第1511話:消えてなくなればいい
ガリアがどう考えてるかってことは大体わかった。
ただ夕御飯までにはまだ間があるかな。
「もーちょっとお土産が欲しいな。ガリアは、というか王様はアンヘルモーセンをどう思ってるの?」
「消えてなくなればいいと思っている」
おおう、極めて悪魔寄りの考え方だぞ?
「アンヘルモーセンなどという国があるから、サラセニアが分裂するのだ! 他所の国に手を出していいのは、滅ぶ覚悟がある国だけだ!」
激昂する王様とビビるライナー君。
ハハッ、愉快だな。
「今の意見には全面的に賛成するけど。具体的にアンヘルモーセンはサラセニアに何をしてるの?」
コージモさんが言う。
「様々ですな。貿易制限のチラつかせ、石炭の買い叩き、港湾の一部の租借交渉、有力者の買収、サラセニア国債の買占め、天崇教の布教活動が主なところですか」
「最後のはともかく、イラつくことやってくるなあ」
「ユーラシアもそう思うであろう!」
「でも効いちゃうってことは、ガリアのサラセニアに対する影響力がなさ過ぎるんだぞ?」
「ぐっ……」
王様悔しそうだなあ。
しかし貿易制限をチラつかせといて石炭を買い叩くって卑怯だろ。
サラセニアがアンヘルモーセンの植民地同然じゃん。
つまりテテュス内海貿易において、アンヘルモーセンの影響力が大き過ぎるのがよろしくない。
「ガリアはテテュス内海に大きな港を持ってなくて、サラセニアを通して交易に参加してるって聞いた。合ってる?」
「はい。貿易額に比例した港湾使用料を、サラセニアに支払う条件です」
「港湾使用料を上げて、サラセニアに対する影響力を増せということか?」
「いや、上げるなら貿易額の方でしょ。貿易額が多くなりゃガリアもサラセニアも儲かるんだから」
言うほど簡単じゃねーよという顔をする王様とコージモさん。
「ちなみに何でサラセニアは貿易制限に対して弱いの?」
「食料ですな。北国の常として穀物を輸入できなくなると厳しいです」
「我が国もサラセニアに融通できるほど農業生産に余裕はないしな」
「つまりサラセニアはアンヘルモーセンから食糧を輸入していると? おかしくない? 何でアンヘルモーセンは食糧豊富なの?」
「アンヘルモーセンは内海一の商業国だ。商人も商会もダントツに多く、主な物産の流通はアンヘルモーセンを経由するのだ」
ははーん、アンヘルモーセンは自分とこで農業が盛んなわけじゃないけど、貿易によっていくらでも農作物が入ってくる仕組みを構築してるんだな?
あれ? 逆に言うと北国にも拘らず、食料の余ってる農業国がテテュス内海にはある?
食料は帝国にもあるから……。
「ものの流れを変えよう。どう考えてもアンヘルモーセンを介する貿易がダメだ。アンヘルモーセンを通さず、帝国から直接サラセニアに食料が入ってくるようにしよう」
「「えっ?」」
ビックリすんな。
奇抜な発想じゃないわ。
「し、しかしカル帝国は内海交易にあまり積極的ではないのです」
「おそらくタルガを維持するだけの目的だからな」
「それに帝国に借りを作ることになってしまいます」
「過去積極的じゃなかったとしても、これからも同様だとは限らないぞ? 大事じゃないところにできる男ツェーザル中将を送り込んできたりしないって。帝国は絶対にテテュス内海に対してスケベ心がある」
「ふうむ……」
「勝算があるんだな?」
「あるある。帝国はガリアとアンヘルモーセンがタッグを組むことが怖いんだよ」
「内海交易から締め出され、タルガの経営も難しくなるから、か」
「うん。直接貿易を持ちかければ飛びついてくると思う」
アンヘルモーセン一強だからムリを押しつけてくるのだ。
帝国とガリアが手を結びタルガ~サラセニア貿易が活発化すると、おそらく内海は三極化する。
となればアンヘルモーセンもゴリ押しはできないだろ。
「一度早急に帝国首脳と話し合った方がいいと思うけど。あたし明日帝国施政館に報告に行かなきゃいけないから、都合がよければコージモさん連れてくよ?」
「資料をまとめてまいります!」
「じゃ、明日の午前中迎えに来るね」
コージモさんすっ飛んでった。
仕事熱心だなあ。
「ルーネ、明日ガリアのコージモ外務大臣連れてくって、お父ちゃん閣下に言っといてよ」
「わかりました」
重要な仕事ができて嬉しそう。
閣下もルーネと話せて嬉しいだろ。
王様が言う。
「ユーラシアはカル帝国の意向を受けて動いているのか?」
「意向は受けてるけど、言いなりになってるわけじゃないよ」
「行動原理がわからん。どういう基準で?」
「小さくはドーラのためだよ。大きくはあたしに都合のいい世界にしたいの」
「しかし内海交易や北国のゴタゴタは、ドーラやその方に関係ないであろう?」
関係なくもないんだな。
「ドーラにとって帝国は大のお得意さんだからね。帝国の歓心を買っとくことは、ドーラにとって大きなメリットだよ」
「ふむ、ではユーラシアにとっては?」
「欲しいものが簡単に手に入る世界にしたい。そのために大交易圏を作りたいんだよね」
「大交易圏、か」
「うん。ぶっちゃけドーラなんて吹けば飛ぶよーな小国だからさ。帝国に圧力かけられると屈さざるを得ないじゃん?」
独立戦争前に帝国との交流がほぼ途絶えた状態があった。
またあれをやられて移民も入ってこないとなると、ドーラは発展の余地のないただの田舎国家になってしまう。
「でもあちこちの国と付き合いがあれば、帝国にそっぽ向かれてもやりようはあるからね」
「……以前の通貨を統一するという考えは魅力的だった。大交易圏の実現による健全な発展に繋がるのか」
「統一通貨の国際組織が欲しい。ガリアみたいな大国が入ってくれると、帝国も大きな顔できなくなるから都合がいいんだ。できればドーラに事務局おいてさ」
「ドーラに事務局というのは何故だ?」
「帝国やガリアみたいな大国に事務局置いたら、どこ主導の組織か見え透いてつまんないじゃん。帝国とガリア以外の国ならドーラが最適でしょ? 転移術で各国と連絡取りやすいんだから」
「なるほどな。スケールが大きくて面白い」
王様もルーネも興味深げだが、ライナー君が空気だな。
さて、あたしの腹時計によれば、そろそろいい時間だ。
「お土産においしいお肉持ってきたんだ。焼いて食べよ」




