第1672話:各地へ陛下の死を報告
「おっはよー」
「おはようぬ!」
「ユーラシア!」
近衛兵詰め所にはウルピウス殿下もいる。
心なしか皆の表情が硬いな。
緊張気味と言うより、粗暴で荒れた感情が渦巻いているように感じる。
よしよし、ヴィルはあたしが抱っこしてやろうね。
「このたびは御愁傷様です。突然のことでビックリ仰天がどうのこうの。あっ、しっかり覚えたはずなのに忘れちゃってた」
誰も笑わないやん。
空気を軽くしてやろうと思っただけなのに、滑ったみたいで嫌だなあ。
「父上が……陛下が崩御されたことは知ってるんだな?」
「うん。だから来たんだよ」
「施政館から呼び出されてる。何をおいてもすぐ来いと」
「オーケー。ヴィル、お父ちゃん閣下のところへ行ってくれる?」
「わかったぬ!」
掻き消えるヴィル。
「スケジュールどうなってんの? お葬式とか次の皇帝の即位とか」
「まだ何も決まっておらぬ。しかし新帝が即位し、その名の下で先帝の葬儀を行うのが通例ではある」
「えーと、今回は新帝が決まってないから?」
「どうなるかわからぬな。とりあえず陛下の死を公表するのが先にはなるだろう」
「うんうん、ひょっとしてとりあえず陛下の死は隠しといて、段取り決めちゃうこともあり得るかなーと思ってたんだ。でもこんだけバタバタしてたんじゃムリだわ。隠せっこない」
頷くウ殿下と近衛兵達。
「宮内省主催の会議で新帝を決定し、最後に葬儀が執り行われるのであろうが……荒れるぞ」
「迷惑だなー」
赤プレートに反応だ。
『御主人! ドミティウスだぬ!』
『ユーラシア君か?』
「そうそう。キュートにして可憐なあたし」
『すぐ来てくれ』
「わかった。ヴィル、そこにビーコン置いてね」
『了解だぬ!』
新しい転移の玉を起動する。
◇
「御主人!」
「よーし、ヴィルいい子!」
飛びついてきたヴィルをぎゅっとしてやる。
あ、主席執政官閣下以外にプリンスルキウスもいるな。
こんな朝早くなのに施政館に詰めてるって、御苦労なことだなあ。
「ハグはどこでもやるんだな」
「ハグはヴィルがいい子であることの報酬だからね。重要なんだよ」
「重要なんだぬ!」
閣下が厳しい顔を作って言う。
「陛下が亡くなられた」
「うん。聞いた。御愁傷様でした」
「ユーラシア君には各地に陛下の訃報を伝えてもらいたいんだ」
「あたしの関わってるとこだと、ガリア、タルガ、ゼムリヤ、ラグランド、ドーラの五ヶ所でいいかな?」
プリンスが血相を変える。
「ガリアに伝えるのは危険だ!」
「いや、テテュス内海絡みでガリアの信頼を得ておくことは重要だ。一方でルキウスの懸念もわかる」
帝国の混乱を見て取って、ガリアが帝国領ゼムリヤに触手を伸ばす可能性か。
なくはないけど、ガリアにはゼムリヤイコール禁断の果実論がある。
おまけに帝国の信頼を失うと対サラセニア貿易を止められ、テテュス内海での影響力を失ってしまう可能性が高い。
ガリアの王様はそんなバカなことする人じゃないけどなあ。
「ユーラシア君はメリットの方が大きいと見るんだな?」
「悪魔バアルがガリアの先代の王様を唆してたんだ。ゼムリヤを攻め取れって」
「「!」」
「だから先代の王様は、ゼムリヤは禁断の果実だから絶対に手を出すなっていう遺訓を残してるの。今の王様や元帥がいるところでゼムリヤの話をしたことあるけど、労多くして功少ないことわかってるから、ゼムリヤの領主がメルヒオールさんである内は攻められることないな」
むしろいい機会だから帝国に恩売っとけっていう話の持っていき方すれば、内海情勢含めて丸く収まりそう。
帝国にとってもガリアにとっても、天使国アンヘルモーセンを叩く方が先だから。
「となるとゼムリヤとタルガには、ガリアにも皇帝崩御の情報が渡っていることを伝えなければいけないね」
「もちろんだね」
「ドーラ政府にはほぼ連絡だけということになるか」
「うん。まーあたしも時々お昼御飯食べさせてもらう義理があるから、報告はしとかないと都合が悪いの」
「問題はラグランドか」
皇帝が亡くなったという情報を得て、蜂起が再燃する可能性がなくもないのだ。
しかし……。
「ラグランドに情報を伏せておくことは可能かな?」
「いやあ、ムリ。すげえ優秀な情報網持ってるもん。あたしが飛空艇落としたことラグランドの住民皆知ってて、あたしのことミラクルフィフティーンって呼んでるの。一六歳だわって訂正して回るのが大変なくらい」
「それほどか。ううん……」
「逆に言えば隅々まで正確に伝わりやすい、情報操作しやすいってことだよ。今帝国はラグランドに対して軟化してるから刺激すんな。オードリー王女も人質同然に握られてるって考えをバラ撒いときゃ大丈夫だな」
「任せていいかな?」
「うん、任された」
こんなとこで世界が混乱してはあたしが迷惑なのだ。
商売がギクシャクしてしまう。
逆に言うとラグランドにとってもチャンス。
黙って大人しくしているだけで、帝国政府のウケが良くなる局面なんだから。
「じゃあ行ってこようかな。プリンスついて来てよ」
「何故予が?」
あれ? 疑問の余地なんかないだろうが。
「プリンスが次席執政官として働き始めるのは来月からで、今は暇なんでしょ? パウリーネさんとイチャイチャするのに忙しい?」
「忙しくないよ!」
「今日はスピード勝負だぞ? あたしだけがギャーギャー言ってるより、皇子で次席執政官就任が決まってるプリンスが同行してくれた方が、話がスムーズなんだってば。でなければプリンスが残って閣下が来てくれてもいいんだけど、どっちがいい?」
「予が施政館を離れるわけにはいかないな。ルキウス、行ってくれ」
「承りました」
何で不承不承なのだ。
マジでパウリーネさんと約束でもあったかな?
「パウリーネさん連れてっても全然構わないよ」
「いいよ、余計な気を回さなくて!」
新婚旅行みたいなもんだぞ?
もしプリンスが皇帝になろうものなら、挨拶しとくのは印象がいいし。
プリンス不機嫌だけど閣下がすげえ楽しそう。
性格悪いなあ。
「一回りしたら戻ってくるね。陛下が亡くなったということは、いつ市民に知らされるのかな?」
「準備ができ次第すぐだよ」
「わかった。じゃーねー」
「バイバイぬ!」
転移の玉を起動、プリンスを連れて一旦帰宅する。




