第1391話:ラグランドを巡る思惑
ルーネが言う。
「放っておくのが一番労力が少なそうですけど、そうしないのは何故ですか?」
「解決までに時間がかかる、ってのが最大のデメリットだね。対ラグランド貿易が長期にわたって止まっちゃうと、景気が悪くなるわ一部嗜好品が入って来なくなるわで、帝国市民の不満が高まっちゃう。政治を預かるルーネの父ちゃん閣下にしてみれば、避けたい事態なんだ」
「なるほど……」
「もちろん戦争になるんでも莫大なおゼゼが出て行くよ。今回は征服じゃなくてビンボーな植民地の反乱を制圧するんだから、軍事解決したところで丸っきり実入りがないじゃん? 結果本土の税金が上がっちゃって、やっぱり帝国市民の不満は高まる」
「では、話し合いは必然だった?」
「必然だね。もっと言うと、帝国が混乱してくれると発展が帝国との修好にかかってるドーラが困っちゃう。あたしが働いて何とか丸く収めようとする所以」
アハハ。
あれ? ルーネとリキニウスちゃんがメッチャ真面目に聞いてるがな。
今のは笑うところだぞ?
「交渉の仕方の細かいバリエーションはもちろんあるよ。艦隊をチラつかせながら脅すとかね。でもお父ちゃん閣下は、単純に使者とラグランド総督の手腕に期待することにしたんだ。うまいこといくと、最も揉めない方法だからだと思う」
「ぼ、ぼくが期待されているのですね?」
緊張するリキニウスちゃん可愛い。
「ビビんなくていいぞ? 殿下が期待されているのは、存在自体に対してだから。交渉は途中で合流するプリンスルキウスに任せときゃいいよ」
「存在自体、ですか?」
「そうそう。艦隊の代わりにルーネも含めて皇族三人を送り込むほど、ラグランドを重視してるんだぞ話聞くぞーってポーズね。特に世が世なら将来の皇帝もあり得たというリキニウス殿下は、ラグランドにとって重く見える」
船長も真面目に話聞いてるやん。
「はい、無事に話し合いになりました。ラグランドの言うことをある程度聞いてあげなくてはいけません。ここが難しいところだよ」
「我が儘じゃない限り、聞いてあげればよいのでは?」
「条件によっては帝国市民の不満が高まってしまうということですか?」
「よし、二人とも優秀。なるべくラグランドの要求を呑んで早急にラグランドの混乱を収束させることが、帝国とラグランド双方の利益になる。でも弱腰だと受け取られかねないから、帝国には絶対に受けられない要求もあるんだ」
「何かな?」
「おっ、船長さんも興味ある? その要求とは独立させろと税金下げろだよ」
唖然とした顔をする三人。
ルーネが言う。
「独立もしくは搾取の軽減以外に要求などありますか? 私には思いつかないのですけれど」
「何か考えてくるはずだよ。ラグランドの指導者層には言ってあるんだ。独立させろと税金下げろはムリだけど、その他だったらかなり通る可能性高いぞーって」
「えっ? ラグランド植民地人とも事前に話をしているんですか?」
「うん。さっきチラッと話したけど、あたしのクエストとしては帝国とラグランドの間に入ってうまく交渉まとめろ。両方から御褒美もらえってやつなんだ。だからあたしも本気だぞ?」
「じゃあ交渉は成功するんですね?」
「交渉の内容自体はあたしも知らないからどうなるかわかんない。でも準備段階としては順調だね」
第三皇子もうっかり公爵も排除したしな。
トラブルなんて起きて欲しくないのだ。
「ここから最初の船長さんの質問、何故ドーラ船がラグランド行きの航路を知りたがるのかの答えに近付いていくよ。ラグランドから出てくる要求の候補として、貿易を自由化させろってのが有力だと考えられるんだ」
「貿易の自由化?」
「帝国の植民地であるラグランドは、現在帝国本土との貿易しか認められていないでしょ?」
「ああ。しかし他と貿易できることがそんなにメリットになるか? ラグランドの購買力は小さいぞ?」
「今の状態だとラグランド産のものは買い叩かれちゃうし、輸入穀物は帝国産に握られちゃうんだ。ラグランドに発展する余地も自由もない」
「貿易が自由化されると?」
「帝国以外にも輸出できるなら、買い叩かれることはなくなるな。帝国より安い穀物を輸入できる可能性もあるから、ラグランドの購買力は大きくなると思うよ」
「ラグランドのメリットはわかった。しかし施政館に受け入れられるのか?」
「そりゃわかんないけど、ラグランド植民地の経済規模が大きくなることは、帝国にも得なことなんだ。徴収する税金が増えるでしょ?」
ここまで来ると流通する通貨量も考えなきゃいけないな。
帝国とドーラだけだと経済規模が違い過ぎるから、帝国任せでよかったけど。
いや、帝国以外の国々まで含めた、大きな経済圏を確立することができれば……。
「御主人、どうしたんだぬ?」
「ん? 何でもないよ。ラグランド貿易がオープンになれば、もちろんドーラにもチャンスがあるじゃん? で、父ちゃんはドーラ~ラグランド間の航路を開拓しておきたいって考えたんだと思う」
「ははあ、よくわかった」
「面白いでしょ?」
「「勉強になります」」
うむ、リ殿下もルーネもいい子だね。
寄ってきたヴィルをぎゅっとしてやる。
「ドーラ~帝国間の貿易は、在ドーラ大使プリンスルキウスと懇意な貿易商さんに任せてるんだ。だから対ラグランド貿易が始まったら、今度は政府事業として確立したいっていう、ドーラの思惑もあるんじゃないかな」
「ほう、ルキウス様はやり手だな」
「プリンスはやる男なんだよ。独立後のドーラが特にゴタゴタなくスタートできたのは、半分くらいプリンスのおかげ」
かなり盛ったった。
プリンスに好印象持ってください。
「ユーラシアさんはドーラ政府とは関係ないんですか?」
「ないない。ドーラはあたしがいくら働いても給料出そうとしないんだよ。いつも御飯で誤魔化されちゃう。だからあたしはレストランドーラ行政府って呼んでるの」
アハハと笑い合う。
「今日はそんなとこかな」
「帰られるんですか?」
悲しそうな顔をするリ殿下とルーネ。
もーあんたら可愛いんだから。
「心配しなくたって明日も来るよ。あ、うっかり公爵とお父ちゃん閣下に連絡しないといけないね。ヴィル、うっかり公爵のとこ行ってくれる?」
「わかったぬ!」




