第1247話:亡き第一皇子の息子
「美少女精霊使いユーラシア参上!」
「御主人!」
「よーし、ヴィルいい子!」
飛びついてきたヴィルをぎゅっとしてやる。
公爵フリードリヒさんの領地パッフェルから帰還後、行政府にやって来たのだ。
プリンスがソワソワしている。
「お待ちかねのパウリーネさんからの手紙だよ」
「ありがとう!」
「で、こっちが『パウリーネ』」
「「「「「え?」」」」」
わからんといった顔をする一同。
紹介のために持ってきた苗を見せる。
「公爵領で作ってるイチゴの品種なんだって。名前からして相当な自信作に違いないから、ドーラでも増やすんだ」
ドーラに少ない甘いフルーツを手に入れることができたのは本当に嬉しい。
クララに聞いたら、イチゴは生育環境さえ良ければにゅっと伸びる茎でどんどん増やすことができるそうな。
カカシ管理下で増やして、ドーラ中に普及させるべし。
「じゃーん! 盾の魔法のスキルスクロールだよ。アドルフ、開いてみて」
「ロドルフだというのに。こうか?」
スクロールから魔力が立ち上る。
「こ、これで俺も魔法使いなのか?」
「そういうことだねえ。『ファストシールド』って唱えてみて?」
「ファストシールド!」
大声出すんじゃないよ。
魔法使いになれて嬉しいのはわかるから。
「ふーん、ぶよぶよする。衝撃を吸収するっぽい。あ、効果切れた」
硬い壁みたいなもんで攻撃を防ぐのかと思ったら、やわこいじゃないか。
盾の魔法っていう言葉の響きとは違ったイメージだが?
「今度軽く攻撃してみるよ。もう一度唱えてくれる?」
「ファストシールド!」
軽く蹴ってみると……。
「ガターン!」
アドルフが勢いよく壁まですっ飛んでぶつかった。
あれえ?
「蹴る力が強過ぎたんじゃないのかい?」
「どーも最近力加減がよくわからないんだよね」
「壁が壊れるから練習してくれ」
「そーする」
壁より心配されてないアドルフが笑える。
どうなったかな?
蘇生薬いる?
「……痛くない」
「えっ?」
「何ともないんだ。これはすごい!」
衝撃を受けると飛ばされるけど、ダメージは受けないってことか。
魔法攻撃を受けても一緒なんだろう。
これはまるで……。
「人形系魔物のダメージ無効化に似てるな」
「あたしも思った」
ペペさんは人形系を参考にこの魔法を作ったのかもしれないな。
満足げな表情のプリンスが言う。
「有用な魔法であることは間違いないね。貿易商に紹介はしておくから、量産できるようになったら教えてくれるかな?」
「うん、わかった」
水魔法のスクロールを異世界に外注してることを知ってるパラキアスさんが、どうするんだって目で見てくる。
当然ドーラで量産しようとしてるんだってばよ。
目指せ生産力増強!
いや、あんまりドーラがスキルスクロール生産力を持つところを見せつけるのも、帝国に警戒されるかもしれないからよろしくないんだったか?
じゃあ生産力自体は二〇〇〇本分しかないけど、水魔法何本盾の魔法何本って具合に振り分けられるよ、って貿易商には説明した方がいいか。
パラキアスさんが聞いてくる。
「帝国情勢はどうなってる?」
「国内は変わったことない。ラグランド蜂起については主席執政官閣下に話してきたよ。ソロモコ遠征について一般の報道はされてないね」
「成功してから周知させるつもりなのだろうな」
「偶然だけど、施政館でツェーザル中将に会えたんだ」
「どう思った?」
「メッチャデカい人だなーと思った」
プリンスクリークさんマックスさんが頷いてる。
「で、中将がソロモコ遠征の司令官なのは確定だよ」
「ソロモコは問題ないんだな?」
「問題ないねえ。中将は一筋縄でいかない軍人ではあるけど、結局退却するしか道がないから」
あたしの言うことを聞くのは面白くないだろうけど、他に選択肢がないのだ。
気持よくお帰りいただくために、中将にはお土産を用意してやろう。
「帝国の軍事行動とは関係ないんだけどさ。今日フリードリヒ公爵が変なこと言ってたんだよ。不確実な情報だが、次期皇帝候補にダークホースが名乗りを上げるかもしれないって。どういうことだか、心当たりない?」
次期皇帝有力候補と言えば、皇位継承権一位のセウェルス皇子、二位で現皇妃系のフロリアヌス皇子、主席執政官として政権を仕切るドミティウス皇子、それとプリンスルキウスだというのが巷の下馬評なのだ。
いや他にも皇子皇女はいるだろうけど、皇位継承権からしても実務能力からしても、この四人を脅かす候補なんているのかな?
プリンスが難しい顔をして言う。
「……おそらく、リキニウスのことを指しているのだと思う」
「えっ、誰?」
パラキアスさんもクリークさんも、ああみたいな顔してる。
マジで誰?
「予の甥になる。亡きガレリウス兄上の子だ。まだ一〇歳にならないはず」
ははあ、生前皇位継承権一位だった第一皇子の息子か。
実績なんかあるわきゃないけど、波乱要因ではあるな。
「リキニウス殿下の皇位継承順位って上の方なの?」
「仮に亡きガレリウス殿下が単に皇位継承権一位の皇子でなく正式な皇太子であったなら、リキニウス殿下の皇位継承権は一位となる。実際にそんな事実はないはずだが」
でっち上げてくる可能性があるってことか。
「ガレリウス兄上の妃は三公爵家の一つ、オーベルシュタット公爵家の出なんだ」
「実家の勢力をバックに、リキニウス殿下を押し立ててくることは大いにあり得るな」
「ふーん、迷惑だなあ」
幼弱な皇帝ならそれはそれで得する人も多いってことか。
でも国が乱れる元なんじゃないの?
帝国が動揺するのはドーラにとって得にならん。
「これもしリキニウス殿下が皇帝になると、第二皇子の立場はどうなるの? 摂政か主席執政官としてナンバーツーの地位をキープできるの? 親リキニウス派に弾き出されるの?」
「重要だな。こっちでも調べさせるが、ユーラシアもチェックしといてくれ」
「オーケー」
リキニウス~第二皇子のラインが盤石なら、プリンスの割り込む余地がなくなっちゃう。
ならば対立してくれてた方が都合はいいが?
「明日ヘルムート君がガータンに着くと思うから、パウリーネさん宛ての手紙あったら明後日持っていくよ」
「うん、よろしく」
「じゃあ、今日は帰るね」
「バイバイぬ!」
転移の玉を起動して帰宅する。




