第1364話:ポポマチのウィリー君
あたしの名前のついた自由開拓民集落から、ヴィルとともにびゅーんと南へ飛ぶ。
あ、森にマッドオーロックスがいるわ。
あれおいしいんだよな。
仕留めてお土産にしたいけど、残念ながらクララがいないので運べない。
今日は諦めるか。
「海だぬ!」
「海面が眩しいなー。誰かさんの頭みたいだ」
「ハゲだぬ!」
アハハ、ヴィルのストレートな物言いは面白いな。
海岸に出ると、東側に大きな半島のようなものが見えた。
「あの一帯が南部か。行こう」
「はいだぬ!」
さらに行くと開けたところに出た。
「集落があるぬよ?」
「本当だねえ。寄ってみよう」
地図に載ってない集落みたいだな。
でも結構大きいぞ?
フワリと降り立つ。
「ふーん。あたし達の住んでるところとは全然気温が違うわ」
「暖かいぬ!」
「ドーラにもこんなところがあるんだな」
ソロモコほどの気温はないんだろうけど、似た感じがする。
なるほど南部は全然違う作物が作れるわ。
コショウ以外にどういうものを作ってるのか、いずれじっくり調査したいな。
今日はラグランド行って帝国行ってドーラ南部だから、温度差が激しいなあ。
まあこれもまた良し。
あ、村人がいる。
「こんにちはー」
「こんにちはぬ!」
「やあ、北部の人かい?」
「うん。南部の人の服は変わってるねえ。涼しそう」
「北部とは気候が違うからな。材質も違うんだよ」
あたし達の服は綿花や麻製のものが多いが、南部では芭蕉やジュートが材料になるのだという。
見た目ざっくりって感じがする。
セレシアさん連れてきたら、インスピレーションが湧くんじゃないかな。
「ところで君達、どうやってここまで来たんだい?」
「飛んできたんだよ」
「飛んで?」
ヴィルとフワッと浮いてみせると、村人が驚く。
「おお? 北部で開発された技術かい?」
「飛行魔法を応用したアイテムだよ。レベルが二〇はないと使えないけど」
「ハハッ、じゃあオレにはムリだな」
「ポポマチってとこに用があるんだ。どこかな?」
「隣の村だよ。南へ三〇分くらい歩いたところだ」
「ありがとう!」
「バイバイぬ!」
うん、やはり地図上ではネマチという名になっている集落の位置でよさそう。
今日は周辺の様相も知りたいので、ヴィル転移じゃなくてわざわざ飛んできたけど。
ヴィルとともにさらに南へ。
◇
「ここがポポマチか。さっきの集落より小さいな」
気さくな村人が話しかけてくる。
「おっ、お嬢ちゃんは北からの客人かい?」
「おっちゃん、こんにちはー。あたし達南部に来たのは初めてでさ。ここがポポマチであってる?」
「おう、間違いないぜ」
「よかった。ウィリー・クーロンという人に会いに来たんだけど、知らないかな?」
おっちゃんが驚いたような顔をする。
「ウィリーなら息子だ。お嬢ちゃんみたいなキュートガールの知り合いがいるとは知らなかったが」
「キュートガールか。おっちゃんわかってるなあ。いや、知り合いではないんだ」
「ん? ああ、ウィリーが来たぞ」
振り返るとチリチリ頭の小柄な男の子がいた。
でもあたしより年上なんだよな?
「ウィリー君? 初めまして。あたしは『アトラスの冒険者』のユーラシアだよ」
「ユーラシア? 美少女ドラゴンスレイヤーの?」
「そうそう。美少女ドラゴンスレイヤーの」
この辺あんまりドーラの他の地域と交流なさそうだけど、あたしのことは知ってるのか。
「僕も『アトラスの冒険者』だったんだ。全然だったけど」
「知ってる知ってる。あたしはウィリー君をスカウトに来たんだ」
「スカウト? いや、でも僕は……」
「魔物との戦闘は向き不向きがあるからしょうがない。あたしはウィリー君の固有能力を買ってるんだ」
「固有能力?」
あれ、おっちゃんは聞いてないんだ?
「生まれつき魔法が使えるみたいな人いるでしょ? ああいうやつ」
「ウィリーは魔法が使えるようになるのか?」
「いや、ウィリー君は『マップ』の固有能力持ちなんだ。かなり広い範囲で地形や集落の位置がわかるっていう」
「ウィリー、すげえじゃねえか!」
ウィリー君が首を振る。
「僕もチュートリアルルームで『マップ』の説明を受けたんだ。でもちっとも恩恵が感じられない。僕は能力が弱いんだと思う」
「違うの。『マップ』の固有能力は、ある程度レベルが上がんないと効果が発揮されないんだって」
「おい、ウィリー。レベル上げてみろよ」
「レベルを上げるのは簡単なことじゃないんだよ。……もし魔物を倒せてレベルを上げられたとしても、さほど役に立つ能力じゃないし」
目を伏せるウィリー君。
『アトラスの冒険者』として失敗したこと以上に、『マップ』の能力に価値を見出せなかったのか。
ま、『アトラスの冒険者』として『マップ』が有効なのかと言われると、確かに微妙ではあるな。
「『マップ』は戦闘には役に立たないかもしれないけど、ダンジョンの構造が見ただけでわかるなら使えるでしょ。土地勘のない場所でも迷わないんだぞ?」
「……使えるのかなあ?」
「いい固有能力だってば。『アトラスの冒険者』って優秀な人が選ばれるじゃん? あたしは過去八年くらいの脱落しちゃった『アトラスの冒険者』のリストをもらってさ。活躍してもらうために、優先順位の高い能力持ちを四人見繕ったんだ。ウィリー君はその内の一人」
「えっ? 美少女ドラゴンスレイヤーに選ばれたのか」
あら嬉しそう。
いい顔ですよ。
「ちなみに他はどういう固有能力の持ち主を?」
「天気がわかる『日和』、亜人等異種族に親和性がある『外交官』、自分含めた周りの運を上げる『福助』だよ」
「……共通点がわからないな。全員戦闘向きじゃないことは理解できるけど」
「ドーラをいい国にするために必要な人を選んだんだ」
「あっ、ドーラが独立したからという観点か!」
ようやく本題だよ。
「将来的にドーラ各地をどう開発していくかを考えた時、ウィリー君の『マップ』が必要なんだ。協力してくれないかな?」
「おい、ウィリー。キュートガールの頼みだ。皆のためにもなることじゃねえか。協力してやれよ」
「キュートガールの言うことは、何を犠牲にしても聞くのがドーラのルールだぞ?」
「ルールだぬ!」
「アハハ。わかったよ。具体的には何をすればいいのかな?」
「ウィリー君のレベルを上げるよ。二時間ほど付き合って」




