第1329話:プリンスルキウスとパウリーネさんのラブい話
「美少女精霊使いユーラシア参上!」
「御主人!」
「よーし、ヴィルいい子!」
ガータンからパッフェルの宮殿にやって来た。
飛びついてきたヴィルをぎゅっとしてやる。
あんたは可愛いのう。
連れてきたパスカル君がキョロキョロしてるけど、これが転移だってばよ。
「パスカル様、お帰りなさいませ」
「あ? ああ、御苦労。姉上の婚約以外で変わったことはなかったか?」
「ありません」
「ねえ、警備員さん。パスカル君少し精悍になったと思わない?」
「思います。いい経験をされたようですな」
ハハッ、パスカル君喜んでやがる。
「もう二、三年ガータンで経験を積めばいい男になると思うよ」
「勘弁してくれ!」
警備員さんが何で? って怪訝な顔してるわ。
ガータンはド田舎なので、落ち着きのないパスカル君にとってはすげえつまんないところなのです。
「父上はおられるかな?」
「はい、おいでになります」
「お邪魔しまーす」
宮殿の中へ。
◇
「この規模のお屋敷は宮殿だよねえ」
「うむ、そうだな」
フリードリヒ公爵が来るまでパスカル君とお話だ。
「帝国の領地持ちお貴族様は、皆宮殿に住んでるのかと思ってたんだよ」
「そんなはずはない。宮殿を建てるのにどれだけの金がかかると思うんだ」
「だよねえ」
ガータンを見て、爵位持ち貴族の最下級である男爵がどんなもんか把握した。
いや、厳しいわ。
でもあれくらいの人口の少ない領地だと隅々まで目が行き届くし、愛着も湧くなあとは思った。
頑張れヘルムート君。
「宮殿に居住するのは侯爵以上の大貴族だけだぞ。いや、一部の伯爵も宮殿を持つのだったか?」
「要は財力のある大貴族だけってことだね? ガータンの領主屋敷くらいの大きさの館は何て言うのかな?」
「カントリーハウスとかマナーハウスとかだな」
「へー。勉強になるなあ」
あ、フリードリヒさんとパウリーネさん来た。
「やあ、よく来てくれたね」
「こんにちはー。パウリーネさん、婚約おめでとう!」
「ありがとうございます! あっ、ヴィルちゃん! お手紙持っていってもらっていいですか?」
「いいぬよ?」
「ヴィル、プリンスに手紙渡したら、通常任務に戻ってね」
「わかったぬ!」
ヴィルの姿が消え失せる。
フリードリヒさんが感心したように言う。
「見事な転移だね」
「悪魔は転移って言わないでワープって言うんだよね。何が違うのかよくわからないけど」
「悪魔は皆ワープできるのかい?」
「いや、できる子の方が少ないんじゃないかな。うちのヴィルとバアルは二人ともワープできるけど、ヴィルの方が上手だよ。魔力のムダがないの」
「ほう? 興をそそるね」
そそられるかもしれないけど、そっちにもそそられる話題があるだろーが。
言うまでもなくラブい話だ。
「プリンスルキウスとパウリーネさんは、数ヶ月中に結婚ってことになるのかな?」
「はい」
「パウリーネさんがドーラに来る格好になる?」
「今のままの状態ならね」
フリードリヒさんの含みのある言い方だ。
つまり皇帝陛下が崩御すれば状況は変わる、ということだな。
在ドーラ大使が交代になるかもしれないし、ちょっと間違うとプリンスルキウス自身が皇帝になるかもしれない。
「……この婚約を機に、ルキウス様を帝都に呼び戻す手もある」
「難しいねえ。フリードリヒさんの考えとしてはどう?」
アーベントロート公爵家の力があれば、大使の交代を早めることはできるらしい。
具体的なことは言ってないが、パウリーネさんもパスカル君も何となく察してるだろう。
次期皇帝を見据え、プリンスルキウスの影響力は帝都で行使した方がいいのではないか、という考えだが?
「僕としては手を出したくないね」
「じゃ、プリンスはしばらくドーラだな」
ここでプリンスを帝都に戻すことになると、確実にアーベントロート公爵家はプリンスルキウスを次期皇帝にするために動いていると、各方面に思われてしまう。
フリードリヒさんはそーゆー政治的思惑の渦中に身を置くのは好ましくない、もしくは時期尚早と考えているのだろう。
あたしも今プリンスがドーラ大使を外れるのは、商売上面白くないしな?
プリンスが皇帝を狙える大チャンスがあるってのなら送り出すのもやぶさかではないが、困難だったらドーラで働け。
「ルキウス様がドーラにいるままであることで、不利になることはないかい?」
「あるかもしれないけど、逆に危険や厄介ごとも避けられると思う。いざとなりゃあたしが帝都に連れてくし」
「危険?」
「これ内緒だけど、この前主席執政官閣下が毒盛られてるんだよ。施政館の食事でだよ? もー帝都は何があるかわからん」
「ふむ……」
プリンスが帝都に戻ったら、確実にラグランドへの使者を仰せつかるだろうし。
ハッキリ言ってラグランドへの使者なんて貧乏クジだ。
功なくして、失敗のみ取り沙汰される。
「じゃあパウリーネも当面ドーラでお世話になるね。住むところはあるかな?」
「えーと、プリンスはドーラ行政府で住んでるよ」
「政治の場か」
「行政府は元々総督府だった建物を流用してるんだ。だから本来随員とかが使うはずだった部屋がたくさん余ってるよ。でも大貴族のお嬢さんに相応しくはないと思う」
プリンスもその辺何も言わないからわかんない。
いや、ドーラ総督が住んでたくらいの部屋だから、相当なのかな?
でも随員用の方はな?
「パウリーネさん本人はもちろんだけど、いずれ執事さん侍女頭さん? 面倒をみる立場の人に見てもらった方が確実だな。とゆーか、ドーラには上流階級の世話係みたいな人がいないんだ。平民の国だから」
「ルキウス様はどうしてるんだい?」
「全部一人でやってると思う」
「ほう、生活力高いな。見直したよ」
元々皇族の立場だったからお付きの人がやってたようなことも、プリンスは文句一つ言わずに自分でこなしてるわけか。
そう考えると割とすごい。
プリンスはレベルが上がったことによる『威厳』ばかりが目立ってるけど、ドーラでの生活で精神的にタフになってるんじゃないかな。
「まーでも先のことだから、ギリギリになってからでいいよ」
「同感だね」
皇帝がいつ亡くなるかわからないのだ。
いざとなると状況はガラッと変わる。
パウリーネさんがドーラになんて、考えなくてもよくなるかもしれない。




