第1774話:三択の正しき道
「何これ? 三つも入り口があるじゃん」
先へ行くため魔道ゴーレムの守っていた門を開けて中に入ると、三つの通路の分かれ道になっていた。
渋い顔で双剣の公子スパルタコちゃんが言う。
「ここは大公家直系のみが知る隠し脱出路なのだ。正しき道は一つのみ。残り二つは残酷な罠があるという」
「随分と念入りなことだね」
「一本道だったのに追手が来ねえのはおかしいと思ってたんだ。要するにこの通路に閉じ込めちまえば、ゴーレムにやられるか罠にかかるか、あるいは飢え死にかって寸法なんだな?」
「とゆー意図なんだろうねえ。騎士団は」
ならば戻ろうが進もうが、敵が待ち伏せしてる可能性が高いな。
そしておそらく騎士団もこの通路には不案内だから、罠に引っかかるのが怖いんじゃないかと見た。
あれ、待てよ?
となるとさっきのゴーレムも全然メンテされてないのか。
じゃあゴーレムを作る魔道技術も、忘れ去られた過去の遺物なのかもしれないな。
クララが転移で帰りましょうって顔してるけど、もう少し楽しむんだとゆーのに。
「やっぱり正しい道はわかんない?」
首を振るスパルタコちゃんとガリレオちゃん。
だろうね。
「じゃあ当てながら行こうか。選んでみ? 正解はあたしが教えてやろう」
「「えっ?」」
「こいつはメチャクチャカンがいいんだ。この手のトラップは外さねえから安心しろ」
「で、では真ん中」
「ブブー。正解は右でした。ワンアウトだぞー」
右の道を進む。
◇
「サラセニアは伝統的にガリアと仲がいいんだよ。ガリアが内海貿易に参加する時の外港的な役割を担ってる」
北方の情勢をよく知らないダンに説明しながら、隠し脱出路を行く。
双剣の公子スパルタコちゃんが難しい顔で言う。
「うむ、ユーラシアの言う通りなのだが、我が国は食料事情が苦しくてな。輸入に頼らざるを得ないから、アンヘルモーセンにやや重心を移すべきなのではとオレは考えている」
「スパルタコちゃんは小さいのに優秀だな」
クーデター派がアンヘルモーセンとつるんでるだろうことを感じてるのにも拘わらず、アンヘルモーセンと結ぶことを考えてるのか。
なかなかできない思考法だと思う。
「でもその情報は古いぞ?」
「えっ?」
「まだ一ヶ月も経ってないから知らんのもしょうがないけど、カル帝国の植民地タルガとの間で、アンヘルモーセンを間に入れない直接貿易が始まったんだ。今後は帝国からサラセニアに穀物はどんどん入る」
「本当か? しかし実績がないものに頼るのは危険だ。やはりアンヘルモーセンは切れない」
「マジでスパルタコちゃんはやるなあ。じゃ、もう一つ教えてやろう。アンヘルモーセンが食料豊富なのは、隣国のダイオネアとラージャが耐寒品種と複雑な輪作を組み合わせたすげえ先進的な農業をやってるからなんだ。ガリアが北限農業の秘密を暴いて取り入れようとしている。ガリアのライ麦・ソバ・ジャガイモの生産力は今後数年で格段に上がるよ。食料はガリアからも入るようになる。アンヘルモーセンを切るってことじゃなくて、強引な我が儘を聞くなってことね」
ダンが呆れてるな?
「あんた北国にまで首突っ込んでるのかよ?」
「だからアンヘルモーセンのやってることは、あたしにとってマジで迷惑なんだってば。健全な交易を行うために、アンヘルモーセンの影響力を落としたい。これはあたしだけの考えじゃないぞ? 少なくとも帝国とガリアは今、そーゆー方向で動いてるの」
テテュス内海貿易はもっと活発になるはずだよ。
アンヘルモーセンだけに富が集中する今のやり方は間違ってる。
「また分かれ道か。さあ、右左どっち?」
◇
「結構長い通路だね?」
「短くては脱出したあとすぐ敵に見つかってしまうでしょうから」
「なるほどー」
どんどん先へ進む。
おかっぱの公子ガリレオちゃんがニコニコしている。
「ボク、精霊や悪魔を見たの初めてです」
「うむ、オレもだ」
「精霊は普通の人間と話さないからこの先見る機会がないかもしれないけど、悪魔はわからんな」
感情を摂取する性質上、人間と関わりたがるんだろうし。
「悪魔ってもっと怖いものかと思っていました。見ると聞くとでは大違いです」
「怖い悪魔は怖いと思うぞ? うちでもヴィルは好感情好きのいい子だけど、バアルは帝国とドーラとの間に戦争起こそうとしたとんでもないやつ」
「「えっ?」」
「いい子ぬよ?」
「お褒めに与り恐縮である」
「褒めとらん褒めとらん」
ダンが大笑いしてやがる。
「邪悪な悪魔ではないか。信用すべきではないんじゃないか?」
「邪悪か邪悪じゃないかってことと、信用できるできないは別だね。バアルは確かに悪いやつだけど、プライドの高い大悪魔だからウソ吐いたりはしないんだよ。言ってることが正しいとゆー面では信用できる」
「う、うむ?」
「でもふつーに喋ってると悪い方へ悪い方へ誘導されるぞ?」
「当然である。吾にとって利になるからである」
「ハハッ。ユーラシアのマネはしないほうがいいぜ。何せ悪魔から悪魔的だって評されてるやつだからな」
いらんことゆーな。
公子二人のあたしを見る目が微妙になったじゃないか。
「……天使はどうなのだ?」
「気になっちゃう? あ、サラセニアは最近天崇教の布教活動が活発だって話だからな」
「天使は憎き敵である!」
「嫌いだぬ!」
ハハッ、うちの悪魔っ子達が反発しとるわ。
可愛いやつらめ。
「どうどう。まあ天使は悪魔と敵対する存在だから、悪魔から悪く言われるのはしょうがない。ただ天使ってイメージほどいいもんじゃないらしいぞ?」
「というと?」
「悪魔も天使も人間から好みの感情を得ようとするのは一緒。例外はあるけど基本的に悪魔は悪感情を欲するから、人間を嫌な目に遭わせようとするんだよ。逆に天使は崇拝されるように振舞おうとする」
「尊敬されるような行いをするってことですか?」
「どうかな? 中には模範的に行動しようとする天使がいるかもしれないよ? でも一般的には傲慢らしいんだ。ただし姿形はあたしのように美しく愛らしいから、傲慢さも気高さの現れに見えちゃうんじゃないかな」
あたしに言わせりゃ天使も悪魔も似たようなもん。
「おい」
「うん、わかってる。皆静かにしようね」
そろそろこの隠し脱出路通行もクライマックスだ。




