第1200話:パーフェクトヒューマン
「サイナスさん、こんばんはー」
『ああ、こんばんは』
夕食後に毎晩恒例のヴィル通信だ。
「今日ねえ、ほろ苦いイベントがあったの」
『ユーラシアがそう言うってことは失恋イベントだな?』
「半分合ってる」
相性はいいんだけどうまくいかない二人の恋物語が何たらかんたら。
「……とゆーすれ違いの人間模様なのでした。泣けちゃう泣けちゃう」
『泣けちゃうというのは誇張なんだろう?』
「何でサイナスさんはわかっちゃうのかな。エスパー?』
『うまくいかないのがわかってるなら、会わせなきゃいいじゃないか』
「もちろん説明したってばよ。でも二人とも、あたしが相性いいっていう人に会ってみたいって言うんだもん」
『物好きだな』
あたしもそー思わんでもない。
自己責任だぞ?
「男の方がレイノス近郊で一番大きい農場の跡取りで冒険者のダン。焼き肉親睦会の時に来てたから、サイナスさんも会ってるはず」
『ちょっと気安い感じの人だったかな?』
「そうそう。女の方が画集のモデルにもなってるニルエ。『強欲魔女』マルーのばっちゃんの孫娘」
『えっ、それは……』
うまくいかない原因はマルーさんだって?
ところが違うんだなー。
「ダンは発言に遠慮がないんだ。ばっちゃんに直でクソババアって言うし、あたしには可愛い美少女だいい性格してるって褒めてくれる」
『最後のは褒め言葉じゃない気がするが、直でクソババアはさすがにダメだろ』
「そーでもないの。マルーのばっちゃんは、裏がなさそうなのはありみたい。ダンを気に入ってたよ」
実際には『タフ』の固有能力を存分に生かしてる、高レベルの冒険者であること。
『オーランファーム』の跡取りという、身元がハッキリしてることがよかったんだろうけど。
『じゃあどうしてうまくいかないんだ?』
「サイナスさん知ってた? 相性ってピッタリ過ぎるとダメみたい」
若干遊びがないとくたびれちゃうらしいぞ。
カチッと嵌っちゃうと摩擦が大きくなり過ぎるってことなのかなあ?
もう一つあたしにも理由はわからんけれども。
『ははあ、完璧な面ばかり見せられるものじゃないから?』
「あたしのようなパーフェクトヒューマンはともかく、一般人は緊張が続くと苦しいみたい」
『わかる気もするな』
「あたしのセリフの前半が?」
『後半が』
アハハと笑い合う。
実はサイナスさんのお嫁さん候補も目星はつけてあるのだ。
先のことはわからんから内緒だけど。
「とゆーわけでーす。ばっちゃんは残念がってたけど、二人の結婚はやっぱり当面ない。予定通りだからダメージもない」
『めでたくもあり、めでたくもない』
仕方もない。
もっともダンとニルエはすぐにはダメだけど、会ってる内にこなれた関係になる気もする。
「昨日の話の続きだよ。公爵の子ヘルムート君は正式に男爵になった。一旦公爵領に戻って、すぐ新しい任地に行くみたい」
『うん。それで?』
「公爵も領地に戻るんだ。今日皆で出発したよ」
『えらく急だな? 我が子を助けてやろうって考えか?』
「面倒みてやりたい気があるのかもしれないな。ってのとは別に、プリンスルキウスのお相手のパウリーネさんが舞い上がっちゃってるんだよね。婚約直前であることがすぐバレると、公爵に貸し作った気でいる主席執政官に因縁つけられそう。大体第一皇子の喪中なんだから外聞が悪いでしょ」
ボチボチ農作業始まりのシーズンでもある。
また商売人たるフリードリヒ公爵が、長いこと領地を空けてられないって事情もあるんだろうが。
「五日後に領地のパッフェルってとこ到着する予定だから、六日後に行ってくる。どうも公爵があたしと話したいみたいなんだよね」
『何故だ? 君が可愛いからって理由を抜くと』
「一番重要な理由抜きだと他が色褪せるけど、表向きはあたしにお礼がしたいってことみたい』
『裏は?』
「悪魔のことを知りたいんだと思う」
普通悪魔に対する情報源なんて持ってないからな。
悪魔が重要だとわかっていれば、フリードリヒさんも宮廷魔道士なり聖火教徒なりとコンタクト取ったろうけど。
「公爵は第二皇子とバアルがドーラ侵攻を企てたことを知ってるし、あたしもヴィルとバアルを公爵に見せてるんだ。魔王の話もチラつかせた」
『ふうん。公爵に対しては随分オープンにしてるんだな?』
「まず商品を見せろ、話はそれからだってタイプの人なんだよね。出し惜しみしても得がないかな」
『ユーラシアらしくないじゃないか。情報だけ抜かれて敵方に走られちゃうとは考えないのかい?』
「考えなくはないけど。でもプリンスルキウスを娘婿とする公爵が敵に回っちゃうくらいだったら、どう頑張っても勝ち目がないんだよ」
『割り切ってるのか』
「まあね」
次期皇帝レースにおいて、第二皇子とプリンスルキウスの間には元々圧倒的な差がある。
うまくいったら儲けもの、第二皇子の支持率が下がった時の受け皿にプリンスをどうぞくらいの気持ちだ。
「脱落『アトラスの冒険者』を人材発掘に使おうって考えを前話したじゃん」
『ああ。動き始めたのか?』
「少しだけね。名簿はもらったんだ。マルーのばっちゃんとギルドの受付の人に見てもらってさ。会っておきたいかなという固有能力持ちにチェックするところまで行った」
『ふむ。どうだい?』
「四人ピックアップしたんだ。たまたまなんだけど、内一人が知ってる人だった。塔の村にいるやつで、エルを巡るアレクの恋のライバル」
『君はラブい話大好きだなあ』
大好きで何が悪いのだニヤニヤ。
「『外交官』っていう、亜人みたいな異種族とも親和性が高いっていう固有能力持ちなの。面白いでしょ?」
『ははあ。亜人との交易を始めたら都合がいいってことか』
「そうそう。楽しみが増えた」
『君の重要視してる固有能力の傾向がよくわかるな。しかしラブバトルの方も楽しみなんだろう?』
「もちろんだよ。暇な時会いに行こうかなと思ってる」
ピンクのモジャ男は後回しでもいいが。
「そんなとこかな。あ、明後日レイノス港に移民到着だって」
『明後日か。了解』
カラーズだと新聞読んでる人いないから、情報の伝達が遅いなあ。
「サイナスさん、おやすみなさい」
『ああ、おやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『わかったぬ!』
明日は帝都だな。




