第1286話:険しい道は舗装しろ
「しまった、ヴィルを連れてきとくんだった」
パワーカード屋にやって来たら、売ったコルム兄も買ったマーク青年もホクホクしてるがな。
さっきもエルにツッコみ損なったし、今は今でいい感情が吸えただろうになあ。
ごめんよヴィル。
「マーク君、パワーカード買ったんだよね?」
「ええ。そのために来たんですから」
「種類は何を?」
「全部です」
「やっぱ全部かーい! 富豪みたいな買い方する人、初めて見たわ」
これはあれか。
カードコレクターというやつか。
実用品でムダにはならんからいいけれども。
「コンプリートですよ!」
「残念ながらコンプリートじゃないぞ?」
「えっ?」
コルム兄説明してないのかよ。
「ここで売ってるパワーカードは、コモン素材だけで作れるものと、塔のダンジョンで回収されたものだけなんだ」
「……ということは、他にもパワーカードは存在すると?」
「そゆこと。特にレア素材を使ったカードは、かなり強力なやつが多いよ」
コルム兄、何ニヤニヤしてるんだよ。
「ユーラシア。どんなパワーカードがあるか、少し紹介してやってよ」
「ええ、ぜひ」
ノリノリじゃねーか。
何だこれ?
コレクター魂を刺激してやれってこと?
「例えば『アンリミテッド』。これは人形系レア魔物を倒すために、コルム兄に注文して作ってもらったカードなんだ。【衝波】、攻撃力+二〇%ってやつね」
「なるほど、ワンオフのカードですか」
「初めはあたしがコルム兄に作ってもらったんだけど、人形系を倒すのに最適だから今では何人か持ってるけどね。特注じゃないとこんなのもあるよ。『暴虐海王』。攻撃力+二〇%、攻撃力/防御力/魔法力/魔法防御/敏捷性弱体付与っての」
「ひどい効果ですね」
ひどいと言いながら嬉しそう。
「『大王結石』っていうレア素材持ってったら、コルム兄の師匠が作ってくれたんだよ。これはお任せだった」
「だ、『大王結石』? 大王クラーケンの分泌物だという?」
「そうそう。さすがは宮廷魔道士、よく知ってるね。魚人の女王にもらったんだ」
「ははあ、道は険しい」
「何の道だ。険しい道は舗装しろ」
まったく研究者っていう人種は度し難いな。
「これも面白いよ。『あやかし鏡』。行動回数一回追加っていうヤバい効果があるんだ」
「ほう、一ターンに二回攻撃機会ができるんですね?」
「うん。これはコルム兄も作れるカードだよ」
「レア素材『バロールアイ』をお持ちいただけたら、五〇〇ゴールドでお作りしますよ」
「ううむ、『バロールアイ』ですか。難易度が高いですね」
「[騎]っていう、高効率パワーカードがあるよ。すごく効果が大きい代わりに、[騎]のカードは一人一枚しか装備できないっていう制限があるんだ。うちのパーティーでは『四不像』『キントーン』『ニンバス』『チャリオット』の四枚を持ってて、皆が一枚ずつ装備してる」
コルム兄が興味深げだ。
「『キントーン』と『チャリオット』というのは知らないな」
「『キントーン』はクエストのお宝で出たやつ。『チャリオット』はゼンさんが貸しを返してくれた一枚だよ」
「ああ、あの時の!」
「何やらいわくがあるんですね?」
「ドラマだねえ。かつて困窮していた人に二枚のパワーカードをあげました。その人は立派な職人になり、オリジナルのすごいパワーカードを作って返してくれたのです」
ゼンさんはもう一枚返してくれる気でいるらしい。
正直どうでもいいんだが、ゼンさんのやる気を削ぐのもよろしくないからな。
楽しみは楽しみなのだ。
「ユーラシアはまだまだおかしなカードを持ってるんだろう?」
「え? 何コルム兄までワクテカしてんのよ? 『るんるん』ってカードがあるよ。パーティーのドロップ・レアドロップ確率上昇っていう効果なんだ。これはコルム兄の師匠の婆ちゃんが作ったカードだって聞いた」
「効果は実感できるものですか?」
「うん。ドロップ確率何倍かになってると思う」
この手のカードは装備から外す気になれないわ。
日々の魔物退治が楽しくなるかもしれない効果だから。
「わけわかんないやつだと『ド素人』ってのがあるよ。効果はレベルが一になるってやつ」
「「は?」」
うむ、そーゆー反応になるのすごくわかる。
あたしも同じだった。
「あたしの後輩達がクエストで手に入れたカードでさ。使いこなせないからあたしに買ってくれってことで手に入れたの」
まあアトムが欲しがったから手に入れた。
調べてみたら結構使える効果だった。
「あくまで見かけ上のレベルがってことね。他のパラメーターが下がるわけではなくて」
「何の役に立つんですか?」
「一部の魔物はこっちのレベルを知ることができて、逃げるか逃げないかを判断してるみたいなんだ。具体的には『ド素人』装備してると、人形系レア魔物の逃げちゃう確率がぐんと減るから、魔宝玉狩りが捗るよ」
「ははあ、かなり奥が深いですねえ」
「深いねえ」
コルム兄も頷いている。
パワーカードの奥深さは、応用力の高いところから生まれるのだ。
応用には発想が大いに関わっている。
マーク青年も宮廷魔道士ならではの変わったアイデア出してくれないかな?
「マーク君が今日買ったカードの中に『遊歩』ってあるでしょ?」
「はい、飛行魔法内蔵のものですよね」
「それなんかつい三ヶ月くらい前に生まれたカードなんだよ。あたしが飛べるカードがあったらいいなあって言ったら、マジで作ってくれた」
とにかく思いつきなのだ。
だから皆に協力して欲しい。
「メッチャ便利だから、普段パワーカード使わなくても持ってる人いるんだ」
「ええと、飛行魔法だとレベル依存ですか?」
「うん。でも『遊歩』に組み込まれてる『ソロフライ』って魔法は、普通の『フライ』より扱い簡単みたい。レベル二〇もあれば使えるよ。せっかくだから練習してみ?」
マーク青年が『遊歩』を起動する。
……今までの誰よりも危なっかしいな。
何とか着地した。
「練習が必要ですね」
「頑張れ。不審者扱いされないようにね」
コレクション性より実用性を重視してよ。
まだまだ可能性のあるものだと思うよ。
「さ、マーク君帰ろうか。コルム兄、じゃーねー」
「もう二、三日で今月納める分のカードは完成するぞ」
「わかった、ありがとう」
転移の玉を起動し帰宅する。




