第1202話:カル帝国騎士爵及び特級勇士勲章
「こんにちはー」
「ユーラシア君、いらっしゃい」
執政官室に入ると、主席執政官たる第二皇子殿下が迎えてくれる。
殿下だと誰が誰やらわからんから、閣下って呼ぶか。
機嫌良さそう。
「デニス封爵大臣を呼びにやっているところだ。少し待っててね」
「あたしの知ってる帝国の偉い人は、皆人当たりがいいんだよ。閣下もそうだけど、フリードリヒ公爵もメルヒオール辺境侯爵も。リリーもウルピウス殿下もプリンスルキウスも。えらそーにしてる皇族貴族はいないの?」
新聞記者が言う。
「とんでもないです。私どもが近付いていくと、まず例外なく怒鳴り散らされます」
「塵芥扱いですよ」
「マジか。そーゆー経験もしてみたいけど、会ってメリットにならないよーな人に会うのはムダだな」
「さほど偉くないやつほど威張るんだ」
アハハと笑い合ってるところに封爵大臣入室。
「こんにちはー。お邪魔してますよ」
「これはユーラシア殿。先日は結構なものをいただきまして。大変重宝しております」
「『ウォームプレート』? いいでしょ」
「素晴らしいですな。私の周りでも手に入れることのできた者は少なく、鼻高々です」
「ちなみに『ウォームプレート』って、こっちでは小売価格いくらなの?」
「六〇〇〇ゴールドです」
「あ、結構高いんだな」
主席執政官が聞いてくる。
「ドーラではいくらなんだい?」
「一五〇〇ゴールドだよ。ただドーラは暖かいし、『ウォームプレート』も知名度ないから、生産したほぼ全量を輸出してるんだ」
「そうだったのか」
「輸出品だからしょうがないけど、海渡ると高くなっちゃうなー」
行政府が五〇〇ゴールド乗せて、貿易商と小売りが二〇〇〇ゴールドずつ乗せると六〇〇〇ゴールドにはなっちゃうか。
富裕層向けの商品だしな。
致し方なし。
にも拘らず売り切れちゃうほど人気がある商品と思えばいいや。
「夏向けの『クールプレート』ってのもあるからよろしくね」
「ハハッ、商売はそこまでにして、形式だけすませていいかな?」
「お願いしまーす」
封爵大臣がすまなそうにする。
「本来でしたらユーラシア殿の功に報いるためには叙勲式を行うべきなのでしょうが、新騎士爵一人に対して式を行ったという例がこれまでにないのです」
「いいよ。おゼゼと時間のムダだよ」
騎士が見習いから正隊員になる時なんかは複数だから、叙勲式をやるんだな?
晴れの舞台だね。
「では、カル帝国騎士爵及び特級勇士勲章を叙す。ユーラシア・ライム殿」
「ありがとう」
免状みたいなのをもらった。
うーん?
「どうしたんだい? 不満そうだが」
「特級聖女勲章にならないかなーと思って。特級勇士勲章だとモテなくなりそう」
笑い過ぎだろ。
第二皇子が聞いてくる。
「ところでユーラシア君は、メルヒオール殿とも面識があるのかい?」
「つい半月くらい前に『雪の精霊』ってクエストをもらったんだよ」
「ほう、『雪の精霊』。御伽話みたいだ」
「そのクエストに行ってみたらメッチャ吹雪いててさ。どこだかわかんなかったんだけど、山小屋で知り合ったじっちゃんがたまたまメルヒオールさんだったの」
「ええ? 驚きの展開だな」
と言われても事実だから仕方がない。
自然に偉い人と知り合いになっちゃうウルトラチャーミングビューティー補正。
「見たとこかなりのレベルの人だったから、有力者なんだろうなとは思ってたんだよ。招待してくれるって言うんでのこのこついて行ったら宮殿だった」
「『アトラスの冒険者』とは面白いものですねえ」
『アトラスの冒険者』が面白くてありがたいのは確かだな。
封爵大臣は感心してるが、第二皇子は違うことを考えてたようだ。
「メルヒオール殿は何か言ってたかい?」
「俺の後継者を誰にすべきだと思う? って聞かれた」
「「「「!」」」」
驚愕する封爵大臣と記者トリオ。
頷く第二皇子。
これくらいの情報はサービスしてやっても構わん。
秘密じゃないしな、先行投資で話題を提供してやる。
「うん、ユーラシア君には相談したくなるオーラがある。で、何と答えた?」
「ウルピウス殿下にすりゃいいって言ったった」
「ウルピウス? 意外だな。フロリアヌスじゃなくてウルピウスを推すのは何故だ? 君と仲がいい以外の理由があるのか?」
「今から失礼なこと言うけど、ドーラ人の戯言だと思って聞き流してくれる?」
「ああ、わかった」
客観的な意見だとは思う。
ただ今上陛下死去後のことだから、不謹慎に思われるかもしれないのだ。
一応予防線張っとく。
封爵大臣や記者トリオの方が真剣なのな。
「フロリアヌス殿下は次期皇帝の有力候補の一人なんでしょ? フロリアヌス殿下の思惑がどうであれ、一度そういう目で見られちゃった人が帝国一の大貴族ってのは、帝国のためにもゼムリヤのためにもなんない」
「なるほど、ユーラシア君の視点は細やかだな」
「だからフロリアヌス殿下よりウルピウス殿下を推す……」
封爵大臣の目が鋭くなる。
記者トリオはわかってないみたいだけど、別にいいよ。
これは記事にできないことだから。
「試みに問う。ユーラシア君自身はどう思う?」
「目の前の人の主席執政官の椅子が玉座に変わるだけだと思うよ」
ハッキリ言いなよ。
次の皇帝が誰だと思うって。
緊張感の漂う執政官室。
「セウェルス殿下じゃ国が治まんないんでしょ? 封爵大臣さん」
「えっ? そ、それはまあ」
ビクビクしてるんじゃないよ。
いくらセウェルス第三皇子殿下の皇位継承権一位だからって、支持なし実績なし能力なしじゃ皇帝なんて務まんないんだわ。
「陛下が亡くなるのが五年後だったら、フロリアヌス殿下の目はあったかもね」
「全く同意見だな。ルキウスは?」
「主席執政官閣下が転げ落ちるとプリンスルキウスが皇帝だよ」
「……予は転げ落ちなどしない」
「だといいね」
「……」
好き勝手言ったった。
第二皇子が初めて怒りの感情を見せる。
「怒んないでよ。ドーラ人の戯言だってば」
「……そうだったな」
まー帝国内じゃ主席執政官閣下に言いたい放題の人間なんかいないだろ。
貴重な意見を聞いたと思えないくらいの器量なら、これまた帝国の皇帝なんて務まらんわ。
さて、今日の用は終わったな。
「じゃ、さよならー」
「「「失礼いたします!」」」
施政館を後にする。
『ケーニッヒバウム』に行くか。




