第1305話:説得
辛抱しきれなくなったか、中将が怒りに任せて怒鳴る。
「俺の任務の邪魔をするな!」
「おお、中将は声もデカいねえ。結構な迫力だわ」
あたしの態度に気が削がれた様子になる中将。
ビックリはしたけどビビりゃしないわ。
艦長のブライアンとかいう大佐さんの方がビビってるわ。
「あたしだって中将の邪魔したくてしてるわけじゃないんだ。無粋な趣味はないと、声を大にして言いたい」
「どういうことだ? お主の行動に必然性があるとでも言うのか?」
「あるんだよ。帝国の人が知らないことは多いはず。わかんないことはあたしが知ってる限り説明するから、どんどん質問してよ」
「ふむう?」
腕を組む中将。
頭に上った血が少しは下がったのではなかろうか?
「まず、ソロモコの現状とは何だ?」
「かなり面倒な事情が絡んでるんだ。順番に話すよ。ちょっと遠回しな話になっちゃうけど許してね」
頷く二人。
「ソロモコには魔王が関係してるの」
「魔王? えらく唐突ですな」
「突拍子もない話題で煙に巻こうとしてもムダだぞ」
「本当だとゆーのに」
内情を知らんと突拍子もないと思うのもムリはないけど、大マジだぞ。
「昔っから魔王は人間の敵とされてるじゃん?」
「当然だな」
「何故魔王は敵なのか、考えたことある?」
「む? それは……」
魔王と言われると反射的によろしくないものと考えてしまうのが思考の穴だ。
物事には理由がある。
「悪魔には負力と呼ばれる人間の感情が必要で、悪魔達を束ねる魔王は配下の高位魔族を繋ぎ止めるために、悪感情を集めて配らないといけないんだ。手っ取り早いのが人間と争うこと。でも現在の魔王バビロンは特に人間と敵対していないでしょ?」
「言われてみれば……」
承認や尊敬は悪感情以上に悪魔にとって好ましいこと。
魔王はソロモコから尊敬の感情を吸い上げて配下の悪魔達に配っているため、人間と反目して悪感情を集める必要がないことを説明する。
「で、ソロモコを任されてる悪魔がこのフクちゃん」
「ソロモコの住民は騙されておるのか! 気に食わんな!」
「フクちゃんがやってることは道義的に許せないかもしれないよ? でも悪魔だってエネルギーを得なきゃ生きてゆけないんだし、誰が損してるわけでもない。あたしは大目に見てやってもいいと思うんだ。悪魔達が悪感情を得るためにあちこちで悪さして回るよりよっぽどいい」
根っからの人道主義者や人間中心主義者だと、悪魔にただ尊敬の感情をくれてやるなんて絶対に認めないんだろう。
けどまあ思想家やドリーマーが職業軍人やってるわけもなし。
メリットデメリット考えりゃ、ソロモコと魔王の共生関係が、現実的な妥協点としてこれ以上ないことくらいわかるだろ。
「真実なのだな?」
「本当。ただし細かいところはあたしじゃわかんないところがあると思う。だからソロモコで尊敬の感情を集めて魔王島に送るシステムを担当している、フクちゃんを連れてきたんだ」
「フクロウの悪魔よ。お主が魔王とグルということか?」
「ボクは魔王様の配下なのですホー。ソロモコは過去悪魔と関わったことがないらしく、ボクを見るなり神の使いと崇めるようになったのです。それで魔王様に尊敬の感情を届けることを思いついたのですホー」
「やっぱ魔王を宥めて人間と争わないやり方は、フクちゃんが考えたんだ? やるなあ」
「そ、それほどでもないですホー」
フクちゃんが照れる。
可愛いやつめ。
「すると我が帝国海軍がソロモコを占領するとどうなる?」
「普通に考えりゃ神の使いたるフクちゃんの権威が失墜して、尊敬の感情を集めるシステムは機能しなくなるでしょ。魔王が怒り狂うから戦争になっちゃう。魔王軍対帝国軍になるのか、全人類巻き込んで人魔大戦になるのかは魔王次第だけど」
「た、大変だ!」
慌てる艦長を制して中将が続けて問う。
案外冷静だな。
「何故ドーラの冒険者が幅を利かせているのだ? いや、それ以前にドーラ人であるお主がソロモコに関わっている理由は?」
「『アトラスの冒険者』って知ってるかな?」
「新聞報道で見たぞ。転送魔法陣によって世界中へ飛べるらしいではないか」
おお、新聞屋いい仕事してるなあ。
あたしの魅力が売り上げに貢献してるからだな。
「『アトラスの冒険者』に興味はあるな」
ちょっと横道逸れちゃうけど、話しとくか。
「庭に勝手に転送魔法陣設置されて、さあクエストをクリアしてねっていう、考えてみりゃえらく乱暴な組織なんだよね。でもドーラは魔物が多いから、ちょっと村から出るのでも大変だったりするんだ。魔物と戦う手段をくれるってだけでも、あたしにとってはありがたかったな」
「ふむ、ドーラに魔物が多いとは聞いている」
「ルーキーの時はスライム倒せみたいな簡単なお仕事をこなしていくんだけど、経験積んでくと段々わけわかんないクエストを振られるの。ソロモコのクエストも初めは正体わからなかったなあ。言葉も通じないし、どうなることかと思ったよ。でも住民と仲良くなって帝国艦隊が偵察に来てること知って。フクちゃんと出会って魔王のカラクリも知って。あれ、これって世界の平和に関わる重要な案件じゃねって気付いたんだ」
「魔王のカラクリとソロモコか。俺に信じろというのか? 証拠がないではないか」
「信じて欲しいなー。あたしはドーラをいい国にしたいんだ。だから帝国とうまく付き合っていきたいの。ウソ吐いたって何の得もない」
「……道理だな」
「人類全体が魔王と戦争になっちゃうリスクに比べれば、帝国と揉めるだけの方がなんぼかマシだから、こうやって相談しに来てるんだよ」
「うむ……」
「可能なら何も言わずに撤退してくれるとありがたい」
「……」
中将に迷いが見える。
あたしの言うことに理があるのはわかるのだろう。
しかし何もしないで撤退というのは、武人の矜持としてどうなんだろ?
ツェーザル中将自身は理性で納得できても、部下達ははたして受け入れられるか?
もう少し押しておくべきだな。
後ろに控えている魔道士達に声をかける。
「さっきの空にドカーンと撃った魔法見たかな?」
「「「見ました」」」
「あれは世界最大最強の魔法なんだ。艦隊には魔道結界が張ってあって、理論的には魔法が効かないってことになってるんだろうけど」




