第1578話:恋多き男(笑)
実はルーネと相性の合う人はあんまりいないなあと思っていたところだ。
ルーネとピット君の相性は悪くない。
特にルーネはお父ちゃんがアレだから、油断していると売れ残ってしまう。
ピット君はキープしといた方がいいよ。
「ピット君は何歳なんだっけ?」
「一四歳です」
「じゃあルーネと同い年だね」
ピット君側の相性で言えばリリーもルーネも似たようなもん。
でもリリーみたいな元気少女より、ルーネみたいな見た目清楚系の方が好みのようだニヤニヤ。
一旦話題を変える。
「昨日タルガに行ってきたんだ。そんで今、施政館でタルガについての報告してきたところ」
「ふむ、新鋭の軍艦をテテュス内海に投入したと聞きました。ツェーザル中将が赴任したのでしょう?」
「うん。総督のサエラックさんも中将も元気だった」
「しかしツェーザル中将ほどの軍高官をタルガに投入するとは?」
「施政館で聞いてきたことによると、今後帝国は内海交易と辺境開拓地に力入れるって」
「やはり」
フーゴーさんも内海には興味がありそうだ。
「タルガ~サラセニア間で直接貿易を始めるとも」
「そうそう。新造艦はあくまでもアンヘルモーセンへの牽制。本命は商売」
「ほほう、大きな方針転換ですな。もっとも外海での今以上の大事業となると、遠国関係になってしまいます。だからより手近な内海に目を向け、成果を上げようということでしょうが……」
「難しいんだ?」
「さよう。かつてタルガ街道を整備した折り、我が帝国は内海の覇者たらんと、大々的に進出を目指したのです」
「失敗?」
大きく頷くフーゴーさん。
「途端に商人が寄りつかなくなったのです。げに恐ろしきはアンヘルモーセンの支配力。生産調整もままならず経済が大混乱に陥り、最終的に国が傾くほどの赤字を抱えました」
「マジか。でもタルガのサエラック総督は、少しずつ商人が集まってきてるって言ってたよ」
「おそらくはタルガ~サラセニア間の貿易が帝国・ガリアの肝煎りであること。タルガ・サラセニアとも石炭の補給にいいことが原因でしょう」
「なるほど?」
動力船は石炭がないと動かないもんな。
偶然だったけど、タルガ・サラセニア双方で石炭の補給を受けられるなら貿易が潰れることはなさそう。
しかしタルガ行きの街道が大したもんなのに、帝国の内海貿易が物足りんのは、過去の失敗が尾を引いているからだったのか。
アンヘルモーセンヤバくない?
「もしタルガ・サラセニア両方の石炭がないと、アンヘルモーセンは困るのかな?」
「不足することはないでしょうが、確実に石炭価格は上昇するでしょうな。そして難儀するのはアンヘルモーセンでなくて貿易商ですぞ」
おそらく前回帝国の内海進出が失敗したのは、食料で内海を握ろうとしたからだ。
同様に食でもって内海を支配しているアンヘルモーセンの激烈な反発を引き起こしたに違いない。
フーゴーさんの言い方からすると、少なくとも商人達にとっては石炭を握っていることは効きそう。
で、帝国もガリアもテテュス内海の覇権を握ろうというのではないしな?
「……帝国はサラセニアと直接貿易を始めるんだけど、アンヘルモーセンとの貿易も今のまま続けるんだ」
「ふむ。石炭の強みを押しつける格好になりますので、アンヘルモーセンは帝国とガリア両国を敵に回すことはできませんな」
「よし、敵役はガリアだな。帝国はアンヘルモーセンとガリア両方と商売して儲ける役」
「ハハハ、ガリアが納得しますかな?」
「いや、アンヘルモーセンがサラセニアにちょっかいかけてるから、ガリアの王様がすげえ怒ってるの。他所の国に手を出していいのは、滅ぶ覚悟がある国だけだって言ってた。帝国から食料を輸入できることになっただけで喜んでると思う」
ピット君とルーネはそれなりに面白そうに聞いてるけど、記者トリオが退屈そうだな。
これ記事になんないのか?
「一つわかんないことがあるんだ。アンヘルモーセンはかなり露骨にサラセニアに進出しようとしてるみたいなんだよね。急いでそんなことするのは何でだろ? フーゴーさん、情報ない?」
「サラセニアを奪取できるのなら、ガリアの内海への影響力をほぼ無視できます。石炭以外の狙いはガリアの封じ込めなのでしょうが、急ぐ必要性は皆目……」
サラセニアが標的になる理由。
つけようと思えば理屈はつけられるらしい。
しかしアリスがわからないと言ってたくらいだ。
知られていない思惑があると考えた方がいいな。
そして急ぐ理由については全くわからん。
一〇年単位でゆっくり天崇教の布教活動から始めれば、サラセニアに対する支配力は増せたんじゃないか?
「ユーラシアさんユーラシアさん」
「ん? どうしたの?」
「どうもこの話題は、読者の喜ぶ記事になりそうにないんですけど」
「ええ? 商人知識人向け日刊紙もやってるんじゃなかったっけ?」
「商人知識人が頭を休めるために読む新聞なんです」
「何だそれー!」
「何なんだぬ!」
ま、思惑ばっかりで実際に確定の事件は起きてないしな?
「ピット君とルーネロッテ様のロマンスはどうでしょう?」
「ちょ、ちょっと待って!」
「焦ってるピット君は無視するにしても、ダメに決まってるだろ。お父ちゃん閣下に怒られるぞ? 権力者を敵に回すのは賢くない」
「では、どんな記事なら怒られないでしょう?」
「記事にするのは決定なのか。うーん、ロマンスはダメだけど、ピット君が一方的に惚れてるって記事ならいいか」
「よくないですよ!」
「ウソじゃないし。ピット君の一目惚れだぞ?」
「どうしてわかるんですか!」
「ハッハッハッ。あたしにその手の隠し事はムダなのだ」
「ムダだぬ!」
よーし、ヴィルいい子。
あれ、ルーネは思考停止かな?
「『リリーから乗り換えて』とか『恋多き男』とか、ピット君に焦点当てた記事ならセーフじゃないかな」
「「「そうですね!」」」
「本当にお手柔らかにお願いします」
「おいこら。何でピット君が頼まなきゃいけないの。仕方ないから記事にしていいよって、記者さん達に貸しを押しつける場面だろ。商人としてなっとらん」
フーゴーさんメッチャ頷いとるがな。
まったくピット君は悪くなりきれないんだから。
「今日は以上でーす。帰ろうかな。あ、ちょこれえと買ってこ」




