第1371話:蜂起二日目
フイィィーンシュパパパッ。
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「いらっしゃい、ユーラシア殿。そちらは?」
「帝都メルエルの新聞記者だよ。今帝都ではラグランドがホットでさ。記事を書きたいんだって」
「「「よろしくお願いします!」」」
ラグランドにやって来た。
蜂起の様相は懸念材料ではある。
でもジャブラニ衛士長がここにいて、悠然と構えてるなら大丈夫ってことだろ。
「蜂起の規模に、特に変化ないってことだよね?」
「ああ。帝国が艦隊ではなくて全権の使者を寄越すという話を広めたら、その交渉次第だなという雰囲気になってきている」
「いいね」
よし、もう帝国からの使者が来るまでは、蜂起の火加減はとろ火で決定。
ラグランドは情報網が発達してるから、意識が共有されるのも早いんだろうな。
記者トリオにラグランドの指導者層について説明っと。
「……で、内政担当のリリウオさんって人に、記事にできそうな話を集めてもらってるんだよ。リリウオさんから聞いてきてね」
「わかりました。しかし戦場みたいになってなくて安心しましたよ」
「危ないところには連れてこないわ。死なれでもしたらほんの少し寝覚めが悪くなっちゃうわ」
「ほんの少しだぬよ?」
アハハ、ヴィルは的確に拾って偉いなあ。
「でも農村は貧しいよ。ラグランドは人口の割に耕地面積がかなり狭い感じがする」
「何? そうなのか?」
あれ? ジャブラニさんが意外そうだ。
ラグランドの外の農業実態を知らないからかもしれないが。
「少なくともドーラや帝国の畑は広いよ。耕地の狭いことが、ラグランドがビンボーである根本にある気がする」
考え込むジャブラニさん。
帝国の統治の仕方にも問題があるんだろうが、お腹一杯食べられることは豊かの証拠だよ。
「帝国がラグランドに送ってくる使者が決まったんだ。総督府に伝えてくるね」
「ユーラシア!」
オードリーとヴィルが飛びついてくる。
何なんだ、あんた達は。
本当に可愛いんだから。
「そちらがオードリー姫ですね?」
「うむ。して、そなたらは?」
「帝都の新聞記者だよ。ラグランドの記事を書いてもらおうと思ってるんだ。あたし達は総督府行こうか」
今日はあたしだけでもいい気はするが、ラグランドのトップがついて来てる方が話が通ってるんだなと、ホルガー総督も安心するだろ。
ヴィルとオードリー、侍従のセグさんを率いて総督府へ。
◇
「こんにちはー」
「おお、ユーラシア殿」
あれ、どうした衛兵長。
昨日より随分愛想がいいじゃないか。
ははあ、あたしの機嫌を取っといた方がいいことに気付いたんだな?
よきにはからえ。
「帝国からの特使が誰になるか決まったんだ。知らせに来たよ」
「セウェルス様がお出でになるのか?」
「それがねえ。一悶着あって、第三皇子は精神的に使者の任には堪えられないって結論なんだよ。あ、これは総督に先に言っとかなきゃいけないことかな?」
「うむ、中へ」
総督の待つ部屋へ。
今日は人の数が少ないな。
ホルガー総督と衛兵長、
魔道士のトップらしい人と秘書官が二名か。
「こんにちはー」
「ユーラシア君、待っていましたよ。オードリー様はそちらへどうぞ。お菓子が用意してありますよ」
「うむ、すまぬな!」
今日はオードリーにも気を使ってくれるらしい。
総督府の方針が明らかになったようで、ひっじょーにやりやすい。
「おかしなことになったんだ。実は……」
昨日の第三皇子セクハラ事件について話す。
「なるほど、セウェルス様は療養と。特使はどなたに決定しましたか?」
「リキニウス殿下だよ」
「「「「「えっ?」」」」」
ビックリの反応になるわなあ。
「……私の記憶が正しければ、リキニウス様は確か九歳だったかと」
「九歳だったのか。オードリーと大して年齢変わんないね」
「蜂起に対しては総督府主導で解決せよというメッセージですか?」
ホルガーさんの表情が曇る。
現植民地体制下で蜂起したのだから、帝国政府の積極的な介入と譲歩があるべき。
帝国にやる気がないとラグランド側に知れれば、蜂起が本格化しかねない。
「いや、違うんだ。補佐にプリンスルキウスがつく」
「なるほど、皇族がお二人。しかもルキウス様ならば……。しかしであればルキウス様が正使でよろしいではないですか」
「プリンスは今、在ドーラ大使なんだ。ラグランド側との交渉の日に臨時であたしがこっちに連れてくるだけで、施政館への報告も文官任せになるからだと思う」
「そういう事情でしたか。ルキウス様が在ドーラ大使というのは存じませんでしたが」
面白い裏があるんだよ。
けど表向きの事情だけ話しとく。
「ババドーン男爵が失脚して、その娘フィフィリアとプリンスの婚約が白紙になった。プリンスを醜聞から遠ざけるために、在ドーラ大使に任じたっていう事情があったみたいだよ」
「ほう?」
「ところがフリードリヒ公爵の娘パウリーネさんとプリンスとの婚約が決まったんだ。だから主席執政官閣下は、プリンスを次席執政官として帝都に呼び戻すって」
「めでたいですな」
「まことに」
めでたいと言いながら微妙な表情を四角い顔に浮かべるホルガーさん。
次期皇帝争いに関係するドロドロした裏の方は、勝手に想像してくださいニヤニヤ。
「で、在ドーラ大使の後任はホルガーさんなの」
「「「「「えっ?」」」」」
驚くことはないんじゃないかな。
妥当だと思うよ。
「ホルガーさん、ラグランド総督としての任期まで残りちょっとらしいじゃん?」
「いかにも……ああ、なるほど」
自分がラグランド総督として留任したら、新体制を印象付けることができないと思い当たったのだろう。
納得の表情になるホルガーさん。
「帝国ラグランド交渉が、私の最後の大仕事になりそうですな。全力でことに当たります」
「ええ? 最後の大仕事とか冗談じゃないわ。在ドーラ大使でもしっかり働いてくれないと困るんだけど」
「おっと、そうでしたな」
「そうなんだぬ!」
アハハと笑い合う。
「あたしまだプリンスルキウスにこのこと伝えてないから、会ってこなくちゃ。いつ頃使者が来るとか段取りがどうなるとか決まったら、すぐ知らせに来るからね」
「よろしくお願いします」
「またねー」
「バイバイぬ!」
さて、新聞記者トリオを回収しないと。
総督府を後にする。




