第1234話:事実の裏側
「ごちそーさまっ! おいしかった!」
大変満足でござる。
定食はパンより米の方が美味いな。
ぜひドーラでも米食を普及させねばならん。
「施政館のシェフは腕がいいだろう?」
「施政館にも専属の料理人がいるんだ?」
「常時一〇人いるね」
一〇人もいるのか。
施政館で御飯食べる人の人数なんて知れてるだろうにな。
帝国にはやっぱりおゼゼがあるなあ。
主席執政官閣下が言う。
「ここはカル帝国の中枢だからね。滅多な者には食事を任せられない」
うむ、それでも毒盛られちゃったわけだが。
閣下も二度とこんなことを許すつもりはないだろうから、徹底した管理を行うに違いない。
ウルピウス殿下が言う。
「来客が来た時に毒を入れろと指示されていたんだろうか?」
「あり得るね」
信用のある施政館の職員と、ふいっと遊びに来たあたし達。
どちらが毒盛ったかって話になれば、疑われるのはあたし達に決まってる。
その辺の調査は閣下配下の者によって行われるのだろうが。
閣下が柔らかな笑顔を見せる。
「今日は助かったよ」
「おいしいお昼を食べさせてもらったからいいんだぞ? 帝国にサービスするのは、ドーラを売り込みたいあたしの役割でもあるし」
「ユーラシア君、ウルピウス」
何だろ?
一転して張りつめた雰囲気になった。
まだシリアスシーンが続くみたいだな。
背中がかゆくなっちゃうから苦手なんだけど。
「先日カレンシー皇妃殿下の呪殺未遂事件があっただろう? 裏で糸を引いていた者の名を知りたくはないか?」
「兄上、犯人が判明したのか?」
「セウェルスだ。証拠は出せないが間違いない」
皇位継承権一位の第三皇子?
閣下ったら衝撃の事実をぶっ込んでキター!
「……セウェルス兄上が?」
「信じられないかも知れないが本当だ。予も証拠のないことを言うつもりはなかったが、今日の礼代わりだ」
「閣下、ありがとう」
「ユーラシア、本当だと思うか?」
「多分。少なくとも閣下自身は真実だと考えてることを話してくれてる」
閣下の様子から本気だとゆーことくらいはわかる。
公表されていない皇妃様呪殺未遂事件に関して、施政館が皇宮以上の捜査をしたとは考えられない。
大体現場見て証拠物件持ってた近衛兵長や宮廷魔道士長から何も出てこないんだぞ?
まともな情報源じゃないに決まってる。
……つまり現在閣下の側にいる高位魔族が、何かを掴んで知らせたんだろう。
「今日は帰るね。じゃねー」
「兄上、さらばだ」
施政館を後にする。
◇
「ユーラシア、どう思う?」
『ケーニッヒバウム』へ向かう途中、眉根を寄せるウ殿下。
供も連れず二人だけだと案外気付かれないからか、誰も寄ってこないな。
「施政館の食事は大変結構だね。材料の質と料理人の腕が両方ともいいんだと思う」
「そうでなくてだな」
「まー殿下の顰めっ顔があたしとのデートに相応しいとは思わない」
「ハハッ、すまんな」
表情が柔らかくなるウ殿下。
「先ほど兄上が言ったことだが」
「うん。重要ではあるね」
第三皇子が皇妃様を狙ったとはね。
わからんではない。
次期皇帝レースにおいて第三皇子の推しポイントになるのは、正直皇位継承順位の正統性だけだ。
皇位継承権二位三位で、現在の皇妃系皇子であるフロリアヌス殿下とウルピウス殿下の地位を低下させたい。
だから皇妃様が邪魔だったという理屈はわかる。
「どうすべきだろう?」
「放っときなよ」
「うむ。ユーラシアならそう言うだろうとは思ったが……」
頭に血が上ってるかな?
クールダウンさせとくか。
「ちなみに殿下はどうしたいの?」
周りを注意深く見渡しながらウ殿下が言う。
「……予にも理解はできるのだ。証拠がないのであれば、セウェルス兄上を追及することはできぬ。ならば放っておけという、ユーラシアの言い分が」
「殿下はあたしの心がわかってるなあ」
「となれば再び攻撃を食わないよう、警戒しておくくらいしかないではないか」
「かーんぺき。バッチリだよ。知らんぷりして注意だけしとけばいいの」
納得いきませんか?
ならばもう少し……。
「殿下はさ、主席執政官閣下が何で今頃事件の黒幕教えてくれたかわかってる?」
「えっ?」
「水面下で次期皇帝を巡る争いがあるじゃん。前皇妃系と現皇妃系の、高い皇位継承権保持者同士で揉めてろってことだぞ?」
「!」
だから物の怪を見るような目を向けんな。
「閣下は大したもんだよなー。自分が毒殺されそうになってるのに、こっちにも心理戦仕掛けてくるんだもんな。殿下もああいう抜け目ないとこ見習った方がいいと思うよ」
「……」
「巷では皇位継承権一位で前皇妃系のセウェルス皇子、現政権を牛耳ってるドミティウス皇子、皇位継承権二位で現皇妃系のフロリアヌス皇子、手堅い政治手腕を示していてこの前のお葬式で存在感を見せつけたルキウス皇子が、次の皇帝の有力候補と見られてるんだってよ。閣下の認識も同じようなもんだと思う」
「……セウェルス兄上とフロリアヌス兄上が潰し合えば、ドミティウス兄上は至尊の位に近付くのか」
「そゆこと」
少しは頭が冷えましたか?
呪術なんて怪しい手段を使ってまで仕掛けてくるってことは、完全にセウェルス第三皇子殿下は次の皇帝になる気でいるじゃん?
フロリアヌス殿下が皇位に色気があるのかは知らんけど。
「昨日ゼムリヤ行った時に、メルヒオールさんに聞いたんだ。ラグランド蜂起に対して閣下はどういう対応取るかなって。そしたら皇帝候補の誰か、おそらくセウェルス皇子を特使として派遣するだろうって言ってたよ。フロリアヌス皇子は騎士団の、プリンスルキウスには在ドーラ大使の仕事があるから」
ソロモコ遠征があるので、ラグランドに艦隊は出せないだろうということも伝える。
「ツェーザル中将はソロモコか。情勢はかなり動いているんだな……」
「面白いよねえ。殿下は特等席に近いところで楽しめていいなあ」
「笑い事ではないんだが」
「そお?」
ウ殿下はもう次期辺境侯爵と見られてるから、安全地帯にいるのにな。
次期皇帝候補達が次期辺境侯爵を敵に回そうとするわけがない。
高みの見物が許される立場なのだ。
「感情的になるのもよろしくないから、黒幕については黙ってりゃいいと思うよ。閣下から有益な情報もらった、くらいの気持でいなよ」
「うむ、わかった」




