第1096話:プリンスルキウスとリリーの様子
ウルピウス殿下が言う。
「今日ユーラシアは何しに来たのだ?」
「一番の目的は、昨日のお葬式どうだったかを聞きに来たんだよ。何もなかった?」
「葬儀自体は恙なく。特に問題はありませんでしたぞ」
「プリンスルキウスとリリーが帝都の人々の前に姿を現したのは久しぶりでしょ?」
ぼかした言い方だがどうだ?
要するにレベル上げしたプリンスの『威厳』の効果がどれほどあったのか。
またリリーの帰りがいつ頃になりそうかってのが知りたいのだ。
ウ殿下が言う。
「大変な盛り上がりだった。ルキウス兄上にあれほど人気があったとは知らなかったな」
さもあろう。
予定通りだ。
レベル五〇の『威厳』持ちだからな。
帝国臣民に十分な期待感を植えつけられていたならいいのだが。
「民衆の声援が最も多かったですな」
「えっ、声援? お葬式ってしめやかなものじゃないんだ?」
ドーラと常識の違いがあるみたいだな。
魔道士長さんが教えてくれる。
「皇室の信仰である汎神教パンタラッサ教会で、死は必ずしも忌むべきものではありませぬ。大騒ぎするようなものではありませんが、まあ皇族の葬儀ともなると祭りの一種ですぞ」
「そーなんだ?」
ノアもムー教会がどうのって言ってたけど、汎神教には神様ごとに何とか教会っていう宗派があるみたいだな?
で、ちょっとずつ考え方が違うのか。
お祭り好きなのはいいけれども。
……ユーラシア教会はどうなんだろ?
あたしの名前の神様のことはちょっと気になる。
「明日にはルキウス兄上のドーラ再訪が公式発表されているだろう? 今日は朝から各有力者との会談がセッティングされているはずだぞ?」
「へー、プリンスも御苦労なことだな」
「時間がなさ過ぎるため、商人や報道などの民間人は門前払いらしいですな。ドーラに押し寄せるかもしれませんぞ」
「そりゃ大変だ。丁重に歓迎しないと」
「丁重に歓迎するぬ!」
アハハと笑い合う。
といっても海越えて来るって大変なことだ。
実際に来るのは利に聡い貿易商くらい?
プリンスをプロデュースする目論見はまず成功と見た。
願わくばこれが一時のブームでなく、次期皇帝の待望論になってくれればいいが。
「リリーはどうかな?」
互いに顔を見合わすウ殿下、近衛兵長、魔道士長。
イシュトバーンさんがニヤニヤしながら言う。
「縁談殺到、ってことかい?」
「御明察」
「やっぱりなー。リリーはどうするつもりだろ?」
あんまりリリーは色恋沙汰に興味なさそうに思える。
でも皇族ともなると、どこかに嫁ぐってのも重要なお役目だろうしな?
ウ殿下が難しい顔をする。
「政治的な駆け引きや足の引っ張り合いにうんざりしてドーラに飛び出した、リリーの心情はよくわかる。しかし相手が有力者で、しかも望まれる形であるのを断るのならば、それなりの理由が必要だ。有力者を味方につけるのが、皇室出身の子女の使命ということもある」
ごもっとも。
リリー寄りのウ殿下がこういう考え方だと、リリーはドーラに帰ってこないかもしれないなあ。
寂しいことだが。
「ユーラシア!」
「あっ、リリー?」
リリーと黒服登場。
何なの、あんた忙しいんじゃないのかよ?
「どうしたの? 太い眉毛が下がってるぞ?」
「あの画集が帝国本土でも出回り始めていての。我が元気でいることが知れ渡って、縁談が引きも切らないのだ」
「何かごめん」
画集が関係していたとは。
完全に不意打ちでしたぞ。
「モテモテなのはいいことじゃん」
「相手が好みならばな?」
「あれ、イマイチなんだ?」
「ううむ、贅沢を言える立場ではないのだが」
「リリーが贅沢言わなくて誰が言うんだ」
相手を選べるのかってのはさて置いて、せっかく嫁に行くなら気に入った人の方がいいわな。
そーいやリリーの好みってどういう人だろ?
リリーの恋愛話って出たことないから興味あるな。
「ぬしが男だったらよかったのに」
「……たまに言われるな。おっぱいが奥ゆかしいせいだろーか?」
「小さいせいだぬ!」
皆で大笑い。
こらヴィル、小さいって大声でゆーな。
「しばらく帝都にいるんだ?」
「ということになるの。片付けていかんとドーラに帰れぬ」
うむ、ドーラに『帰る』と言ってくれる。
リリーにとってドーラがホームなんだな。
それを知ることができただけでも嬉しい。
「塔の村の皆には、時間はかかりそうだが必ず戻ると伝えてくれ」
「わかった」
「解決にはユーラシアの力を借りることになるかもしれん」
「えっ?」
あたしの力を借りるって、縁談を壊せってこと?
スケベジジイの目が一層嫌らしくなってるがな。
そりゃ縁談デストロイには実績あるけれども。
リリーのお相手は欲得尽くなんだから、説得の余地がなくない?
「リリーが言うなら力は貸すけれども。こっちの様子は時々見に来るよ」
「おお、頼んだぞ!」
何か企んでるみたいだな?
面白そうだから乗ってやろう。
「リリーはこれから何か用事あるの?」
「父様の見舞いと会食だ。ユーラシアは?」
「裏町遊びに行こうかと思ってるんだ」
「予も行っていいか?」
「えっ? いいけど」
ウ殿下がついて来るらしい。
嬉しそうですね。
さすがに裏町は皇族が行くところじゃないだろうからな。
「ではまたの」
「じゃねー。行ってきまーす」
皇宮の門を出るとすぐに……。
「「「ユー子さん!」」」
「おお、ビックリしたよ」
記者トリオでした。
ユー子さんって何だ? 正体明かしてないんだ。後の楽しみにしておくんだな? そゆこと。
といったやり取りを、イシュトバーンさんとの一瞬のアイコンタクトで行う。
「昨日お葬式でしょ? 記事のネタなんかまだあるんじゃないの?」
「いやあ、葬儀ネタで引っ張るのも不謹慎ですし」
「一応の常識があるのか。ゴシップ紙に不謹慎ってゆー概念があるのもビックリだけど」
「一番の話題はルキウス様とリリー様でしたが……」
「プリンスルキウスは朝からひっきりなしにお偉いさん達と会談。リリーは今会ったけど、皇帝陛下の見舞いと会食だって言ってたからもう出てこないぞ?」
「そうですか……ところでユー子さんとウルピウス様はどこへ?」
「裏町へ遊びに行くんだ。記者さん達も行く?」
「ええと、裏町は治安が……」
「あたしがいれば平気だぞ? 殿下がついて来るくらいには」
「「「お供します!」」」
裏町商店街へゴー。




