第1287話:なくなっちゃうかもしれないの
フイィィーンシュパパパッ。
マーク青年を送ったあと、チュートリアルルームにやって来た。
「あら、ユーちゃんいらっしゃい」
「おにくびみらーっ!」
「やったあ!」
何だ、ソロモコ語通じるじゃないか。
小躍りするバエちゃんにお土産のお肉を渡す。
「魔王のクエスト終わったって聞いたわよ」
「あ、ソル君来たのか。でっかくて割と凶暴なドラゴンが五体も出て魔王が困ってる。やっつけろってやつだったんだ」
「ユーちゃん大活躍だったって?」
「いやーソル君と魔王がいなかったら倒せなかったな」
特にソル君の事前強化の魔法すごい。
支援魔法って戦闘中の行動が一回潰れるのがネックなのに、そーゆー欠点がないんだもんな。
ボス戦で強力な武器になるじゃないか。
どこで覚えてきたんだか知らんけど、やっぱ『スキルハッカー』はとんでもないな。
「その『スキルハッカー』だけど、レベルが上がったら過去に覚えたスキルを消去できるようになったって聞いてた?」
「えっ?」
固有能力はレベルが上がると、今までできなかったことができるようになったりすることがある。
『スキルハッカー』も元々は習得枠一二個以上は覚えられなかったはずだ。
しかし使わなくなったスキルを消して習得枠を増やせるなら、より利便性が高いなあ。
「まだ習得枠を全部埋めてないから、消去なんて考えてないって言ってたけど」
「あたしが最初に教えてあげた『ハヤブサ斬り』なんて、多分いらなくなっちゃうなあ」
「そうでもないみたいよ? 小回りが利くから使いやすいって」
うちのパーティーはアトムが盾役を引き受けてくれるので、あたしの一掃スキル『雑魚は往ね』が生きる。
けどソル君のパーティーはソル君自身が盾役だから、魔物を一体ずつ倒すケースが多いのかな?
あるいは振られてるクエストの関係で、単体で出現する魔物が多いのかも。
すると消費マジックポイントの割にダメージの大きい小技『ハヤブサ斬り』は、うち以上に有用か。
「今日はユーちゃんどうしたの?」
「今後忙しくなりそうなんだ。しばらく来られなくなるかもだから、お肉でバエちゃんを餌付けだけでもしとこうと思って」
「アハハ。でもユーちゃんはいつも忙しそうじゃない」
「今までは予定が入ってるから忙しいって感じだったんだけど、今回は違うんだ。忙しくなりそうだから予定が入れられないっていう」
「え? 何なのそれ」
いや、ちょっとあたしにもわからないのだ。
「ただのカンなんだよね」
「ユーちゃんのカン、当たるから……。あれなの? 今請けているソロモコのクエストが長引くということ?」
「ってことはないな。ソロモコのあとがややこしくなるんじゃないかと思うんだ」
ソロモコ遠征の司令官ツェーザル中将には、ラグランド蜂起のことは知らせてある。
帰還を急ぎたいはずだから、長引く要素はないのだ。
「大変なのねえ」
「大変なんだよ。誰にボーナス請求したらいいと思う?」
上司のいるバエちゃんが羨ましいわ。
バエちゃんがあたしを見つめる。
ん? どーした?
「……ユーちゃん、私が今何を考えてるかわかる?」
「え? 藪から棒だね」
寂しさと不安が見える。
いい知らせではない。
あたしにも関係があることのようだ。
まだ決まった未来じゃなさそうだが?
「『アトラスの冒険者』に関してあたしに言っときたいことがある。いい話じゃないけど、言っちゃいけないことでも決まったことでもない。ってとこかな」
「相変わらずユーちゃんはすごいわ」
切なげな笑いを見せるバエちゃん。
「『アトラスの冒険者』がなくなっちゃうかもしれないの」
「そーかー」
「これもわかってた?」
「わかっちゃいないけど。元々『アトラスの冒険者』は赤眼族監視の組織なんでしょ? そっちの世界に対する赤眼族の危険性を考えると、もう『アトラスの冒険者』はなくてもいいのかなとは考えてた」
依頼を請けて冒険者を動かすというギルドのシステムは、治安維持の役割も含めて、本来ならドーラでやらなきゃいけないことだ。
転移転送を使える『アトラスの冒険者』がいたから、他の組織が発達しなかったということはあるだろうが。
「私達の世界でも派閥構造があるのよ」
「まー人の数だけ考え方はあるだろうけれども」
「『アトラスの冒険者』のトップであるシスター・エンジェルが、本来の職務と関係のないところで動いてるでしょう? ならば『アトラスの冒険者』なんて潰せって声が上がってるの」
「そんな理由かい! 何やってんだあの赤眼天使はもー!」
いや、タイミング的に赤眼天使の子エルが旧王族に連なることを知ったやつが、敵派閥にいるんだろう。
しかしそれをスキャンダルとして発表すると都合の悪いことがあるから、搦め手で赤眼天使を失脚させようとしている?
となると……。
「旧王族って、バエちゃんとこの世界ではどういう扱いなん?」
「簡単に言うと宗教みたいなものなのよ」
「宗教?」
何じゃそら?
どゆこと?
「そちらの世界ではわかりにくいのかもしれないけど、今の政府を信じますか、昔の王政を信じますか、みたいな」
「……とゆーことは、バエちゃんやシスターが聖職者っていうのは、政府機関に勤める公務員っていうことなのかな?」
「そうそう」
「バエちゃんが聖職者ってのは最初から謎だったけど、ようやく判明してスッキリ」
なるほど、政府に対する忠誠を宗教という形で二重に縛る統治か。
敵派閥のやつも、赤眼天使やバエちゃんと同じ宗教の信徒なのだろう。
旧王族関係のネタを下手に突くと旧王族系の宗教勢力が増大しかねないから、赤眼天使を必要以上に締め上げることができないんだな?
赤眼天使も承知していて、一方で旧王族系の勢力の切り札になり得る逃亡者エルを放置もできないから動いてるということか。
推測の部分が多いけど、とりあえず矛盾がないな。
「何かわかってきたぞ? 仮説に過ぎないけど」
「どんな仮説?」
「エンジェルさんは逃げた精霊使いの関係者だよ。多分密接な」
「えっ!」
「内緒だぞ?」
コクコク頷くバエちゃん。
密接どころか親子だけどね。
ま、こう言っとけば次に赤眼天使がバエちゃんに接触した時に伝わるだろ。
赤眼天使はあたしにコンタクトを取ってくると見た。
「じゃ、今日は帰るね」
「またね」
転移の玉を起動し帰宅する。




