第1784話:やつは魚だ
「じゃ、軽くお相手する」
「本気でやってくれ」
本気でやる必要はないとゆーのに。
ランプレヒトさんも結構なレベルなんだから、あたしの強さくらいわかるだろ。
ブンブン模擬剣振り回してるわ。
お歳の割に元気だなあ。
「あたし模擬剣使ったことないからいらないや」
「真剣以外は使わないということか?」
「いや、剣を使ったことないの」
それこそチャンバラ遊びくらいでしか。
意外そうなランプレヒトさん。
「剣を使わない? 『薙ぎ払い』は基本的に剣術技だろう?」
「かもしれんけど」
『薙ぎ払い』は他の近接武器や拳士でも使えるスキルだよ。
剣や槍で用いるのが当たり前なのかもだけど。
「何か別の武器が必要か?」
「いや、武器は必要ないな。じっちゃんの剣があたしに届く前に、あたしがじっちゃんを持ち上げたら勝ちでいい?」
「そんな勝利条件は初めて聞いたぞ。しかし面白い。実にいい」
何でも面白がる爺ちゃんだなあ。
バカにされたとは感じてないんだな。
ブンブン模擬剣を素振りするランプレヒトさん。
マジで元気だな。
見物人のノルトマンさんとニライちゃんも、何かすげえ楽しそうだし。
「ではまいるぞ」
「いつでもどーぞ」
レッツファイッ!
正眼に構えるランプレヒトさん。
やっぱ長年騎士団長を務めていただけのことはある。
隙はないし気合いは入ってるし、なかなかやるなあ。
メッチャレベル差があるのに、守りに徹すりゃあたしでも近寄れないんじゃないの?
どーすべ?
「どうしたユーラシア君。遠慮せず攻めてきていいんだぞ?」
「うーん、考えてるとこ」
振りかぶると隙ができる。
あたしならその隙を突いて翻弄できる。
ランプレヒトさんもわかってるから、最も隙のできにくい正眼に構えてるんだろうな。
美少女が相手なんだからちょっとは油断してくれればいいのに、いけずだなあ。
ランプレヒトさんが何かやってくるとすると突き技だろう。
あたしが突きを躱して後ろに回ろうとする時に横薙ぎだろうな。
となれば……。
「……陽動のつもりか?」
「陽動のつもり」
「むむっ!」
前後にステップを踏む。
踏み込んで突きなら楽々届きますよーって間合いだ。
これは我慢できまい。
来る!
「とおっ!」
突きを躱して懐へ。
そうはさせじとランプレヒトさんの横薙ぎ!
わかってるってばよ。
剣の軌道を潜って背中側へ。
「何と!」
「あいうぃーん!」
持ち上げた。
計算通りだ。
ニライちゃん大コ―フン。
「すごいぞなもし!」
「すごいぬ!」
「エンターテインメントとして合格かな?」
ランプレヒトさんを降ろす。
頭を掻くランプレヒトさん。
「いやあ、完敗だ。歳は取りたくないものだな」
「そーでもないよ。構えてる時は飛び込めなかったもん。ビシッと決まってたわ」
お世辞じゃないぞ?
年齢を感じさせないのは本当。
天を仰ぐランプレヒトさん。
「……長男がいよいよ騎士団を引退するのだ。伯爵位を譲ることになると思う」
「うん」
「寂しくなるなあ、と思ってな」
覇気のある人だ。
自分から失われていくものが多いと感じて、寂しくなっちゃうんだろうか?
伯爵の看板を下ろしてこそやれることもあるんじゃないかな。
「近頃ではあまり訪れてくれる者もおらんのだ」
「そーなん?」
「今日はノルトマンとユーラシア君が訪れてくれて嬉しかったぞ」
ノルトマンさんが恐縮した顔してるわ。
ランプレヒトさんは妙に圧が強いんだよな。
遊びに来る人がいないのは、怖がられちゃってるんじゃないの?
だったら……。
「じっちゃん、後進の指導をする気はない?」
「後進の指導か。ワシもやってみたことあるんだがな。厳し過ぎるようで」
「ニライちゃんはすげえ見込みがあるんだよ。この前なんか近衛兵を悶絶させてたの」
「何と! 本当か?」
「ほんとうぞなもし! おじじさまのしどうをうけたいぞなもし!」
ハハッ、ノルトマンさんが慌ててやがる。
無関係みたいな顔してたってダメだわ。
「ある程度以上の年齢になれば、ちゃんとした剣術道場もあるんだろうけどさ。騎士に憧れる、もっとちっちゃい子に手ほどきしてやる施設はないんじゃないの? 親が騎士なら小さい内から教えてもらえるかもしれんけど、そうじゃない子は後れを取っちゃう。優れた素質を持ってる人材はどこにいるかわかんないんだから」
「うむ、ユーラシア君の言う通りだな!」
「元騎士団長が指導してくれるなら、これ以上の説得力はないわ」
ランプレヒトさんやる気になってるじゃん。
ニライちゃんに対しては圧が強いことない。
ちっちゃい子に教えるなら無茶なことやらないと思うし、向いてるんじゃないかな。
「うむ、今日は生まれ変わったような心地がする。実にいい!」
「大げさだなー」
「ユーラシア君とノルトマンは、どうして当家を訪れたのだ?」
「あたしがじっちゃんに用があってさ。でも面識がないから、ノルトマンさんに付き合ってもらったの」
「ほう、してその用とは?」
「じっちゃんの長男じゃない息子さんのことで」
「ババドーンか」
明らかに憮然とした顔になるランプレヒトさんが吐き捨てる。
「やつは魚だ」
「魚?」
「要領よく泳ぎ回ることばかり考えおって。しかもエサを見れば見境なくつつきに行くのだ。あの態度が魚でなくて何だ! エーレンベルク家の風上にも置けぬ!」
憤懣やるかたないランプレヒトさん。
魚ってのは適切な表現だなあ。
「ババドーン元男爵は、武勇に優れた父や兄にコンプレックスがあったのかもしれないって説を聞いたよ。見返すために文官として名を上げようとしたんじゃないかって」
「かもしれんが、ならば陛下の臣に相応しい骨太の文官たるべきなのだ。こそこそこすっからいマネをしおって。やつの背骨は一体どこにあるというのだ!」
「一々ごもっとも。ババドーンのおっちゃんのことはひとまず置いといて、その娘のことをどう思ってるのかなってのを聞きに来たんだ」
虚を突かれたような顔になるランプレヒトさん。
「フィフィリアか? ババドーンよりはマシだが、あれも上に卑屈で下に横柄なつまらん娘だろう。ユーラシア君が気にするほどだとは思えん」
「フィフィは今、ドーラにいるんだ」
「ドーラに? 何故?」
ふむ、やっぱり知らなかったか。
当時のランプレヒトさんは怒り狂ってたろうし、わざわざ伝えていったと思えんからな。




