
できることはお終いかな。
「今日は帰る。五日後楽しみにしてて」
「わかった」
「バイバイぬ!」
転移の玉を起動して帰宅する。




