第1765話:痴女みたいな
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「あっ、ユーラシアさん、待ってました!」
ここでも待たれていたぞ?
セレシアさんの服屋に着くやいなや大歓迎だ。
人気者はツラいなあ。
「ツラくはないぬよ?」
「ハハッ、ヴィルはいい子だね。ぎゅっとしてやろう」
「ありがとうぬ!」
ヴィルもどうやら心を読んでくるけど、掛け合いにアクセントがつくから面白い。
エンターテインメント的にオーケーだ。
「水着がどうのこうのって聞いたよ。秋冬物と一緒に、デザインを帝都の『ケーニッヒバウム』に届けりゃいいかな?」
「はい、お願いします。でもその前に新作水着に着替えてください!」
「え?」
あたしが着替えるの?
やっぱり着てみなきゃわかんないタイプのファッションなのかな?
でも売り子がたくさんいるんだから、着せてみりゃいいじゃん。
いや、あたしが『ケーニッヒバウム』で着たとこ見せてこいってことなのかな?
「どうぞ奥へ!」
◇
「着替えてみたけど……」
「私の目に狂いはなかった! ユーラシアさんなら着こなしてくれると信じていました!」
「着こなすも何も、布面積がほとんどないじゃん」
おっぱいと腰周りしか隠れてないんだが。
水着ってこーゆーもんなの?
温泉の湯浴み着みたいなのを想像してたら、全然違ったわ。
「邪魔なパーツがないから泳ぎやすいでしょう?」
「水浴びだけじゃなくて、泳ぐことも計算に入ってるからか」
「素晴らしいぜ!」
「素晴らしいぬ!」
「そお? イシュトバーンさんは肌面積が広い衣装は好みなんだろうけど。あれ、ノアは?」
「絵の道具取りに帰したぜ」
描くつもりなのかよ。
まあいいけれども。
「新聞記者さん達、これどう思う?」
「大変艶かしいです! 素敵です!」
「わ、私にはこんな痴女みたいな水着を着こなす度胸もプロポーションもないですけれども」
記者(男)と記者(女)では全然意見が違うのな。
「痴女言われてるぞ? いいんか?」
「夏の浜辺は非日常です! 解放感に溢れたファッションが求められるのです!」
「自信満々に言い切られると、何だか痴女水着もありな気がしてきたけれども」
「痴女何するものぞ!」
「その通りだ! あんたの腰から尻へのカーブが美しいぜ!」
セレシアさんとイシュトバーンさんのテンションが高いこと高いこと。
大丈夫なのかな?
暴走してない?
「旦那様、持ってまいりました」
「お帰りー。この水着どう思う?」
海がタブーのドーラ人には、水浴レジャーに親しむ習慣がないんだよな。
帝都で育ったノアはどう感じるだろうか?
「ぶっ……いや、素の身体の美しさを見せるのは、一周回っていいと思う」
「ちなみにどの辺を一周回って?」
「露出狂エリア」
「やっぱ痴女やんけ。妹のココちゃんに着せてビーチ行きたいと思う?」
「思わない」
「もージロジロ見るな。えっちなやつめ」
マジで大丈夫かこれ?
いや、デザインが斬新なことは斬新だ。
セレシアさんは帝国の水着デザインも研究した上で、自信作として投入するんだろうから。
「とにかく描かせろ。外に出てくれ」
「オーケー」
「あっ、ユーラシアさん! 麦藁帽子被ってサンダルに履き替えてください!」
◇
「よし、描けたぜ」
「「「「「「「「うおおおおおおお!」」」」」」」」
「「「「「「「「画伯! 画伯! 画伯!」」」」」」」」
「「「「「「「「ユーラシア! ユーラシア! ユーラシア!」」」」」」」」
わかってはいたけどメッチャ盛り上がる。
レイノスってこんなに人住んでたんだな。
熱気が帝都並みだわ。
「お疲れ様です」
「ありがとう」
セレシアさんが貸してくれたローブを羽織る。
と、人波を掻き分けて誰か来た。
「師匠っ! 大騒ぎですねっ!」
「あ、ジーク君とレノアか。久しぶりだね。元気だった?」
「元気だヨゥ。買い物に来たらこの人だかりだヨゥ。何やってるんだヨゥ?」
「いや、イシュトバーンさんが発情して、絵を描きたいって言い出したから」
「この格好はどうしたことですかっ?」
「ドーラ発のファッションとして、帝国で売り込もうとしてる水着なんだけどさ。デザインどう思う?」
この二人は帝国軍士官の子だ。
帝都のファッションや水着事情についても、ある程度は知ってるんじゃないかな?
「ムダな肉のついていないスリムな身体は大好物だヨゥ!」
「だから惚れんな。身体じゃなくて水着がどうかを聞いているんだとゆーのに」
「いいと思いますっ! ヒラヒラしている部分が多いと泳ぎにくいのですっ!」
「やっぱりそーゆーもんなのか。初めて建設的な意見が出たな」
「ポロリを期待したくなるヨゥ」
「ジーク君もえっちだな。いや、これわかりにくいかもしれんけど、結構肌に沿って安定してるんだよ。ポロリしそうにないんだ。期待に背いて申し訳ないね」
「ポロリするほどないってことかヨゥ?」
「しっかりあるわ! きちんと引っかかっとるわ! 引っかからんのはレノアだわ!」
「私と変わらないのですっ! 師匠だって威張れるほどないのですっ!」
「大威張りだぬ!」
見たことないほどソワソワしてたヴィルだけど、随分落ち着いたね。
よしよし、ぎゅっとしてやろう。
「セレシアさん、この水着すごくフィット感があるね。全然ずれる感じしないわ。採寸がちゃんとしてるから?」
「採寸も理由の一つですね」
「があんショック! 前採寸した時からおっぱいが成長してないってことじゃん!」
笑うな。
しかし首を振るセレシアさん。
他にも要因が?
「この布地、ドーラ行政府から試験的に下げ渡されたものなんですよ」
「行政府から?」
「ええ。とても丈夫で伸びる布地なので、こういう使い方を思いつきまして」
行政府から下げ渡されるって変な話だな。
あっ、これ飛空艇から非常時に脱出する時の滑空機に使われてた布か!
「ドーラでは織り方がわかりませんので使えない布地です。しかし帝都ならば手に入るのかと思いまして、ユーラシアさんに御協力いただいたんです」
「なるほど、事情はわかったよ。この布、魔道研究所にあるんだ。値段や量産できるかは知らないから、『ケーニッヒバウム』に寄りがてら聞いてみるよ。この水着もらっていい?」
「もちろんです。よろしくお願いします」
「ありがとう! よーし、今日は帰るかな」
おっと、服持ってこないと。
痴女のまま帰るところだったわ。




