第1233話:毒
主席執政官閣下が聞いてくる。
「ところで新聞記者達は来てないのかい?」
「今日はドーラのファッションを紹介しに来たんだ。さっきまで記者さん達一緒だったんだけど、『ケーニッヒバウム』に置いてきた」
ラグランド蜂起まだこれからのことだ。
第二皇子閣下と中将が深刻な顔になっちゃうくらいの内容だから、連れてこなかったんだってばよ。
どんな話が飛び出るか予想できなかったもんな。
「ならばウルピウスがいるのは?」
「デート?」
「うむ、そうだな」
「ユーラシア君はメルヒオール殿の跡継ぎにウルピウスを考えてたようだが、ウルピウスはその件について知っているのかい?」
閣下はぶっ込んでくるなあ。
情報を握って叩きつけてくるのが閣下の得意なやり方みたい。
思わずウ殿下と顔を見合わせる。
「知っている。爺上に打診はされた。もっとも正式な話ではなく、今後どうなるかわからんが」
「昨日ゼムリヤ行ったら、今年の輸出入どうするかっていうガリア王国との折衝に付き合わされたんだ。ゼムリヤ側はザムエルっていう、メルヒオールのじっちゃんの弟の子を立てて交渉してたよ。ナンバーツーとして育てるつもりなんだと思う。じっちゃんの頭の中では、ウ殿下を辺境侯爵にという考えがかなり固まってるんじゃないかな」
「ハハッ、ユーラシア君は当たり前みたいにあちこちに影響力を発揮してるんだなあ」
澄ました顔の閣下に聞いてみる。
「皇族が辺境侯爵を継ぐって、難しいことじゃないんだ?」
一度聞いておきたかったことだ。
カル帝国は実にちゃんとした国だから、無法な爵位の継承を認めない特別な仕組みがあるんじゃないかな?
「もちろん法律上簡単ではないが、主席執政官たる予と封爵大臣が認め、陛下の裁可があれば可能だよ」
「なるほど、権限のある人の許可か」
「次のゼムリヤの領主が誰かというのは、実は政権内部でも頭の痛い問題だったんだ。重要な地であるのは間違いないし、ゼムリヤは遠いから、メルヒオール殿の意向も不透明だったしね」
「わかる。ゼムリヤの領主は盆暗じゃ務まらんわ」
「正直ウルピウスならばと安堵してる。帝都で反対する者はいないと思うよ。ユーラシア君には感謝している」
じゃ、次期辺境侯爵はウ殿下で決まったようなもんだな。
ウ殿下も嬉しそう。
「失礼いたします」
やったぜ、御飯来た!
秘書官らしきお姉さんが給仕してくれる。
らいすと煮たお肉、目玉焼き、サラダ、スープ、柑橘のジュースか。
食器の数が多いけど、帝都の料理はこうなんかな?
しかし……。
「うーん、お姉さん、何か言うことない?」
ギクッとする給仕のお姉さん。
とぼけたってわかるとゆーのに。
あたしの危険感知センサーをバカにすんな。
「な、何のことでしょうか?」
「さっさと全てを白状せい。お上にもお慈悲はあるのじゃぞ」
「その口調はエンターテインメントなのか?」
「エンターテインメントではあるけど、今はちょっとシリアスな場面なの」
「お、恐れ入りました」
這いつくばるお姉さん。
わけがわかってなさそうな主席執政官閣下とウ殿下。
「閣下のジュースの中に混ぜ物が入ってる。毒だと思う」
「えっ、まさか……」
「女! その方兄上に何をする!」
「大声出さない。お姉さんは脅されてるだけだぞ?」
閣下が厳しい目付きでお姉さんを見つめる。
「サマンサ。毒というのは本当か?」
「は、はい。毒だと言われました」
「どういうことだ? 説明しなさい」
「ど、ドミティウス様。申し訳ありません。娘を人質にとられ、ドミティウス様の食事に毒を盛れと命令されました。いかんともしがたく……」
「誰に命令されたの? 毒はどこから手に入れた? 全部話して」
新しい出入りの業者かららしい。
ふーん、偉い人ともなると恨まれることもあるんだなあ。
「その人のバックはわからない?」
「『ミリオンマート』グループの者です。個人なのか『ミリオンマート』が関わっているのかは何とも……」
「卑劣な!」
「泳がせよう。黒幕とっ捕まえないと」
チラッと閣下を見たら同じ気持ちのようだ。
必ずしも単独犯とは考えていない。
マジで組織的に地味攻撃かけてくるんだとするとやり切れんなあ。
「サマンサ、君には悪いようにはしないから協力してくれ」
「は、はい。もちろんです」
「時間を稼ごう。今日は閣下がジュースを飲まずにハーブティー欲しがったってことにしといてね」
「君には監視をつけるが、悪く思わないでくれ。接触した人間を割り出し、数日中に悪党どもを捕らえてくれる」
「お姉さんの態度が怪しいと、娘さん殺されちゃうぞ? 素振りに出さないようにね」
コクコク頷くお姉さんが部屋を出て行く。
またねー。
「それはそうと、お腹減っちゃった。食べていいかな? お預けを食らってお腹が不平を鳴らしております」
呆れるウ殿下。
「ユーラシアはよく食べる気になるものだ」
「何言ってんの。食べなきゃ食べないで疑われるだろーが。大丈夫だよ、他の食べ物に怪しいところないから」
「見ただけで毒物がわかるものなのかい?」
そーゆーことじゃないんだが。
「毒はわかんないけど、レベルが上がると不自然な部分とか悪意とかがわかるんだよ。でなきゃ冒険者なんてやってられないじゃん?」
「注意力が磨かれるということか」
「うん」
もっともあたしは『閃き』の固有能力持ちだから、微妙な何かを察する感覚が普通の冒険者よりは鋭いかもしれない。
ウ殿下だって閣下から見ると結構なレベルだが、まるでわからんみたいな顔してるし。
「閣下にこれあげるよ」
『ホワイトベーシック』のパワーカードを渡す。
「この前の『ウォームプレート』に似ているね」
「発動の基本的な仕組みは一緒だよ。装備すると回復魔法と治癒魔法が使えるから、毒くらいならへーき」
「ほう? 素晴らしいものがドーラにはあるな。高価なのかい?」
「一五〇〇ゴールドだよ」
「理解しがたい安値だ……」
「ユーラシア。予にも一枚くれ」
「ウ殿下も? しょうがないなー」
西域の自由開拓民集落に配ろうかと思ってたストックなのにな。
まあいいか。
帝国の実力者に配っとくのは貸しにもなるし、『ホワイトベーシック』を帝国に輸出することができるようになるかもしれない。
いよいよパワーカード職人が足らんな。
「いただきまーす!」




