第1524話:船酔いの治療
「御主人!」
「よーし、ヴィルいい子!」
魔境散策を楽しんだあと、うちの子達とルーネを連れて、うっかり公爵リキニウスちゃんオードリーの乗るラグランド行きの船にやって来た。
何故って夕御飯を食べたいから。
高レベル者が乗ってるわけでもないのに、大体の位置予想だけでどの船か割り出すヴィルはすげえ有能。
あるいはうっかり公爵の『特徴的な間の抜けた負力』というやつで見つけたんだろうか?
「ユーラシア、ルーネ!」
「素晴らしい!」
ヴィルとオードリーはともかく、何故ルーネまで飛びついてくるのだ?
何が素晴らしいんだかわからんが、ルーネが飛びついてくるのも完全にパターン化したな。
「お肉持ってきたぞお! 焼いて食べよう……って、セグさんはどーしたの?」
オードリーの顔が曇る。
「爺とお義母様の具合が悪いのだ」
「おおう、最早お義母様ときたもんだ」
「船酔いで……昨日よりはいいようなんですが」
「船室でゆったりさせたり、なるべく遠くを見るようにさせたりしているが、こればかりは慣れるまで仕方がない」
リキニウスちゃんの母ちゃん、アルヴィリアさんだったか。
新公爵はアルフォンスさんだったな。
兄妹で名前を似せたんだろうか?
「調子が悪いのはよろしくないね。とりあえず治そう」
「「「「えっ?」」」」
「うちのクララの『キュア』は大体何にでも効くから」
酒酔いに効くなら船酔いにも効くだろ。
常識で考えて。
リキニウスちゃんが言う。
「でも船はまだ動いてますし、再発してしまうのでは?」
「問題はそこなー。でも体調悪いとものも食べられないでしょ? 体力が落ちると調子なんか戻らないからさ。元気に食べることは重要だよ」
皆が頷く。
全員が揃ってないと御飯がおいしくないからですよねって顔をクララがしているが、まあその通りだ。
あたしの都合を優先させるのは当然だろ。
自分のためのロジックならいくらでも捻り出すわ。
「こちらです」
リキニウスちゃんの母ちゃんの部屋へ。
「アルヴィリア、入るぞ」
「こんばんわー」
「こんばんわぬ!」
「おお、美人」
「わしに似て美人だろう?」
「リキニウスちゃんに似て美人」
まったく何を対抗しているのだ。
いかにも貴婦人な金髪の女性が、物憂げな顔でこちらに笑みを返す。侍女も心配そう。
「御機嫌よう。お父様、そちらは?」
「ドーラの冒険者ユーラシア君だ」
驚くお母ちゃん。
「えっ? あのヤマタノオロチを倒したという勇士?」
「うむ。そなたの船酔いを治してくれるというのでな」
「失礼しまーす」
お母ちゃんを診る。
イシュトバーンさんが頭をぶつけた時みたいな、身体の魔力の流れの乱れがあるな。
酒酔いの状態とはちょっと違うけど、治癒魔法で魔力の流れを正せば調子よくなる可能性が高いと見た。
「クララ、お願い」
「はい、キュア!」
「……うん、オーケー」
「あっ、不快な胸焼けが消えた? ありがとう存じます!」
喜び方も優雅だな。
さすがに世が世なら皇妃様だけのことはある。
しかし、身体の魔力の流れに乱れがある時は『キュア』が効くっぽいな。
してみるとイシュトバーンさんが『遊歩』の操作を誤って頭をぶつけたケースは、『ハイヒール』だけじゃなくて『キュア』を併用してたらすぐに治ったのかしらん?
まあ身体を休めることも大事だけどな。
「あたし達、セグさん治してくるね」
◇
「ごちそーさまっ! おいしかった!」
「大変な美味だな。これは何の肉なのだ?」
「コブタマンっていう魔物の肉だよ」
「なるほど、ジビエ料理ということですのね?」
「おう、船上のジビエとは、大層贅沢なことだな」
食べるために狩られた野生の鳥獣をエレガントに表現するとジビエと言うらしい。
そんな便利な言葉があるなら、魔物肉にビビってた連中は何なのだ。
うっかり公爵も簡単に納得してるじゃないか。
以前リキニウスちゃんに魔物肉を食べさせるとはーって、大騒ぎしてたクセに。
世の中理不尽なことが多いな。
「オードリー、船は楽しい?」
「うむ! 海は広いな。魚が美味い。しかし、わらわは肉の方が好きかもしれぬ」
「ズバリ本質を突くなあ」
アハハと笑い合う。
オードリーの言う通り、海は魚という食材を育てるための牧場なのだ。
でもあたしもお肉の方が好きだから、本物の牧場の方がいいわ。
「ルーネちゃんは、ユーラシアさんと一緒に行動していらっしゃるんですの?」
「はい。最近ユーラシアさんが構ってくださるのです」
「構ってって。いや、主席執政官閣下がルーネを遊んでやれって」
「ドミティウス様がおっしゃったのですか?」
「……ダイレクトに言われたわけじゃないな。何となく雰囲気を察して」
ガルちゃんがそう言ってたし、お父ちゃん閣下の素振りからわかるけど。
「閣下は最初あたしがルーネを連れ回すの嫌がってたよ。でも今はむしろ喜んでるな」
「驚きましたのよ? ルーネちゃん、こんなに笑う子だったかしらって」
「うん。あたしもルーネはクールな子かと思ってたら、意外と表情豊かでさ。多分閣下もルーネは笑ってた方が可愛いって気付いたんだと思う」
「冒険者活動も許してくれるってことですね?」
「どーかなー?」
野蛮なことは許してくれないと思うぞ?
「ルーネちゃん、社交界デビューもまだだったでしょう?」
「実はようやくお父様の許しがもらえたんです!」
「あら、よかったわねえ。ルーネちゃん、おめでとう!」
どうやらイシュトバーンさんのえっちな絵を目の当たりにして、いつまでもルーネが子供じゃないことを思い知らされたんじゃないかな。
うっかり公爵が声をかけてくる。
「アルヴィリア。そろそろ身体を休めなさい」
「え、でも……」
「まだ船旅は続くからね。いきなりはしゃぐのは良くないよ」
「そうですか? では残念ですが、失礼させていただきますね」
「明日もまた来るよ」
お母ちゃんが侍女とともに下がって行く。
うっかり公爵が言う。
「感謝する。ユーラシア君、ルーネロッテ嬢。あれほど楽しそうなアルヴィリアを見るのは久しぶりだ」
「いいんだぞ? 今日は帰るよ」
「帰ってしまうのか?」
「ごめんよオードリー。まだ新しい勉強道具はできてないんだ」
「ユーラシアは鬼じゃ!」
アハハと笑い合い、転移の玉を起動し帰宅する。
船は順調、明後日到着と、ラグランドに連絡しとかないとな。




