第1708話:珍しいものが見られる
フイィィーンシュパパパッ。
「おっはよー」
「おはようぬ!」
「やあ、精霊使い君。いらっしゃい」
朝から皇宮にやって来た。
転送先にサボリ土魔法使い近衛兵がいるいつものパターン。
「サボリ君が慌てふためいていないから、取り立てて大したことはないよね?」
「ええ? そういう判断なのか。何もなく落ち着いていたけれども」
「皇帝選で動きあったかな?」
「特には」
「今日で立候補締め切りだったよね?」
「ああ、午前一一時で立候補が締め切られる。帝都市民による投票は来月一四日に行われ、翌日開票されるということくらいだな」
とゆーことは、来月一五日に新皇帝は決定か。
「今立候補してる人は誰?」
「レプティス様、ドミティウス様、ルキウス様、マルクス様、ガイウス様の五人だ」
「ふーん。やっぱフロリアヌス殿下は出ないんだ?」
「ああ。意外なのか意外じゃないのか、残念なのか残念じゃないのか」
近衛兵でも微妙な感覚なんだな。
皇位継承権が立候補者の誰より高いフ殿下の不出馬は意外ではある。
が、元々そういう意向であることは聞いていたし。
おそらくは皇妃様の考えに従い、未練なく引いたこと。
潔い態度は嫌いじゃないなあ。
立候補受付を締め切ったら、最終候補者を確認して行政府に報告するか。
「マルクス殿下とガイウス殿下が君に会いたがってるんだ」
「え? まあ美少女に会いたいのは思春期の権力者にありがちなことか」
「思春期の権力者ってワードが生々しいな。マルクス殿下とガイウス殿下は二五歳だけれども」
「あれ、同い年? 同母の兄弟だって聞いた気がしたけどな?」
「双子なんだ」
双子だったのか。
互いに互いをライバル視してて、二人とも立候補しちゃったってことかな?
想像だけれども。
「双子皇子があたしに何の用だろ? チラッとも会った覚えがないのにな?」
「そりゃわからないが、おそらく皇帝選についてじゃないか?」
今呼ぶんだと、ねえ。
逆に皇帝選無関係だったらビックリだわ。
でももう立候補しちゃったんでしょ?
あたしの意見聞いたって、立場なんか変えられないだろうに。
どう考えたって当選はムリだし。
「面白くなりようがないよねえ。こんなんに関わると、あたしの価値が下がるような気がする。何か面倒になってきた」
「もっと面倒なことに、二人別々に面会してくれってことなんだ」
「ええ? 泡沫候補どもが美少女精霊使い様に何えらそーなことを言っているのだ。パス!」
「ええっ? 皇族からの呼び出しだぞ?」
帝国の皇族だから何だ。
ドーラ人が恐れ入るとでも思っているのか。
メリットがないことはやりたくないわ。
「マルクス殿下とガイウス殿下ってどんな人?」
「母親はチョップ男爵家の出だな。しかしチョップ男爵家は男児が亡くなられてしまい、現在跡継ぎがいない」
「ははあ? でも皇帝の側室を出すくらいだと、チョップ男爵家ってのは名門なの?」
「名家というわけではないが、領地が重要な位置にあるんだ」
「そーなの?」
地図を取り出す。
どこだろ?
「ここだ」
「あ、なるほど」
聖モール山脈を挟んでゼムリヤと反対側の本土だ。
確かに地理的に重要だな。
港も地図じゃ大きさはわからんけど、結構良さげな位置にある。
「ちょっと面白いな。殿下二人はチョップ男爵家の跡継ぎを争っているの?」
「いや、二人は既にそれぞれ結婚しているんだ。マルクス様は配偶者の実家に入るだろう。ガイウス様はどうだろうな。それでも田舎男爵に旨みはないと考えるんじゃないか? もちろんお二人とも皇帝になれないとするならばだが」
「皇帝になんかなれるわけないだろーが」
頭蓋骨の中身が砂糖菓子で構成されているんでなければ、皇帝になれないことなんてわかってるはずだ。
わざわざ新皇帝と争った実績を作って得があるのかな?
「マルクス殿下とガイウス殿下の性格とかはどう?」
「幼い頃から二人で張り合って失敗するというのが、お決まりのパターンのようだ。ともにプレイボーイで、ゴシップ紙を賑わせていたことは俺も知っている」
「武勇伝とか業績とかは?」
「聞いたことないな」
「やっぱり会うのパス」
「ええっ? 俺の給料に響きそうなんだ。何とか会ってくれよ!」
「どーゆー理屈であんたの給料に響くのよ?」
「俺が精霊使い番の近衛兵で、君との交渉の窓口になってると思われてるから」
間違いじゃないが、このサボリ君の地位も上がってるの笑う。
「うーん、サボリ君の給料が減ろうがあたしは一向に構わないけど、ちょっと寝覚めが悪そうなんだよな。乙女の睡眠時間は大事だから、二人一緒なら会うことにしよう」
「両殿下は仲が悪いんだ!」
「だと思ったけど、どーせ二人同じ話だぞ? 二回もくだらない話聞かなきゃいけないほど、あたしだって暇じゃないわ!」
「わ、わかった。そう伝えてくる」
「行ってらっしゃーい。詰め所で待ってるよ」
◇
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「ユーラシアさん!」
ルーネとヴィルが飛びついてくるいつものパターンだ。
ほのぼの。
「マルクス叔父様とガイウス叔父様が、ユーラシアさんに会いたいとのことでしたよ」
「聞いた。二人一緒なら会うって言ってあるんだ」
「ええっ? マルクス叔父様とガイウス叔父様は大変仲が悪いのです。二人が顔を合わせてるのなんか、見たことがないのですが……」
「じゃあ今日は珍しいものが見られるな」
「お二人揃ってユーラシアさんと会うということですか?」
「多分ね」
どうせ勢いで皇帝選に立候補して、引っ込みがつかなくなっただけだろ。
長女のヴィクトリアさんか人当たりのいいプリンスルキウス辺りに泣きついて、あたしに相談しろって言われたに違いない。
面識のないあたしんところに話が来た理由は、おそらくそーゆーこと。
「ルーネも双子の珍獣が揃う貴重な場面を見物しに行く?」
「よろしいんですか? お邪魔ではないですか?」
「二人は邪魔扱いするだろうけど、ルーネがいる方が都合がいいんだ」
「であれば喜んで」
おっと、サボリ君が駆け込んできたぞ。
「マルクス殿下とガイウス殿下の了解が取れた! とにかく会ってくれとのことだ」
「予定通りだな。行こうか」
「はい!」
「はいだぬ!」
とにかく会ってくれと来たか。
もう少しごねるかと思ったが。
想像より困ってる雰囲気を感じるな。




