第1249話:メキスさんの見解では
村の正門を出て畑の方へ。
あ、いたいた。
「おーい、メキスさーん!」
「やあ、君か」
「こんにちはぬ!」
険の取れたいい笑顔だなー。
潜入工作兵の隊長メキスさんも、ドーラにかなり慣れてきたようだ。
「メキスさんって家族はいないの?」
「本土にはいる、が……」
ちょっとためらうような表情を見せる。
「家族の生活もあるしな。オレの隊の人員は戦死か殉職の扱いになってるはずだ。数年間は遺族年金も支給される」
「そーかー」
今更生きてるなんてことを知られない方がいいらしい。
もうちょっとあたしの影響力が大きくなれば、潜入工作部隊も帝国にいる家族に会わせてあげることが、あるいはできるかもしれない。
でも余計なお節介なんだろうな。
切ないことだ。
「メキスさんに報告しておくことと、意見聞きたいことがあるんだよ」
「何だろう? 君の報告はいつも刺激的だ」
刺激的って褒めてもらってるのかそうでないのか、判断しづらいな。
「帝国のソロモコ遠征は決定。来月草笛の月三日に三艦からなる艦隊が進発だって。司令官はツェーザル中将」
「ツェーザル中将か。難物だぞ?」
「そーだね。でっかくってビックリしたよ」
「会ったのか?」
「偶然なんだけどね。施政館へ遊びに行ったらいたんだ。多分ソロモコ遠征の件で、打ち合わせかなんかだったんじゃないかな」
「当たり前みたいに施政館へ通してもらえるようになってるんだな」
「施政館の御飯メッチャおいしいね。ドーラにも早めに米食を普及させたいって思うわ」
呆れたような目で見るな。
「帝国でヤマタノオロチが出たんだよ。退治したら褒美くれるってことになって、施政館に呼ばれて第二皇子主席執政官閣下と知り合いになった」
「ヤマタノオロチ」
だから呆れたような目で見るな。
ヤマタノオロチ出現こそ偶然だわ。
あたしが悪いわけじゃないわ。
誰だ、トラブルメーカーなんて言ってるやつは。
「まあ君だとそういうこともあるんだろう」
「あるんだよ。ツェーザル中将の人物を知れたのは収獲だった」
中将も有能な人だ。
ちょっとドーラに引っ張るのは難しいけれども。
「まーソロモコについては艦隊にお帰りいただくことが決まってるからいいんだ」
「別件があるのか?」
「うん。ラグランドで蜂起が起きちゃうんだって。メキスさんどう思う? 意見を聞きたくてさ」
「ラグランドか。蜂起が起きてもおかしくはないが、いつだ?」
「来月の半ば。その頃にはソロモコの方は終わってると思う。ちなみに蜂起があることはあたしが知らせたから、第二皇子も知ってる」
「ふむ……」
腕を組むメキスさん。
「ラグランドは食料を自給できないから、帝国本土との交易が途絶えると干上がるんじゃないかって聞いたんだ」
「間違いないな。しかし帝国本土とラグランドは持ちつ持たれつの関係にある。ラグランドは特に嗜好品に特産が多いのだ」
「とゆーことは、ラグランド蜂起が長引くと?」
「影響が大きいのはもちろんラグランド側だ。飢餓に瀕し、帝国が放置すると十中八九内戦に移行する。人口と生産力は激減する」
「帝国はどうなっちゃう?」
「物価が上がって政権への不満が高まるな。そしてラグランドの生産量が回復し、特産品が再び輸入されるようにならない限り、不満は燻り続けることになる」
主席執政官閣下と中将が深刻な表情だったのは、ラグランドの蜂起を力尽くで抑えられないからじゃない。
ラグランドの混乱が帝国に及ぼす影響を無視できない、という含みがあったのか。
さすがにメキスさんは元情報部だな。
分析が的確だ。
となれば帝国にとってもラグランドにとっても、事態は早く片付いた方がいい。
「しかしラグランドはドーラに全く関係はないだろう?」
「でもお得意さんである帝国の景気がいいか悪いかは、ドーラの発展に直結しちゃうから」
第二皇子の主席執政官としてのお手並み拝見ってことになりそう。
うまく処理できれば景気については問題なく、ドーラの商売は安泰だ。
ただ第二皇子もまた地位が安泰で皇帝になってしまうのか?
処理をしくじればプリンスが皇帝になる目が大きくはなるけど、帝国の景気が悪くなる上ラグランドで人死にが出まくって、あたしの寝覚めが悪いということになっちゃう。
どっちにしてもうまくないな。
「うーん、ラグランドについては考えてもムダだな。ドーラ人何にもできない」
「まあ最終的には税率を下げなければ収まらないんじゃないか?」
「でも税率下げるなんて言い出すと、帝国の威信に傷がつくんでしょ?」
「そうだな。他の海外植民地の独立運動を助長しかねない」
「ええ? すげえ難しいなー」
結構悩める状況だぞ?
どーすんだろ?
あたしの知ったこっちゃないが。
「もう一つ。第一皇子の息子のリキニウス殿下っていう子が、次期皇帝争いのダークホースになるんじゃないかって聞いたんだけど、メキスさんどう思う?」
途端に苦笑するメキスさん。
笑っちゃうくらいの対象なんだ?
「リキニウス殿下の外祖父オーベルシュタット公爵家の当代グレゴール様は、一言で言えば目の前のエサにすぐ飛びつく粗忽者だ」
「ひどい言い草だなあ」
ババドーン男爵よりもひどくない?
とんでもないやつでも公爵だから許されてるってことかな?
「リキニウス殿下は祖父と似つかぬ、子犬のような愛らしさだぞ」
「子犬じゃ国が治まらないじゃん」
「そういうことだ」
メキスさんの横顔が皮肉に歪む。
まー一〇歳にもなってないってことだったか。
年齢が年齢だからな?
本人の意思なんかなきに等しく、周りの思惑で動かされちゃう存在だ。
リキニウス殿下を動かすと思われるグレゴールという公爵は、メキスさんによれば粗忽者という評価、か。
とゆーことは?
「つまりダークホースではあっても、それ以上でも以下でもないってことだね?」
「ああ。ドミティウス殿下の認識も同じだろう。陛下が皇太孫に指名するということがなければ、状況に変わりはない」
次期皇帝レースの撹乱要因ではあるけれども、本命にはなり得ない存在か。
グレゴール公爵のゴリ押しに注意は必要だが?
「うん、大体わかった。すげー参考になったよ。ありがとう!」
「ああ、また面白いことあったら聞かせてくれよ」
「じゃーねー」
「バイバイぬ!」
転移の玉を起動し帰宅する。




