第1533話:とんでもなく不謹慎な要求
「サイナスさん、こんばんはー」
『ああ、こんばんは』
毎晩恒例のヴィル通信だ。
『アレク達とエメリッヒ氏が塔の村へ行ってたんだ』
サイナスさんから話に入るのは比較的珍しいな。
先手を取られた気がして、あんまり面白くなかったりする。
可憐な乙女の可愛らしい我が儘?
「あたしも午前中に塔の村行ったんだけど会わなかったな」
『ほら、転移術の件でデスさんに呼ばれてるという』
「うんうん。もう何か進展があったってことかな?」
デス爺は新『アトラスの冒険者』で使用する転移の玉の設計に取りかかっているはず。
アレクとエメリッヒさんを呼べって言ってたことは知ってる。
アレクやエメリッヒさんには、デス爺の転移術を習得してもらいたいという目論見があるのだ。
どー考えても重要な技術だもんな。
『いや、進展ではなくて。転移術の研究にはもう一人の輸送隊員が必要だそうだな?』
「緑の民の最年少輸送隊員ペーターだよ。デス爺と同じ『晴眼』の固有能力持ちでさ。ある程度のレベルがあると、転移先が見えるんだって」
『今後継続的に転移術研究に関わるとなると、輸送隊員の方の手が足りなくなる。だったら新たな隊員を選抜した方がいいだろうということだ』
「おおう、ちょっと巡り巡った展開だったわ。もうフェイさんにまで話が通ってるんだ?」
『ああ、移民から少なくとも三人選抜したいということだ』
フェイさんもできる男だから、転移術の重要性は当然わかっているはず。
アレクとケスはスキルスクロールの生産にも関わってるし、早めに輸送隊員を増やした方がいいか。
また輸送隊には、いざという時のために魔物と戦う要員という意味合いもある。
魔物に襲われる可能性の高い、開拓地の移民から選抜するのは必要だろうな。
さらに現在輸送隊は未成年の隊員が多いという事情がある。
移民はほとんど成年だから、三人と言わず、もっと選んでもいいくらい。
「わかった。明後日の朝そっち行くよ。そっちってどこだ。JYパークがいいかな? 開拓地の方がいい?」
『JYパークがいいだろう。明後日の朝だな? フェイ族長と移民頭のサブロー氏に伝えておこう』
「お願いしまーす」
輸送隊の規模も段々大きくなるなあ。
交易量も増えてるとのことだし、いいことだ。
今後移民が多くなって、開拓地でも様々な産業が興るに違いない。
ワクワクするなあ。
『もう一つ連絡だ。聖火教のミスティ大祭司が、君に来てくれとのことだそうだよ』
「ミスティさんが? 何の用か言ってた?」
『いや、輸送隊に言付けがあっただけなんだ。急ぎではないそうだけど』
ルーネを連れていく手がなくもない。
聖火教をあまり知らないだろうルーネには勉強になりそうだけど、悪魔とお父ちゃん閣下の関係の話が出る可能性もある。
連れ出すのは遠慮しとこう。
『さあ、ユーラシアの面白話を披露してくれ』
「ようやくあたしのターン! 魚粉というものがあるんだ」
『魚粉?』
「海の王国では油は魚油を使っててさ。その油を搾った魚のカスを乾燥させて粉にしたもの」
『利用価値がありそうではあるが、変わった話の導入だね?』
「サイナスさんが先制で変わった入り方だったから、あたしも対抗しなきゃと思って」
『いいよ、どうでもいい対抗意識は』
真の拒否だろうか?
『押すなよ』と同じやつだろうか?
「で、魚粉なんだけど、割と美味しいの。クララがうちで冬の間に使い切らなかった干し海藻を粉にしたやつと塩を魚粉に混ぜたやつを作ってさ。炊いたお米にかけて食べると相当イケる」
『ほう? 美味いもの好きの君がイケるって言うくらいか』
「ただ魚臭いは魚臭いんだよね。温かいらいすにかけると欠点が増幅されちゃう感じ。でもお弁当だと冷えてるから使えるかもなってことなんだ」
『帝国からの移民は魚好きも多いだろう? 却って御褒美じゃないかと思うんだが』
サイナスさんも移民にはありと考えるか。
少なくとも全く需要がないことはないな。
「お弁当と移民用にはいいと思うんだ。でも米食をドーラに爆発的に広めるためには、元々のドーラ人に食べてもらわなきゃいけないから」
『ははあ?』
「初め米普及にかれえを考えてたんだ。でも料理屋はともかく、家庭食に応用するのは難しくてさ」
『だから魚粉の導入を検討し始めたわけか』
「うん。本来はゴミみたいなもんだから、海の王国が安く分けてくれるんだよ。どーにかして有効活用したいから、サイナスさんも協力して」
『弁当屋で使えってことかい?』
サイナスさん正解。
「米の本格生産が始まってからでいいから、まだ時間はあるんだけどさ。魚粉ふりかけを改良したいんだよ。魚粉の配合比率を減らすことになるんだろうけど、代わりに何を使おうかなってことで」
『雑穀を使ってくれないか?』
「雑穀? アワとかヒエとか?」
『そうそう。余ってるんだ』
すぐ意見が出るとは思わなかったな。
『飢饉に強いって言われているから、昔から継続的に灰の民の村で作られてるのは知ってるね?』
「うん」
『ところが飢饉なんか起こらないだろう? 出番がない。時々粥にして食うくらい』
「わかるわかる」
『絶やすつもりはないから今後も栽培は続けるが、需要がほぼないんだよ。倉庫に山積み。そのふりかけなる新食品に混ぜられないかな? 安いぞ』
「安いのは魅力だね。他にメリットがあるかな?」
『アワは栄養豊富だし、キビには独特の風味があるよ』
「試してみる価値はあるなあ。アイデアをありがとう」
『こっちも使ってくれるとありがたいよ』
魚粉を減らして雑穀を足して、トウガラシや乾燥ショウガをアクセントとして少量加えて、乾燥ハーブで臭い消し。
味のバランス取りが難しいかもしれないけどイケそう。
少しずつクララに研究してもらお。
『他は?』
「他? あ、今日生まれて初めて魚釣りしてきた。面白かったから、帝国で道具買ってきてやってみようかな」
『最近君サボってないか? もっと神話級の魔物が出ちゃったみたいな話を聞きたい』
「サボってないわ! 神話級の魔物なんかしょっちゅう出ないわ!」
とんでもなく不謹慎な要求だな。
「サイナスさん、おやすみなさい」
『ああ、御苦労だったね。おやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『はいだぬ!』
明日はコケシと苔洞窟か。




