第1215話:魔王島の事情は?
――――――――――二〇六日目。
『パラキアスだ。ユーラシアだな?』
翌日、朝からヴィルで連絡を取る。
「そうそう、聖女になり損ねて勇士になっちゃったあたし。早い時間にごめんね」
『どうした。緊急の事件か?』
「でもないんだけど、伝えときたいことができたの。昨日あの後、本の世界のマスターのとこ行ったんだ」
『『全てを知る者』か』
デス爺やパラキアスさんはそう言うけど、アリスは可愛い金髪人形だよ。
「帝国のことで。来月三日に三艦からなる艦隊が進発の予定。遠征先はソロモコだって」
『やはりソロモコか。君に任せていいんだな?』
「うん。任せて』
予定通りだから。
問題はその先だ。
「もう一つ、気になることを聞いたんだ」
『気になること?』
「カル帝国の海外植民地ラグランドが、圧政に耐えかねて蜂起する。これまだ日は決まってないけど、来月の半ばだって」
『……ラグランドの蜂起か。想定外ではないが、時期がよくないな』
「よろしくないねえ」
おそらくソロモコへ派遣した艦隊が戻るか戻らないかの内に蜂起だ。
あるいは艦隊が出撃するという情報が入ったから決起するのかもしれない。
世界の事件って絡み合ってるんだなあ。
不要不急の遠征軍を派遣している最中に植民地で蜂起という状況は、主席執政官第二皇子の不手際を糾弾しやすいだろう。
プリンスルキウスを押し上げるとゆー面ではプラスになり得る。
でも帝国自体が混乱すると、移民や貿易で関係の深いドーラが割を食いそうだしな?
難しい局面になっちゃう。
「やっぱ帝国はラグランド鎮圧に手間取りそうなの?」
『時間はかかるだろうが、手間取りはしない』
「そーなんだ?」
『ラグランドは重税に苦しむ地だ。主要産業は商品作物の栽培にシフトしていて、穀物は帝国本土から輸入している。蜂起するからにはある程度の食料は確保してあるんだろうが、食料庫を急襲されればすぐ飢える。飢えたところに総攻撃が定石だな』
ドーラを相手にするのと違って、帝国にとっては勝ちパターンが見えている地なのか。
だから税率を高くできるのかも。
『ソロモコでは君が軽くあしらうんだろう?』
「うん。艦隊様には丁重にお帰りいただく」
『となるとおそらく帝国内部では、軍事に対して穏健派慎重派の意見が強くなる』
そこまではわかる。
パラキアスさんが声のトーンを低めつつ続ける。
『ラグランドに対しては、大規模な鎮圧行動は起こせないんじゃないか? 食料庫と収穫間際の小麦畑を焼いて放置。これをやられると、ラグランドは本当に凄惨なことになる』
「餓死者が一杯出ちゃう?」
『餓死者もだが、内部で分裂するだろう。ラグランド人同士で徹底抗戦派と降伏派に分かれて殺し合いだ』
「可哀そうだなー」
パラキアスさんの推察はまず当たるから、放っとけばラグランドはしっちゃかめっちゃかだ。
マジで人死にが出るくらいならドーラに来て欲しい。
こっちは人手が足りないのに。
でもラグランドの件こそドーラに全く関係ないから、手出し口出しできないよな。
余計なことして帝国に睨まれたら大変だ。
『ユーラシア。主席執政官ドミティウス殿下にラグランド蜂起の件を、前もって伝えておくことはできないか?』
「できるよ」
『ラグランドについて我々のできることは何もない。しかし事前に帝国政府が情報を持っているなら、少しはマシな未来になるかも知れない』
まーパラキアスさんの本音は、ラグランドに憐憫の情を催してるわけじゃない。
第二皇子に貸しを作り、さらに状況を大きく混乱させずドーラに被害が及ばないようにしろってことだろうけど。
「オーケー、わかった」
『ではまた。昼食を食べたくなったら来てくれ』
「アハハ、そーする。パラキアスさん、またね。ヴィル、ありがとう。今度はフクちゃんと連絡取ってくれる?」
『わかったぬ!』
しばしの後にフクちゃんと繋がる。
『こちらゾラスですホー』
「フクちゃん、おっはよー」
フクちゃんはとげとげしいところがないので話しやすいな。
「帝国海軍の遠征先が決まった。残念ながらソロモコだって」
『やはりですか』
緊張感が伝わってくる。
「来月三日に三艦からなる艦隊がタムポートを出るよ。艦隊がソロモコから見えたら、ヴィルを通じてあたしに知らせてね」
『了解ですホー。あの、大丈夫でしょうか?』
「ん? 心配しなくても平気だぞ。司令官のツェーザル中将は、話せばわかるタイプの人みたいだからね」
説得できるならさして問題はないのだ。
ウィンウィンの関係でお引き取りいただけばいい。
「ところでフクちゃんって、ソロモコの住民と意思の疎通できる?」
『細かいことはムリですホー』
「じゃあ一度あたしが行って、住民には注意喚起した方がいいな。直前でもいいか。どこかでソロモコ行くから、その時フクちゃんも姿現してよ。救世主と神の使いが両方いれば説得力が増すから」
『わかりましたホー』
ソロモコについてはこれでよし。
「話変わるけど、魔王の召集がかかったんだって? ウシ子に聞いたんだけど」
『ウシ子? ああ、ザガムムですね。そうなんですホー。魔王島の魔物退治らしいです』
「あ、現場は魔王島なんだ。何で魔王は魔物退治くらいで配下を呼び集めようとしてるのかな? 詳しいこと知ってる?」
『いえ、ボクはソロモコで尊敬の感情を集めることに専任ですので、参加しないのですホー。連絡が来ただけで』
「だよねえ」
フクちゃんの仕事ほど魔王にとって重要なものはないだろうから、当然だな。
しかし魔王島の状況がわからん。
やっぱりソル君の魔王クエストの完了条件がこれか?
とするとかなりとんでもない魔物が出る?
『魔王島は魔力濃度の高い島なのですホー。ですからレベルの高い魔物が湧いたということなのだと思います』
「なるほど?」
バアルが魔王島には凄草の群生地があると言っていた。
魔力濃度が高いのは納得だ。
魔王の手に余るほどの魔物が出現してるから、配下の高位魔族の手も借りて駆逐しようとしているのか。
近い内にソル君に会って事情を聞きたいが。
「うん、フクちゃんありがとう。またね」
『いえいえ、こちらこそよろしくお願いしますですホー』
「ヴィルもありがとう。魔境のオニオンさんのところ行っててくれる?」
『わかったぬ!』




